恐ろしい
間違いではない
試合を重ねるごとに蒼唯のファンが増えてファンレターや個人に差し入れが増えてきた。年代としては同世代の男の子にももらうが顕著に多いのは女の子だった。
かわいい顔なのに弓道をする姿がカッコイイと言ってくれることがとても嬉しい。出待ちファンまでいて夏は暑い中、冬は寒空の下で会場から出ると黄色い声援で握手やサインを求められることが増えてきた。
それは試合会場にとどまらず学校内でも蒼唯を追っかけをする人がいるとウワサで聞いていた。時には授業のチャイムが鳴るまで対応する日々で毎日紙袋に入ったファンレターを持って部室、そして電車に乗り込む。毎日同じ時間帯に電車乗っている人からしたら奇妙な光景だろうな。
年が明けてクリスマスの日、手紙とチョコレートやクッキー等をもらって感動した。しばらくお菓子には困らないなと思いつつ果たして全員にお返しが大変だな。せめてお手紙をくれた子にはお返事を書こうかな。
住所が書かれているものは返信して無いものは同じ高校ならば教室に行って直接渡すようにしている。それが時間をかけてくれた人に出来る事なのかな、それで喜んでくれたら蒼唯も嬉しい。人の笑顔を見るのって幸せだと感じる。
春休みが過ぎればすぐに春季大会が始まる。名門島田女子高校とはいえ、個人戦も団体戦も地区大会からで勝たなければ県大会に進めないとならない。大会前には教訓としている言葉を唱和してから臨むのが恒例となっている。
「相手を見下さず常に冷静に。試合が出来るのは相手がいるから感謝しよう。相手を敬い己に勝とう」
スポーツ名門校でありがちな勝利至上主義といった感じではない。勝って上を目指すのは当たり前で個人戦や団体戦が出来るのは対戦相手のライバルやチームメイトの仲間がいるから出来ることを忘れないようにするためだ。
たとえ対戦相手が初心者であっても手を抜いたり見下すようなプレーが見られたら次の試合からは出場出来ない。試合に出る前に人間性を高めることを重きに置いている。
試合で全く手加減をしない島田女子高校弓道部、周りからは初心者相手にやりすぎだし手加減しても勝てるのに相手が可哀想という声が寄せられ、高校に抗議の電話が届く。
顧問の先生はこれが我が部のやり方、勝敗よりも相手を敬うことの方が大事だと伝える。あくまでも高校生の部活なので競技のことだけでなく、人間として大切なことを教えるのも大人の役目なのでと伝える。
島田女子高校弓道部の勝敗が分かるようにブログで結果を掲載して誰でも見れるような形にする。相手を敬うこと、仲間を大切にする、そこには先輩後輩の上下関係はない。
復活カルテット
憧れの島田女子高校弓道部に入って舞莉矢ちゃんや仲間と共に切磋琢磨をしているうちに最後の夏の大会を迎える。団体戦だけでなく、個人戦でも他のチームメイトが勝つと自分の事のように喜んでくれて負けたら一緒に涙を流す。過去に戻ってきてよかったなと改めて感じていた。
島田女子高校は地区大会から個人戦、団体戦ともに危なげなく勝ち上がって県大会でも無類の強さで全国大会出場を決める。
嬉しいのは自分たちだけどと部員が思っていたがそうではなくお肉屋さんからはポテトサラダやコロッケの無償食べ放題、洋菓子屋さんからはシュークリームの食べ放題と学校側に電話が入って地域でお祝いをしてくれていた。
お肉屋さん、洋菓子屋さん共に臨時休業にして学校に来てくれたり定休日なのに応援したいからと
お礼を伝えると全国でも頑張れ、また島田に戻ってきたら沢山食べさせてあげるから頑張ってと地元を背負っていることも部員たちは自覚して臨もうと気を引き締めていた。
蒼唯としては全国大会で気がかりのことがあった。
