選手としての姿

制した者として

高校時代に弓道の団体として世界の頂点、社会人になってアーチェリーの個人として世界の頂点に君臨した三島蒼唯。個人と団体とそれぞれ異なるものの弓道とアーチェリーの両方で世界を制した選手は多くない。


ネットニュースでその事を知った蒼唯。ふと気がついたら確かにそうだな、アーチェリーにおいては特に優勝インタビューみたいなものは設けてもらうこともなく、メダルが寮の部屋に飾ってあるだけだったため実感がなかった。


スポーツ選手としてプレーをしている以上、同じアーチェリーをしている選手から憧れるような存在になりたい、テレビや会場でプレーを見て自分もアーチェリーを始めてみたいと思ってもらいたいと夢見る。


島田女子高校に通っていた時代、当時は弓道部として活動をしていたがその時にも何通かお手紙をもらったことがある。何でもネットで出来るこの時代に態々わざわざ自分の時間を割いて手書きでお手紙を書いてくれることにありがたいなと記憶が蘇ってきた。


もっと多くの人にアーチェリーについて知ってもらうためにはどうしたらいいのか。蒼唯が自分でしようと思ってすぐ行動に移せることは何だろうかと考えていた。


大会での優勝インタビューで自分のプレーを振り返ってどうだったかを詳しく説明したり、お悩みコーナーみたいなものを設けてそれに答えていくのはどうだろうかと行き着いた。


お悩みコーナーを設けるに当たって自分が結果を残していなければ何の説得力もない。常に気を張って練習では何を聞かれてもいいようにまずは自分の技術を磨く。


練習中、仲間が困っていることがないかとコミュニケーションを取って分からない所があれば始めてアーチェリーを始める子でも分かるくらいに丁寧に説明をしようと心がけている。


翌週行われた全日本選手権、個人戦と団体戦の両方にエントリーをして優勝を飾ってインタビューを受けた時に質問や悩みを受け付けるのでアーチェリー部の問い合わせから送って欲しいと伝えた。


翌週はテレビの収録で芸能人とのアーチェリー対決で蒼唯を始め、横須賀食品アーチェリー部のメンバー数人が呼ばれて対決をして圧倒する。質問が届いてどういものかとドキドキしていた。


アーチェリーをする上で難しいことは何か、弓矢を引くタイミングはそれぞれ異なるのか、団体戦で誰かが上手くいかなかったら責められることはあるのかと質問が来てた。


アーチェリーをする上で難しいことは相手に勝つというよりも自分に勝たなきゃいけない。だから技術以上に精神力が大事になってくる。弓は重くてその人によっても違うし毎回理想のタイミングで打てる訳ではない。団体戦で失敗してもみんなでカバーをしようと話し合っていると答えた。


期待を背負って

年が明けて日本で行われるオリンピック選考会の日程が発表された。

出場するからには個人戦、団体戦の両方で選出されるのが理想。そのためには個人戦で勝ち続けなければならない。


最速で出場内定を得るにはどうすればよいのかとスマホで選考会を計算していてどれも大事な試合に間違いないがどこに照準を合わせるべきなのか考えていた。


ひな祭りの日、蒼唯に取ってはオリンピックに向けた大事な初戦であり、特に気合いが入っていた。焦る気持ちを抑えるように何度も自分に冷静に丁寧に正確にと呟く。


結果は自分が想定した点数が取ることが出来なかったが取りあえず勝つことが出来てホッとした。そこ勢いのまま勝ち上がって優勝を飾る。


本気でやっているから相手にも真剣に向き合って欲しいと考える時期もあったが今は目標のため相手が真剣勝負で蒼唯を倒そうと挑むにこようが対戦相手が蒼唯だからと萎縮して仕方なく試合をするでも構わない。


基本的にどの大会も勝ち抜いて優勝を決めるトーナメント戦。次負けても他で補えるリーグ戦とは意味が違う。だから対戦相手が初出場の選手であっても世界チャンピオンであっても勝つ気持ちだけは持ち続けている。


その後も公式戦に勝ち続けた蒼唯、気がつけば夏頃には最速で個人戦のオリンピック代表内定を勝ち取った。嬉しい気持ちもあるがレベルアップとケガをしないように気をつける。


オリンピック内定とはあくまでも蒼唯に何もなければ出られますよということ。逆に言えば問題行動やケガをすれば内定を剥奪される上、別の選手に代えられるということ。


休日に横須賀食品アーチェリー部のメンバーとご飯を食べに行ったり遊びに出かけたりしていたが内定を出てからは嫌われても仕方ないと思いつつ誘いを断ろうとしていた。


そのような空気が漂っていたのか周りから誘われることが減っていた。寮に住んでいるため、誰が外に出ていくかとかは窓を見ればスグに分かる。羨ましいと思いつつも自分が目指していたオリンピックに出場内定を持っているからには大人しくしていないと。


夜になって門限が近づくと続々と寮に戻ってくる。

同部屋の里奈ちゃんが入ってくるとお土産を買ってきてくれて人よりも多く矢を放っているから手や首、肩をを大事にしてねとケアするための物をプレゼントしてくれた。


決して自分1人で戦っている訳ではない。アーチェリーをさせてくれている横須賀市食品のため、同期で同部屋にいてニコニコ笑顔が眩しい里奈ちゃん、そして一緒に練習をしている里奈ちゃん、韓国にいる舞莉矢ちゃん、菜緒ちゃん、遥華ちゃん、そしてチマチョゴリのお人形さんをくれた仁川いんちょんアーチェリークラブのメンバーと心強い人たちが沢山いることに改めて気がついた。

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