うぇるかむとぅざだんじょん☆ようこそわがだんじょんへ☆

鹿嶋 雲丹

第1話 新しい隊長がやってきた

「おい聞いたか? 今度来る隊長、すんごく強いらしいぞ」

 どぎついオレンジ色をしたスライムが、体をぷるぷると震わせながら言った。

「えっ、マジで? じゃあ怒られないように気をつけなきゃ!」

 その隣でぷるぷると震える、毒々しい緑色をしたスライムが困惑した表情を浮かべる。

 このダンジョンの会議用広場に全員集合の知らせが出ていたのは、新しい隊長が赴任してくるからだった。

 二匹のスライムは共にその広場に向かっている。

「前の隊長は体デカかったよな……」

「まあそりゃあ、ゴーレムだったからな」

「いいよなあ、大きいってさ……それだけで威圧感あるじゃん」

 オレンジ色のスライムはため息を吐いた。

「まあ、それが通じるような相手ならな。このダンジョン超低レベルに設定されてるから、ゴーレムだろうが冒険者にめっちゃやられてるじゃん。前の隊長が引退したのもそれが原因だろ?」

「うん……再生可能限度数にリーチかかったらしいな」

「あぁ……ゴーレムにはそんなのがあるのか……おれらスライムにはないな、それ」

「そっ。だから永遠に働かされるわけ。損だなあ、スライムって」

 目的地である広場に辿り着き、二匹はそろってため息を吐いた。

「よぉお二人さん、なんだい揃ってため息なんか吐いちゃってさ」

 そんな二匹に話しかけてきたのは、赤い瞳をした野ネズミ風モンスターだ。

「そういう君は随分機嫌が良さそうだ。どうしてなんだい?」

 緑色のスライムは訊ねた。

「そりゃそうさ! なんてったって、今度の隊長は俺の同胞なんだからな!」

 えっへんと小さな胸を張り野ネズミモンスターは言った。

 野ネズミモンスターの体はスライムより小さい。

「同胞? てことは、新しい隊長は野ネズミ風モンスターなのか……」

「いや、野ネズミではないらしい。だけど、なんとかネズミって言ってたから同胞だ」

「ふうん、なるほどなあ……あ、そろそろ時間だ」

 周りには三十匹ほどのモンスターが集まっている。この低レベルダンジョンに勤める全モンスターだ。

「あ、えぇ、ゴホン」

 わざとらしい咳払いと共に、薄黄色の小型龍モンスターが前方に現れた。魔王からの使者である。

「今日からこのダンジョンに着任する新しい隊長だ」

 三十匹のモンスターの前に威風堂々と現れたのは、一匹のハリネズミ風モンスターだった。黒くて小さな瞳はつぶらで非常に愛くるしい姿だった。

 会場ではどよめきが広がる。

「おい、隊長おれらと大きさ変わらないじゃん」

 オレンジ色のスライムが隣の緑色のスライムにヒソヒソと言った。

「おいそこ、うるさいぞ!」

 シュヒン!と鋭く風を切る音が二匹のスライムの間を駆け抜ける。

「え、なんだ?」

「おい、オレに刺さったぞ……」

 スライムが後ろを振り返ると、そこには身をかがめて脛に刺さった棘を抜こうとするゾンビ風モンスターの姿があった。

「あ、針か……ハリネズミ風だから」

 なるほど、と隊長を見れば、両手に自身の背中の針を持ってこちらを睨んでいる。

 スライムは口をつぐんだ。

「諸君、私が今日から君達の上官となるハリネズミ風モンスターのハリィだ。よろしく頼む。ちなみに私のレベルはこれを見たまえ」

 ハリィと名乗った隊長は、胸につけた勲章を裏返した。そこには数字の七が三つ並んでいる。

「な、ななひゃくななじゅうなな!」

 会場に集まった全モンスターが震え上がった。

 この低レベルダンジョンのモンスターレベルは、全員一〜五だからだ。

「あ、あまりにレベルが違いすぎる……」

 モンスター達は真っ青になって言葉を失った。

「ん? あぁ違う違う、よく見たまえ諸君……と言ってもそこからじゃ見えないか……」

 隊長はブツブツと言い、声を張り上げた。

「私のレベルは、ななてんなななな。つまり、君達と大して変わらんのだ、安心したまえ!」

 その場の空気がしんと静まり返った。

「しょ、小数点かよ……」

「えぇ、ゴホン。では紹介はこの位で。各自持ち場に戻るように! 以上!」

 魔王の使者の鶴の一声で、微妙な空気の流れるその場はお開きとなったのだった。

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