第4話 面談その3 ドリィの場合

「では次! ドリィ君! 君の必殺技は何かね?」

 すっかりレオの気分を萎えさせた隊長、ハリィは張り切って声を上げた。

 ハリィは、つぶらな黒い瞳が愛くるしいハリネズミ風モンスターだ。

 だが、その性格は愛くるしくない。形容するならば、暑苦しいが妥当だろう。

「はい……ぼくはその、一応毒持ちスライムなので、毒です」

「ほうほう……それはどうやって使うのかな? 相手の目に向かって飛びかかるとか?」

「いえ……そんなえげつない事はしません」

 ドリィはそう言いつつも、なるほどそんな使い方もあったな、と内心でメモを取った。

「ふむ、そうか……まあ、我々低レベルダンジョンは、少ないリスクで少ない経験値と少ないお金をコツコツ貯めよう、がコンセプトだからな……あまり真剣に相手への攻撃を考えるのは良くないな」

 ふむ、とハリィは顎に小さな手を当てて頷いた。

「なんだ、せっかくいい案だと思ったのにな……」

 ドリィは残念そうに呟いた。

「ちなみにドリィ君にさわると、どれくらいのダメージがどのくらい続くのかね?」

「最初はピリッとした感じの痺れがあって、時間が経つほどに痺れが全身に広がり、やがて高熱、嘔吐、痛みが出始め、一週間であの世行きです」

「……意外とえげつないのだね、君の得意技は……」

 微かに眉根を寄せながら、ハリィはバインダーの紙にさらさらと文字を書きつけた。

「まあでも、解毒用の草をもれなく渡していますから、心配ご無用ですよ」

 ドリィは照れたように笑って言った。

「それに解毒薬は、人間の市場や道具屋、雑貨店等でも手に入りますしね……まああまりに時間が経ちすぎると、効くかどうかわかりませんけど」

「なるほどな……使うタイミングが非常に大事……っと……そのことは、相手にきちんと伝えているのかね?」

「戦闘中にそんな余裕あるか?」

 レオがぶつぶつとハリィにツッコミを入れる。

「あっ、それはしていませんでした」

 ドリィはハッとしたような表情かおになった。

「そうか、それは大事なことだから確実に相手に伝わるようにせねばならんな……解毒草と説明書をセットにするとかな」

「な、なるほど! それはいいアイディアですね!」

「えぇ……めんどくさくないか、それ……」

 ハリィのアイディアを嬉々として受け入れようとするドリィに、レオは呆れたような視線を向けた。

「ダンジョンの入り口にでも、看板立てときゃいいじゃん」

「いや、それだと見落とす可能性がある。セット方式の方が確実だ」

「あっ、そう……」

 レオの提案はドリィにあっさりと却下された。

「では、そろそろ将来の夢を聞こうかな?」

「はい、夢は健康で長生きすることです」

「おぉ、それは素晴らしい夢……目標だ! それを達成するにはどうしたらいいと思う?」

 ドリィは、ハリィの問にうーんと考え込んだ。

「ストレスを貯め過ぎないとか……趣味を持つとかですかね?」

「ストレス……」

 ドリィが出した答えを耳にしたレオは、思わず呟く。

「おれ、この場にいるのがストレスだわ……」

「うーむ、やはり先程レオ君に提案した新しい必殺技は需要がありそうだな!」

「えぇ⁉」

 レオは矛先が自分に向いたのを感じ、焦りを抱いた。ドリィがじっと向けてくる視線が痛い。

「嫌だよ、おれは! 歌唄ったり踊ったり面白い話して誰かを笑わせたりするなんてさ!」

「あ、踊るのいいじゃん」

「⁉」

 レオは、真面目な表情かおで乗り気の発言をするドリィに愕然がくぜんとした。

「まあまあ、その案はもう少し詰めるとしよう……修行を積むにしても仲間がいたほうが、励まし合ったり競い合ったりできていいだろうからね!」

「はあぁあ⁉」

 満足げに頷きながらメモをとるハリィに、レオはがっくりと肩を落としたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る