第6話 兎三兄弟の面談 続き一

「ええ……今日は、前回のウルトラスーパースウィートキャロット騒動により中断していた面談の続きだ。どうだい、その後問題は解決したのかね?」

 ハリィは、小さな手に握られたバインダーから視線を上げ、真ん中の椅子にちょこんと座っている真っ黒い毛並みの次男ウサギ、クロを見た。

「はい! あの後すぐに人間のカウンセラーの男の子に相談しましたから」

「おぉ、それは良かった! ところで、それはどんな解決方法だったのだね?」

 前回の騒動時、隊長ハリネズミモンスターのハリィも良案と思った件を披露した。

 それは、SML各サイズのスーパースウィートキャロットをミキサーにかけ、ペースト状にするというものだった。

 だが、歯ごたえのあるものが好き、という三兄弟の好みを理解していなかった為、その案はあっけなく不採用となっていた。

「まあ、理屈的にはハリィ隊長の案と変わりないですよ。ただ、我々にはムリな技術が必要でして」

 右端の椅子に座る白い毛並みの長男ウサギ、シロがハリィに説明を始める。

「なんと……それは、私にもムリなのかな?」

「はい、隊長にもムリです……おそらく可能なのはホネダさんくらいしかいないかと」

「トケタさんもできるっちゃできるけど、頼みたくないもんな」

 左端の椅子に座る白と黒のぶち模様の毛色をした三男ウサギ、ミックが苦笑いを浮かべる。

「トケタ君は確かゾンビモンスターだったねぇ……ミック君、彼には頼んだらダメなのかね?」

「ダメです! 絶対にダメ! たとえ包丁が握れても衛生的にムリです!」

 ミックはハリィに向かって、一気にまくし立てた。

「あぁ、なるほど包丁を使うのか……ということはウルトラスーパースウィートキャロットを包丁で切るということだね、なるほどなるほど……となると衛生的にトケタ君はムリか……まあ、彼は腐っているのが個性だし、それが敵にも効果的だしねぇ」

 ハリィはうんうんと頷きながら言った。

「トケタさんの体臭は、敵だけじゃなくて我々にも効果てきめんですよ。特に蒸し暑い日なんてもう……それに俺ら動物系モンスターは基本、鼻がききますのでね……トケタさんと話すのに、息を止めているうちに気絶することもたまにありますよ」

 はぁ、とミックはため息を吐いた。

「性格は悪くないんですけどね」

「そうか、それはなかなかに骨が折れそうだな……ところでホネダ君は、今後もこころよくウルトラスーパースウィートキャロットの切り分け役を引き受けてくれそうかね?」

「はい! あのカウンセラーの子が、次に来る時はホネダさんにエプロンをくれると約束してくれて……ホネダさん、めっちゃ嬉しそうでした」

「よし、ルシェ君にカウンセラーを頼んだ私の目に狂いはなかったな……では、前置きが長くなってしまったが面談を始めよう。私が確認したいことは二つある」

 ハリィは長男ウサギ、シロを見た後で手にしたバインダーに視線を落とした。

「まず一つ目は特技。そして二つ目は将来の夢だ」

「夢? それを聞いてどうするんですか?」

「シロ君、叶えたい夢があるのとないのでは、働き甲斐に大きな差が出るのだ! 夢があるとやる気も上がるしな!」

「そういえばこの間レオがぶつぶつ言ってたな……『おれはアイドルなんて目指したくないのに……』って……あれ、なんの話の流れでそうなったんだ?」

 次男ウサギのクロは先日、ハリィとの面談後、肩を落とすオレンジスライムのレオの姿を思い出していた。

「そうですか……えっと私の必殺技は飛び蹴り、特技は逃げ足が速いこと……夢は強くなることです」

 隣と隣の隣にいる弟ウサギ、クロとミックはそろって兄を凝視した。

「知らなかった……兄さんが強さを求めていたなんて……」

「知らなかった……兄さんの逃げ足が速いなんて……」

「そうか、シロ君は強くなりたいのか……ならば昇格テストの受験を、具体的な目標にしてみるのはどうかな? レベルアップすると、見た目もかっこよくなるし、ランクが上のダンジョンに配属されるようになるだろう」

 ハリィがバインダーにさらさらと文字を書きつけながら言った。

「な、なるほど! ところで、見た目が変わるとはどのように変わるのですか?」

「そうだな……例えばユニコーンのように額に角が生えたり、ペガサスのように背中に翼が生えたり……かな?」

「なんと! 私、それを目指します!」

 シロはつぶらな赤い瞳を輝かせた。

「そんなにうまくいくもんかねぇ……」

「もしそうなったら、なんだか兄弟じゃなくなるような気がする……」

 クロとミックは微妙な表情で、すっかり浮き足立っている兄を見つめていたのだった。

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