それは過去に戻る前、当時菊川総合高校弓道部として個人戦の決勝で対戦相手が体調不良で不戦勝となって優勝したがエキシビションマッチをお願いをして負けた。今回は大丈夫だろうかと考えていた。
それはあくまでも蒼唯が菊川総合高校にいたからそうなっただけで過去に戻った今、島田女子高校にいて同じように個人戦で決勝に進めるのかと保証はない。そう考えると期待だけでなく不安にもなっていた。
まず行われた団体戦、初戦から圧倒的な強さで勝ち上がり「右の三島、左の森」を中心に準々決勝まで残っていた。
迎えた準決勝で相手は犬山菜緒擁する名古屋総合高校に苦戦したものの何とか勝ち、決勝で大宮遥華擁する埼玉成城高校に勝って全国制覇を果たした。
その翌日からは個人戦、全国の
負けたら終わりのトーナメント戦で自分の思った通りとはならずまさかの誰とも対戦をすることなく決勝進出に駒を進めていて不戦勝での優勝はイヤ、相手と戦って勝ってではないと意味がない、決勝で試合をしたいと願っていた。
個人戦の決勝では全く注目をされていない選手で舞莉矢ちゃん、菜緒ちゃん、遥華ちゃんと名だたる選手に勝ってきた選手。油断する相手ではないな。集中してど真ん中図星を狙っていた。ギリギリの差で蒼唯は個人戦も制した。
対戦相手と握手を交わして舞莉矢ちゃん、そして島田女子高校のみんなと抱き合って大会は幕を閉じて最後の夏を終えた。
そう言いたいがこれで終わらないことを蒼唯は知っていた。世界大会に行くために連日後輩と共に練習をしている があくまでも感覚が鈍らないように、身体がなまらないようにと話していた。
数週間後、舞莉矢ちゃんから全日本弓道協会から東京に来るように手紙が届いていたよ。蒼唯ちゃん知っていると聞いてきた。だがここで知っているよ、世界大会が台湾であってそれの代表選手だよとは言えない。
何故ならその紙には品川グランドホテルに来てくださいとしか書かれていないから。間違っても舞莉矢ちゃんだけでなく、蒼唯の他に名古屋総合高校の犬山菜緒ちゃん、埼玉成城高校の大宮遥華ちゃんだよと言えるはずもない。
その発言をしてしまうと何故知っているのか、協会のグルなのかそれとも予言者なのかと疑われてしまうから。一緒にパスポートの申請と新幹線のチケットを買いに家族と共に行く。
これで違ったら恥ずかしいと思いつつも品川グランドホテルにに蒼唯と舞莉矢ちゃん以外に菜緒ちゃん、遥華ちゃんがいてホッとした。記者会見で日本代表を発表される。台湾で行われた団体戦で初代優勝国に導く。
帰って学校に横断幕が垂れ下がっていてお肉屋さん、洋菓子屋さんも手書きポップでお祝いをしてくれていた。もう頭を下げて歩けないくらい気にかけてくれている。
高校卒業まで秒読みとなったある日、授業があったが大寒波で外は凍結して電車も間引き運転していた。前なら学校に行くが今回は休むことにした。
皆勤賞がなくなるのは勿体ないがそれ以上にケガを恐れていて自分の部屋に必要最低限の食べ物と飲み物を持ち込んで部屋から極力出ないことにしよう、家や部屋でケガをしたら自分のせいと割り切っていた。
無事、高校を卒業して舞莉矢ちゃんとアミューズメントパークに行ってご飯やカラオケ、プリクラと終電まで遊び倒した。
蒼唯と舞莉矢ちゃんは共に地元の静岡体育大学に進学をすることに決めた。前って静岡体育大学弓道部に舞莉矢ちゃんいたかな、覚えているはずなのになと感じていた。
過去に戻ってきた以上、自分のこと以外はなるべく未来を変えないように心がけている。それがタイムトラベラーとしての役目を果たしていかなくては。
知っているからこそいいことも悪いことも伝えたいがそこはグッとこらえていた。
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