短期間

やり易い環境で

奈緒ちゃんと遥華ちゃんという頼もしい助っ人に出会えたと喜ぶ蒼唯、アーチェリー以外のことは何でもしてくれることに関しては涙が出るくらい嬉しい。日本円と韓国の通貨でもあるウォンを毎回支払おうとすると気持ちだけもらっておく、これが仕事だからと受け取らない。


顔がかわいいだけではなくて謙虚な姿はまさに女神と呼んでも過言ではない。なぜそこまでしてくれるのかを尋ねると仕事を度返しして高校時代、共に戦ったメンバーが1人で武者修行に来ているなら手助けをしたいとのこと。まるで模範解答みたいでそれにまた涙腺崩壊しそうになる。


ある日の休日、遥華ちゃんの提案で菜緒ちゃん、舞莉矢ちゃん、蒼唯とアーチェリークラブのみんなで親睦しんぼくを深めようとお出かけを計画してくれた。


それまではコミュニケーションを取れないからと家に籠るか舞莉矢ちゃんと一緒に出かけるかのどちらかでしかなかった。翻訳機を使うのも億劫おっくうなほどだった。


集合場所に集まって移動する姿はまるで生徒の修学旅行のような感じで遥華ちゃんと菜緒ちゃんは添乗員でその後ろに着いていくような感じだった。


まず、テーマパークに行って韓国の伝統衣装でもあるチマチョゴリにレンタルし、着替えて鏡を見るとかわいいとテンションが上がる。そのまま散策しているため借り物で返さなきゃいけないことすら忘れるくらい。


途中で小腹が空いてクロワッサンとワッフルのハイブリッドで見た目も響きもかわいいクロッフルや日本でも流行って冷凍食品にもなっているチーズハットク、そしてチーズとお餅の串焼き等を買って食べ歩きをしていた。


閉園時間が近づいてきてこのままお持ち帰りたいと思うチマチョゴリを返しに行って名残惜しいと何枚か写真を撮って返却をして夜は本場の韓国料理かひしめくオススメスポットに遥華ちゃんが案内をしてくれた。


メニューを見るとハングル文字で何が書かれているか全く分からない蒼唯。すかさず通訳担当の菜緒ちゃんに尋ねるとこれが参鶏湯さむげたんだよと教えてくれ、辛いものをなるべく避けたいと伝えると辛くないから安心して。


それぞれ注文を伝えて来るまでこれまでの経緯について話すなどをして届くまで待っていた。菜緒ちゃんが韓国語、遥華ちゃんが日本語で三島蒼唯はこういう人だよと伝えてくれていた。少し盛りすぎの部分もあったが気にしない。


しばらくして運ばれてきた料理をみんなでシェアしあう。

参鶏湯さむげたんの他にカルビタン、コムタン、タッカンマリ、スジェビ、日本とは少し違うお粥を食べる。


異様にタンが付く食べ物が多いなと感じていた蒼唯、自分が知っているタンは牛タンだけ。そう菜緒ちゃんに韓国語で言ってもらうと笑いに包まれた。韓国の選手ももっと蒼唯とコミュニケーションを取りたいと懸命に日本語を覚えようとしてくれていた。


カタコトの日本語に同じ言葉でも全然意味の違う日本語にかわいいと思いつつ日本語って難しいなと実感していた。


ヘンな宗教なのか

横須賀食品からもらった半年の猶予ゆうよ期間も気がつけば残り僅かになっていた。蒼唯のことを誰も知らない環境で出来たことで心身共にレベルアップをしたと自負はしていたが全く試合に出ないで帰るのは少々気がかり。


菜緒ちゃんに直近で誰でも出られる試合はないかを聞くと蒼唯がいる期間にはなく、それ以降に多くあることを知らされる。最初は雑音から逃げるように日本から韓国に来たからには何か実績を残して日本に帰りたかった。


横須賀食品のコーチに電話をかけて期間を延長して欲しいと懇願こんがんする。武者修行に行きたいとお願いして今度は延長させて欲しいと泣きつくことになるとは当初全く考えていなかった。


実績を作って帰っておいでと優しい言葉に助けられた。

韓国に来て家に居候いそうろうさせてくれている舞莉矢ちゃん、通訳や運転手として送迎してくれている菜緒ちゃんや遥華ちゃんかいるから何とかなっている。


韓国語も分からなければハングル文字を書くことなどできるはずもなく、手続きしようにも出来ず1人でやってくれと言われたら心許こころもとない。大会にエントリーしたいから手伝って欲しいと菜緒ちゃんに泣きつく。


出来ないことはちゃんと出来ないって人に頼ることは大事な事だよと菜緒ちゃんは笑顔で手伝ってくれると言ってくれる。仏のように手を合わせると恥ずかしそうにする。


自分の名前はハングル文字でこの様に書くのかと自分のことなのにも関わらずどこか他人事のように見ていて試合までの期間はいつも通り練習に励む。


個人戦で仁川いんちょんアーチェリークラブのメンバーと戦うことにもなるのかとなるべく避けたいと思いつつ、団体戦では勝てるように貢献したいと考えていた。


そして迎えた韓国での試合、団体戦では蒼唯の活躍もあって無双状態で個人戦ではクジ運が悪いのか同じ仁川いんちょんアーチェリークラブのメンバーとよく当たる。その時は心を鬼にして勝ちに行く。負けるのはイヤだから。


蒼唯と常に躰道をしてくれている菜緒ちゃんと遥華ちゃん。おんぶにだっこにダメだなと思って頑張ってハングル文字や韓国語を覚えようと頑張っている。


車を止めて近くのスーパーに行こうとしたら知らない男の人から蒼唯に声をかけられた。

「アニョハセヨ、キョロナジャ」


応援してくれていると勘違いをした蒼唯は握手をしようとしたが菜緒ちゃんと遥華ちゃんの表情は穏やかではなく、スゴい剣幕で追い払っていた。火に油を注ぐようで申し訳ないけどなんて言っていたのか聞いてみる。


「こんにちは、結婚してくださいって」

それを聞いて蒼唯は目を丸くする。日本でもナンパをされたことないし、初対面の人に結婚してくださいって言われるとは思いもしなかった。韓国ではこれが普通なのか異常なのかも分からない。


もう火に油を注いでしまったためどうなってもいいやととどめを刺すように「ハニョハセヨ、キョロナジャ」は普通に言われることなのか、異常なことなのか聞く。私たちも初めて聞いたと荒手のナンパに遭遇をしてしまった。

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