第九話「銀河系ヒール」
――勇者・桐生直人はベッドに仰向けに寝かされていた。
純白の天井に目を射す蛍光灯の光。
傍らには白衣に身を包んだナース姿のデュランダルの魔法士が寄り添っている。
スライムに切り裂かれた脇腹に、ヒール魔法を掛け続けているのだ。
……一口にヒール魔法と言うが、実際に行われていることは、魔法士も患者も根気のいる骨の折れる作業だった。魔法士は魔法を起動して、患者の体内の正常な細胞のコピーを行い、切断などで損なわれた器官に繰り返し定着させる行為を行っているのである。
一度定着すれば、ヒール魔法により活性化した細胞が、本来その場所にあった器官の細胞へと自動的に変容を遂げて行くのだ。
魔法医師の間では外科ヒール・又は修復ヒール等と呼ばれている治療方法である。
直人は痛みに悶えながら、繰り返し妹の安否を医師に問い続けていた。
「妹は……唯は大丈夫ですか?」
「妹の容態を教えて下さい!」
「妹は苦しんでいますか?」
二言目には妹の容態を気遣う直人に、ヒール魔法を掛け続けている
「ですから先程も言ったでしょう……勇者・桐生直人君」
「妹さんの容態は回復に向かっていますよ」
「ですが絶対安静であることに変わりはありません。底が見えたヴリルが回復するまでお兄さんにも合わせる訳には行きません!」
……その話は確かに聞いてはいるが、直人が知りたいのはたった今の唯の容態なのだ。
変態と揶揄されても構わない……実際変態だし……シスコンと揶揄されても構わない……勿論俺はシスコンだ!……とにかくたった今の唯の姿をライブ映像で見続けたい……唯を心配する余り、直人はそんなことを考えていた。
直人は妹を失いかけたことで、得も言われぬ恐怖に捉われていたのだ。自分が世界から見放されて永遠に一人ぼっちになってしまう……肉親を失うことへの恐怖だった……直人はそれを気取られない様に冗談を言った。
「俺は妹の顔を半日見ないとガス欠で死んでしまうんですよ……」
「妹欠乏症でね!」
「あらあらあら……やっぱりそうだったのお?」
「重度のシスコンで、妹を目で犯すという噂は……噂ではなかったのね……」
そう言うと美晴医師は口元に冷笑を湛え、寝たきり状態の直人を冷ややかな目で見つめた。
美晴医師は金髪サラサラロングヘア―で切れ長の目を持つド美人で、直人にとってドストライクなお姉様だった! 唇に塗られた紫色のルージュがやけに艶めかしく色っぽい……
種族維持本能という奴だろうか? 今直人は妹と同じくらい美晴医師のことが気になって仕方が無かった。
昨晩はスライムに殺されかけて、今でも体調は絶望的に優れない。
脇腹のズキズキとした身悶えを伴う痛み、肺の苦しみ、吐き気、全身の疲労……それらが混然一体となって、種族維持本能に拍車をかけていた。目の前の美しい女性を自分の物にしたい! という支配欲に駆られるのだ。或る意味妹がここにいなくて良かったと思うド変態の直人だった……
美晴医師はそんな状態の直人を見つめて、何故だか嬉しそうに口元に冷笑を湛え続けている。
直人は一瞬ためらった後、やがて思っていたことを口にした。
「やっぱりおかしいですか? 初戦でスライムに殺されかけた勇者なんて……」
直人はあの戦いに関して、客観的な意見が聞きたくなったのだ。
その言葉に美晴医師は、キョトンとした表情で直人を見た。
「私が笑っているのは只……」
「只……何でしょうか?」
「只、胸をはだけた若い男が、セクシーに身悶えするのが嬉しいだけよ♡」
「そ~~んな姿を見ていると……」
……見ていると!?
直人は心の中で恐る恐る質問をした……
「もっと苦しめたくなっちゃう♡」
「うっ!」
直人は思わずベッドの上で仰け反り唸り声を上げた。
……こいつSだ!
たぶん筋金入りのS……つまりドS!!
何てことだ! こいつも変態に違いない!? デュランダルで働く他の変態達と同様に!
直人の中で種族維持本能が急速に萎えて行った瞬間だった……
それにしても……変態総人口の多いブラック企業で働くということは、一〇代の若者にとって一体どうなんだろうか!?
