第3話 面談その2 レオの場合

「えぇ、ゴホン。さて、これから面談の本題に入る」

 小さな体のハリネズミ風モンスター、ハリィが堂々と胸を張って言った。

 その表情は、とても晴れやかなものだった。

 ホネダの為に準備した物が、本人にたいそう喜ばれたからだ。

「前置きが、どピンクのロップイヤーバニー着ぐるみってどうなのよ?」

 どぎついオレンジ色のボディを持つオレンジスライム、レオが隣のドリィにヒソヒソと話しかけた。

 ドリィは緑色の体をした、毒持ちスライムだ。

「まあ、いいんじゃない? ホネダさん気に入ってるみたいだし、もう既に着てるし」

 ドリィは隣のピンク色の塊を見た。

 おどろおどろしい元の姿がまったく想像できないほど、ホネダはどピンク色のロップイヤーバニーだった。

「ぜんっぜん迫力ねぇな……いや、流石に戦闘時には脱ぐだろうけどさ」

「着ぐるみって、なんだか脱ぎにくそうだから、緊急出動かかった時は困りそうだよな」

 レオとドリィは色々と考えてみるが、当のホネダの視線は隊長であるハリィに注がれたままだ。

「面談で皆に聞いているのは、各々の得意技と将来の夢についてだ!」

 ハリィは小さなバインダーに小さな紙を挟み込み、小さなペンを手にして言った。

「得意技と将来の夢……なんて前向きな」

 レオが微妙な表情かおでハリィを見る。

「では、オレンジスライムのレオ君! 君の得意技はなにかね?」

「はい、得意技は体当たりです! というか、体当たりしかできません!」

 レオは元気よくハリィの問に答えた。

 だが、の部分に、バインダーの紙に書き込むハリィの手が止まった。

「そうなのか……では、レオ君の課題は新しい技を身につけることだな」

 ふむ、とハリィは顎に手を当て頷いた。

「新しい技⁉」

 レオとドリィは同時に声を上げた。

「まさかそうくるとは……レオに厳しい訓練でもさせる気なのか?」

「いや、おれ、そういうスポ根路線無理なんだけど」

 レオは嫌そうに眉根を寄せる。

「ううむ、なにが良いかな……そうだ! レオ君は元気がいいから、歌唱力やトーク力を磨いたらどうかな?」

「歌唱力⁉」

「トーク力⁉」

 ハリィの提案に、レオとドリィは口々に叫んだ。

「それ……相手になにか効果あるんですか?」

 ドリィが尋ねる。

「うむ、相手への効果はだな、油断させること、それにうまく行けばプロデビューへの道も拓けるかもしれん」

「プロデビュー⁉」

 レオとドリィは同時に叫んだ。

「プ、プロデビューって……何の話ですか……」

「もちろん、芸能界だ!」

 ハリィはレオからの問に即答した。

「げ、芸能界……」

 レオはあんぐりと口を開ける。

「心地よい歌心はやさぐれた心を穏やかにする。それに、笑うことは免疫力をあげるのだ!」

「いや……もう既におれの免疫力だだ下がりですけど……」

 ぐったりして肩を落とすレオを、ドリィは気の毒そうに見た。

「まあ、とにかく少し考えてみたまえ! えぇと、次は将来の夢だが」

 ハリィはバインダーの紙になにやら書きつけ、次の問を口にする。

「夢……うーん、世界一周旅行とかかな……あまり夢とか考えたことなかった」

「叶えたい夢があるとな、仕事にも精が出る。なにがあっても挫けず頑張ろう! と思えるものなのだ!」

「いや……おれ、スポ根は無理……」

「いい夢ではないか! ちゃんと書いておく! しっかり働いてお金を貯めて、世界一周旅行に行きたまえ!」

「……言わなきゃ良かった……」

 レオはぽつりとこぼした。

 ドリィはその横で、迂闊うかつなことは言えないと妙な汗をかいていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る