一緒に

この気持ちを忘れずに

島田女子高校弓道部の教訓ってスゴいなと感じる。


「相手を見下さず常に冷静に。試合が出来るのは相手がいるから感謝しよう。相手を敬い己に勝とう」


当たり前のことだからこそ忘れがちだし、自分本位になることもあるため、自分の座右の銘にしようと決めた。


蒼唯はスーツを着て静岡体育大学の入学式の時間を母と共に待っていた。スポーツ推薦で来たため、舞莉矢ちゃん以外誰が同じ高校から進学したか分からない。周りを見ても舞莉矢ちゃんの姿がない。広い講堂だからしかないかな。


やはり聞いた話をまた聞くというのはつらいし拷問の様な気もするがそれは耐えなくてはならない。


なぜなら知っているからこそ話を遮ったり、その話の先を言ってしまっては怪しまれるためだ。中学校の入学式、高校の入学式でも同じことを言っていたかも知れないが大事なことは繰り返しておかないとヘマをしかねない。


「お〜い蒼唯ちゃん。久しぶり〜、舞莉矢だよ〜」

蒼唯に向かって声をかけてきたのは森舞莉矢ちゃんだった。一緒に隣の席に座ろうと思ってラインをしたのにと言うと舞莉矢ちゃんはスマホの電源が切れており、送ったと言う蒼唯は送信ボタンを押せていなかった。


そのため送信したと勘違いをしている蒼唯、充電がなくてラインが届いていても見られる状況ではないとお互いの顔を見て苦笑いをしていた。


大学の目標を何にしようか考えていた。単位を取らなきゃ卒業出来ないため前と同じ講義を受けることにしよう。弓道部では三島蒼唯個人として、静岡体育大学を勝利に導くために常に鍛錬しなくてはならない。他に何かないかな。


電気が走るようにひらめいた。大学の目標は学食のメニューを全て食べることにしよう。広大なキャンパスで複数ある食堂を全部食べるのは難しいかも知れないが面白そうだなと蒼唯自身考えていた。


ずっとニヤニヤしながらうなづく蒼唯を心配した舞莉矢ちゃんは声をかけた。

「蒼唯ちゃん、どうしたの?おなか空いたから一緒に食べたいから食堂に行こう」


ランチセットを食べつつニヤニヤしている理由を話すと目標が食べ切ることって蒼唯ちゃんスゴい目標だね。大学の講義に付いていけるのか、部活で馴染めるか心配だな。


蒼唯から言えることは大丈夫だよ。なるべく同じ講義を受講すれば分からなければ教え合うことが出来るし部活でも困ったことがあれば蒼唯や先輩たちに相談してね。そう友達としてしか発言出来ない。


あの講義はレポートが多い、この教授は自慢話が多いといったことはある程度把握している。だが不安に感じている舞莉矢ちゃんに何の根拠もなくこの講義を履修しようと誘っては怖がるだろうと思って蒼唯が先輩に聞いていた。


めんどくさい事に強制的に組み込まれている選択必修だけでなく必修科目もあり、この必修科目は教授を選択出来ず勝手に振り分けているために選択必修は一緒に履修した。


自己責任

講義が始まって数週間が経つと風景が変わってくる。

真ん中くらいまでに座ってマジメに講義を受ける人たちと後ろに座って別のレポートやゲームをしたりし、中には友達と喋っているもの。中には飲食をする強者つわものまでいる。それを超えるのは代理出席というものだ。


興味がないが単位を取るために学生証を預けてレジュメをもらって講義内のミニテストにだけ顔を出すのが数えられないくらいいた。それに対して代理出席をした者とやった者の両方が定期テストを受けさせない教授もいた。


色々な学生が色々な教授の講義を受ける中で単位が取り易い、難しいとそれぞれ情報を得るようになってそれを同級生や後輩に伝えられていく。その故人気のある教授の講義は応募過多になって抽選となって再登録を余儀なくされることもある。


これは蒼唯自身知っていたしその影響を受けていたがあまり関係ないと思っていた。選択科目なら単位を取れなくても他の科目で賄えるが必修科目はそうもいかず単位を落とすと学年を跨いで再び受講してはならず非常に厄介だ。


同級生が大変な状況をの当たりにしている蒼唯としては舞莉矢ちゃんにその思いをして欲しくないと必修科目で分からない所は遠慮なく聞いて、同じ所を何度でもいいから聞いて欲しい。蒼唯に説明出来るようになるまで。


定期テスト前になると舞莉矢ちゃんだけでなく、他の弓道部の同級生や必修科目が取れずに悩んでいて恥を忍んでお願いする先輩もいた。人に教えるにはまずは自分が分からなきゃいけないと蒼唯が複数人を教えることもあった。


蒼唯としては別に何か見返りが欲しくてやっている訳ではないが苦手な科目のテストが終わるとラインで食堂に来るように連絡が来てランチをご馳走してもらっていた。人の親切を断っては申し訳ないとご馳走になる。


同級生には蒼唯がいなかったらどうしてたのと冗談で話し、先輩には必修科目だけは死ぬ気で取りに行かなきゃ後で苦労しますよとどっちが先輩でどっちが後輩なのか分からずにいた。


夏休み、蒼唯に勉強を教えてくれと頭を下げてきた同級生や先輩たち。個人ラインでこれで選択必修で自由に選べるようになった、ありがとう。欲しいものがあれば遠慮なく言って欲しいと続々届く。


これと言って何か欲しいものがあるわけでもなく、定期テストの度に学食でご馳走になるのも気が引ける。だからキャラクターのラインスタンプを買ってもらっていた。ランチ代よりも安いしずっと使えるからと考えていた。


頼りにしてくれるのは嬉しいけど蒼唯がいなかったら本当にどうなるのだろうか。誰でも彼でもやっていてはキリがないため弓道部の人だけにしようと決めた。

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