直人は自分の身を案じると同時に、誰よりも唯の身を案じていた。
そのお……つまりだよ……アレに関して特殊な方向へ開発されちゃったり、はたまた自分で開発しちゃったりしないだろうか!? どうせ誰かに開発されるなら、妹は俺の手で開発してやりたい! 種族維持本能の暴走した直人のシスコン性癖は、留まるところを知らなかった……
それにしてもデュランダル……道徳的な意味でもブラックな危険極まりない企業だ……許さないぞっ!
心の中で突っ込みを入れた直人だったが、妹の超・要注意人物が兄の自分自身であるいう事実を彼は忘れていた……
「と……とにかくヒール魔法は掛け続けて下さい……お願いします!」
直人は飢えた薬物中毒者の様にヒール魔法を渇望していた。
全身を貫く痛みで今にも意識が飛びそうだったのだ……
「まあ……仕事ですので仕方がないですね」
美晴医師は医師として聞き捨てならないセリフをサラッと言ってのけた。
直人のはだけた胸元に、白く長く美しい指をかざし、どさくさ紛れに乳首を摘まむ。
「ひうっ!」
美晴医師の全身から、鮮やかなピンク色のオーラが迸った。
見る人が見たら、夜の繁華街のドスケベなネオンサイン以外には見えないに違いない……少なくとも直人にはその様にしか見えなかった……
「もう……しょうがないお兄ちゃんですね……」
美晴医師の指先から直人の乳首を介して、癒し系のヴリルが容赦なく注がれて行く。
裏で彼女の”必殺技”と囁かれている乳首を介した接触ヒールが炸裂した瞬間だった。
「はううううううううううううううううううあああああああああああああ―――――――!!」
「さあ! どう? 勇者・桐生直人君。美晴特性“乳首ヒール”のお・味・は♡」
間接ヒールに比べて、肉体的接触を持って行う直接ヒール……その効果たるや半端なものでは無かった……しかも美晴医師は直人の敏感な所を摘まみながら……詳細を明かせば、指で勃起した乳首をグリグリと刺激しながらヒールを行うのだ……乳首の愛撫に一体何の効能があるのかは全く持って不明だが……
指先から直接注がれる嫌らし系……もとい癒し系のヴリルの総量は直人の想像を絶していた。
「さあ? どうするの!? 桐生直人君?」
「先生にもっとして欲しいの?」
「ひううっ! も……もちろんです! 先生……」
「じゃあ先生にもっとおねだりしなさい」
「もっとしてって!」
「いっやらしい~~顔でおねだりするのよ♡」
「つ……続けて……美晴先生」
その瞬間美晴医師の表情は凍り付き、乳首をなぶる様にいじっていた手が止まったのだった。
「続けて“下さい”でしょ! おにいちゃん♡」
「……………………………………………………」
……コイツ! 鉄板のサドだ!!
直人はありったけの理性を振り絞り、何とか抵抗を試みた。
「い……言うもんか……医師には……患者を治す…………義務がある…………筈だ……」
ここで美晴医師の軍門に下ったとあっては兄としての威厳に関わる。兄貴たるもの、妹に見せられない恥ずべき行動はどんな時でも取ってはならないのだ……
「ふ~~ん。そんなこと言うんだ……それなら、こんなのはどうかしら♡」
そう言うと美晴医師は、注入するヴリルの総量を上げた。
美晴の白く細長く何よりも嫌らしい指先が超高速で可動する。
「は……はうううっ……」
美晴の指先からピンク色の閃光が迸った! 病室の真っ白で清潔感のあった筈の部屋が、今では美晴医師の嫌らし~~いピンク色のオーラ一色で染め上げられていた!
大人の持つ濃密なエロスの世界がそこにあった……
妹の顔を思い描きながら何とか保っていた兄の理性は、ここであっさりと崩壊した……
「もっと……もっとして……下さい……先生」
「なあに? 聞こえなかったわ……直人君♡」
「もう一回、おねだりなさい! お・に・い・ちゃん♡」
「くっ! もっと……」
「もっとして下さ――――――――い! 美晴お姉様――――――――!!」
いつの間にそうなっていたのかは思い出せない……
気が付くと、美晴医師は直人の上で馬乗りになっていた。
その状態で直人の両方の乳首を摘まみながら、ヴリルを充填していたのである。
美晴医師は直人の言葉に数回頷くと満足したのか? 注ぎ込むヴリルの総量を更に上げ、自信満々に言い放った!
