第2話 面談その一
「今日はオレらの番だな、新しく来た隊長との面談」
どぎついオレンジ色のボディをぷるぷると震わせながら、一匹のスライムが隣の緑色のスライムに話しかけた。
「うん。三匹一組で面談だったよな……オレとお前と、あとホネダさんだったっけ?」
話しかけられた毒々しい緑色のスライムが、やはりぷるぷるとそのボディを震わせながら言った。
二匹は面談会場である、広場を目指している。
広場には三つの椅子が横並びに並べられ、それらと向き合うように一つの椅子が置かれていた。
「あ、ホネダさんいたいた! お疲れ様でぇす」
オレンジ色のスライムは元気よく、既に椅子に座っている骸骨一丁のモンスターに挨拶した。
「カタカタ」
骸骨一丁モンスターは二匹に気がつくと、そちらに向き直りかたかたと顎の骨を震わせた。
「相変わらず、言葉を喋ってるのか単に骨がぶつかり合って音がなってるだけなのか、よくわからないな」
緑色のスライムがぼそりと言った。
「まあ、どっちでもいいんじゃない? あ、隊長が来たぜ」
オレンジ色のスライムと緑色のスライムは慌てて椅子に座る。
「よし、揃ってるな」
先日着任したばかりの隊長は、小さな黒い瞳が愛らしいハリネズミ風モンスターだった。その小さな手には小さなペンとバインダーが握られている。
「まずは挨拶からだ。あらためて自己紹介する。この低レベルダンジョンの長になった、ハリネズミ風モンスターのハリィだ。レベルは知っていると思うが、ななてんななななだ! よろしく頼む!」
ハリィは誇らしげに胸を張りながら言った。
「よろしくお願いします」
「カタカタ」
二匹のスライムと骸骨一丁モンスターはペコリと頭を下げた。
「うむ。まずは名前の確認をする! オレンジスライムのレオ君!」
ハリィは手元のバインダーを覗き込みながら名を呼んだ。
「はい!」
「……君はとても元気が良くてよろしい。ボディカラーもどぎついオレンジ色でビタミンカラーだ。ダブルで元気が出る! 今後もそれを活かしたまえ! では次」
ハリィはうんうんと頷くと再びバインダーに目を落とした。
「毒持ちスライムのドリィ君!」
「ハイ」
「うむ、君は冷静で理知的な印象だね。見た目も深い緑色で癒やしカラーだ。今後も疲れた我々を癒やしてくれたまえ! では最後に……」
ハリィ隊長は骸骨一丁モンスターを見ると一瞬黙り込んだ。
「……君はホネダ君だね? 実は君には聞きたいことがあったのだよ」
ハリィは小さくつぶらな瞳で、じっとホネダの目のくぼみを見つめた。
「カタカタ?」
「君、寒くないかね……その格好で」
「!」
「!」
レオとドリィは揃ってホネダを見た。
「え? 寒いですかね?」
レオは黙っていられず、つい口を開いてしまう。
「ホネダさん、前からずーっとこの格好ですよ?」
ドリィもハリィに説明する。
「うむ、君達スライムには骨がないからわからないかもしれないが、肉の内側に骨を持っている私から見ると、ホネダ君はどうも寒々しく見えてな」
ふむ、と顎に手を当ててハリィは言った。
「カタカタ」
「……君、ホネダ君はなんて言っているのかね?」
「いやすみません、ホネダさんが何を言っているのかは我々にもわかりません」
ハリィから問われたドリィが答えた。
「そうなのか……実はホネダ君には試してもらいたい物があるのだ」
ハリィはバインダーとペンを横に置き、肩に掛けていた小さなショルダーバッグから更に小さなトランシーバーを取り出した。
「もしもし、応答せよ。こちらハリィ……そうだ、例の物を持ってきてくれたまえ」
「なんだろ……襟巻きとかかな?」
トランシーバーでやり取りするハリィを見ながら、レオがコソコソと隣のドリィに言った。
「まあ寒そうだって言うんだから、なにか暖かくなるものだろうな……カイロとか」
「やっぱりオレたちスライムには、そういった配慮はないんだな」
「オレたちスライムは、寒かったら凍るだけだし、熱かったら溶けるだけだしな……あ、カタイさんがなにか持ってきたぞ」
視線の先には、なにかピンク色のものを載せたワゴンを押すゴーレムの姿があった。
「ありがとう、カタイ副隊長」
「トランシーバーの相手はカタイさんだったのか……しかし、あのピンク……濃いな。オレのボディカラーに引けを取らないくらいだぜ」
レオは嫌な予感に眉根を寄せた。
三匹の前で、カタイはワゴンの上のピンク色のものをつまみ上げた。
体長の小さなハリィでは、一六〇センチあるホネダ用の服をつまみ上げられない。カタイは全長一七八センチある。
「こ、これは……バニーちゃんの着ぐるみ?」
レオは固唾を飲んでそれを見つめた。
ピンク色のモフモフ。頭巾部分にはウサギをイメージさせる長い耳がだらりと下がっている。
「耳が垂れているからロップイヤーバニー着ぐるみだな。どうだ、たいそう可愛らしいだろう? このデザインだと腹も出ないから冷えないしな!」
ハリィは目を点にしているレオとドリィに向かって、得意げにニヤリと笑って見せた。
「いや、可愛いは可愛いですけど……着るんですか、これ?」
レオがハリィに訊ねる。
「まあ、無理にとは言わない。ホネダ君が気に入るならどうかと思っただけだからな」
ハリィは腕を組み、カタイが持ち上げている服を満足そうに見上げた。
「ホネダさんはどうするんだ?」
レオとドリィが見守る中、ホネダは椅子から立ち上がりカタイに近づいていく。
「カタカタ〜!」
ホネダはピンク色のモフモフ着ぐるみに頬擦りをし始めた。
「……なんか嬉しそう」
「……気にいったみたいだな」
「よし! これはホネダ君の為に用意した甲斐があったというものだ! ハッハッハ!」
ハリィの高笑いが、微妙な空気の流れる面談用広場中に響いたのであった。
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