第6章 迷える子猫

揃って引退、そこまで一緒

オリンピック連覇を果たした蒼唯。夢でもあった目標を果たしてとても清々しい気持ちになっていた。テレビではニュースのスポーツコーナーに出演されてもらったりバラエティーにも引っ張りだこで金メダルを見せて欲しと言ってもらえる機会が増えた。


それだけでなく、ラジオや雑誌の取材も今までよりも増えてきてアーチェリーというスポーツの知名度アップに繋がっていたのかなと感じていた。それだけでなく、お手紙や横須賀食品アーチェリー部の問い合わせで三島蒼唯宛に老若男女問わずメールが届いていた。


内容は競技を頑張って欲しいと応援メッセージから会社の悩んでいてどうすればよいかという人生の相談まで多種多様だった。


全て横須賀食品アーチェリー部にメールでいいのか。三島蒼唯個人に関することなら自分宛に届くようにした方が良いのではないかと考える。だからといってラインを載せてはイタズラで送る人も少なからずいる。


お金を払ってアプリを取ってとなると学生には難しい、ならばプライベートとは別のフリーアドレスを作ってそこに応援メッセージや相談として送ってもらおうと考えた。


夢を叶えたことにより人生の分岐点に立つ。

それは生涯現役として貫くのか、それともアーチェリー選手としてまばゆい姿でカッコイイ選手のイメージのまま次のステージに進むのかを考えていた。


ずっと頭の中に描いていたのは弓道やアーチェリーを普及して後世を育てていくこと。それと併せてブラック企業で働く人たちを泣き寝入りしないように非営利団体を作ること。その両方をすることなど出来るのだろうか。


そのためにアーチェリー選手の傍ら対面やリモートで多くの人と会おうと心掛けてはいたが結局練習や試合が忙しくて日程が合わなかったりと両立出来ていなかった。まだまだ身体は元気だし、現役を続けたい気持ちもある。


コンビニから帰ってきた里奈ぴょんに将来の夢は何かを聞いてみる。するとアーチェリーの普及と後世を育てたい。

蒼唯と里奈ぴょんは同じ気持ちなのか、ならば一緒にいれば心強いが他人の人生を左右させる訳にはいかない。


いつになるか分からないけど蒼唯は現役を引退してアーチェリーの普及と後世を育ててブラック企業を救うために非営利団体を立ち上げたいと自分の今後のことを里奈ぴょんに話していた。


それはいい夢だね。里奈もその夢に加われたら嬉しいな、いつの日かまた一緒にお仕事が出来る日がいいな。あおいたんが現役を辞めるのは寂しいけどその時は伝えてね。


フリーアドレスを作ってブログを開設をして挨拶をした上で今後についてどうするか考えているかを記した。沢山のコメント、メールが届くようになって続けて欲しいと多くきていた。


年の瀬に近づいていることもあって年内限りで引退することを里奈ぴょんとコーチに伝えた。翌日にマスコミに伝えて引退することを発表をしてこれからはアーチェリー界の知名度アップと後世の育成に尽力したいことを伝えた。


横須賀食品も退社してまっさらの状態から頑張ろうと決断をする。その翌日、里奈ぴょんも現役引退を発表して蒼唯と同じく横須賀食品を退社することを決めた。


蒼唯と違って仕事もしている里奈ぴょんは辞めていいのか、どうするのかなと自分のことをさておいて人の心配をしていた。


ご令嬢

ここから始まったアーチェリー人生、辞めるのもこの寮から去るのは寂しいと思いつつ眺めていた。あおいたん、里奈に付いてきて。同部屋でスゴくお世話になったし。


隣には何故か里奈ぴょんの姿があり、唐突に付いてきてと言われてどこか行くアテもないために付いていくことにする。どこに連れて行こうとしているのか、そういえば前に実家が近くだと言っていた記憶が微かにある。


歩いて数分、寮の部屋から見えていた煙突が見えてお城みたいな佇まいの門に来て里奈ぴょんは足を止めて呼鈴を鳴らして「里奈お嬢様、お帰りなさいませ」と扉が開く。


里奈お嬢様って……。ウソ?今まで失礼な対応していなかったか、蒼唯が踏み入れていい場所なのか。とりあえず会う全ての人に謝らなければならない。キャリーバッグを引いているが土足で入らないように靴を脱いで歩こう。


広すぎて中々入口に辿り着かず、しばらく歩いてやっと入口に着いて中に入る。靴を脱ごうとすると里奈ぴょんがここは欧米じゃなくて日本だから土足でいいよ。気にしないでと周りには高そうな絵画や骨董品が所狭しと並ぶ。


居間に案内をされて高級インテリアショップのソファーがいくつもあって住んでいる世界が違いすぎて蒼唯としてはもう帰ろうかと考えていた。


あおいたんゆっくりくつろいでね。お腹空いたし何か食べようと指バッチンで誰かを呼ぼうとする。だが誰も来ないと備え付けられている電話で小腹が空いたらから何か居間に持ってきてと抽象的なお願いをしていた。


何か出してくれるみたいだからいただこうかな。食べ終わったら住むところを探しに行こう。住所がないとアルバイトも出来ないしお金がなければブラック企業で働く人たちを救うこともアーチェリーの後世を育てるのも難しい。


何が出てくるのかとワクワクする蒼唯、期待を上回る品々が続々と運ばれてくる。フカヒレ、肉寿司、フォアグラ、トリュフ、キャビア、いくら、ウニと高級食材がお昼から陳列される。


少しずつ食べていて満足になって帰ろうとしていた。

あおいたん行くところないならしばらくここにいなよ。余っている部屋もあるし、里奈もあおいたんが一緒にいてくれたら嬉しいからさ。


普通部屋が余るなんてことはない。韓国で舞莉矢ちゃんに居候いそうろうさせてもらったように今度は横須賀の地でまた居候いそうろうすることになるとは考えもしなかった。

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