「勇者・桐生直人君、感謝なさい!」
「私の接触ヒールは奇跡を起こす! 私に癒せないものは宇宙の万物には存在しない!」
そう言う美晴医師の目は神々しく、一点の嘘も付いていない様に思われた。
一瞬彼女が聖女の様に見えた直人だったが、自分の乳首が摘ままれていることを思い出し即座に考えを改めた……
「そして……」
「皆、私無しでは生きて行けなくなるのよ!!」
「え―――――――――――――――――!?」
美晴医師の全身から禍々しい夜の繁華街のネオンサインにしか見えないドスケベ極まりないオーラが迸った!
白亜の白壁がショッキングピンク一色に染め上げられて行く…………
「はうあ―――――――――――――――――――――――――――!!!」
左右の乳首から圧倒的総量のヴリルが雪崩れ込んで来る。
ヴリルの洪水がそこにあった!
――直人の目にどこまでも広大に続く銀河系宇宙の拡がりが見えた。
深い……底の見えない漆黒の闇……その暗黒を背景として、無数の数えきれない量の星々が瞬いている。色彩の洪水! 考えうる限りの色絵の具がぶちまけられている様だった。
そこに……一糸纏わぬ姿の直人と美晴医師がいた……
直人は美晴医師に跨られた状態のまま、素っ裸で宇宙遊泳を行っていたのだ。
宇宙の大いなる力が身体に流れ込んで来る。
まるで宇宙からギフトを受けている様だ。
多幸感が全身を包む。
直人は乳首を介して美晴医師と、何より銀河系宇宙と深く繋がっている様に感じていた……
そうだ!
俺は……
人類は……
決して孤独な存在ではない!
…………ちょっと。
……ちょっと待て!?
何だ!?
何なんだ!?
このイメージは???
自分は幻覚でも見せられているのか!?
……今直人と美晴医師は、生まれたままの姿で漆黒の宇宙空間の中にいた。
背後には以前にも増して無数の星々が輝いている。
そんな壮大な背景を背に、直人は美晴医師に馬乗りの状態のまま、乳首をしごかれ続けている……
……これは美晴医師の魔法!? なのか???
これ以上進むと何だか後戻りできない気がする……色々と……
直人は必死の思いで美晴医師に問い質した。
「これは! これは一体何なんですか? 美晴お姉様!」
美晴は上気した顔で直人を真っ直ぐに見つめながら言った。
「これは……銀河系ヒール……」
「宇宙空間に無限に存在するヴリルを、私を触媒にしてあなたの中に流し込んでいるのよ……あなたの嫌らしくて嫌らしくて仕方がない、ビンッビンッの乳首を介してね♡」
「気分はどうかしら? 勇者・桐生直人君♡」
「しゅ……しゅごしゅぎます!」
直人は興奮の極みで言葉を噛み、正確に日本語を話すことがままならなくなっていた……
「このまま続ける? それとも止めちゃう?」
「……………………………………」
「言わないと~~止めちゃうぞ~~♡」
直人は一瞬の躊躇の後、言い放った。
「続けて……美晴お姉様!」
「続けて下さい! 美晴お姉様でしょ!」
問答を続けている間、直人の傷口がぶり返す様に疼いた……
「ひいぃ―――――――――――――、つ……続けて下さい――――!」
「美晴お姉様―――――――――――――!!」
……兄としての、何より勇者としての威厳が完膚なきまでに崩壊した瞬間だった……
「よかった♡ じゃあ、やっちゃうよ――――♡♡♡」
その直後、直人の全身に電流が走った。
乳首一点に……この場合は二点と言うべきかもしれない……全宇宙の生命エネルギーであるヴリルが激流の如く雪崩れ込んで来たのだ……
圧倒的な量のエナジーに身体が貫かれて行く。
まるで大瀑布の下で滝行でもやっている様だった。
「あっひいいいいいいいいいいいいい―――――――――――――――――――――――――――!!!」
直人は断末魔の雄叫びを思わせる咆哮を上げた。
もう何が何だか分からない…………
――こうして直人の意識は、美晴の銀河系ヒールの前にあえなく途絶えたのだった。
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