嬉しいが喜べない

意地でも

仲のいい友達として、良きライバルとして凌ぎを削っている蒼唯と舞莉矢、トーナメントで勝ち上がって直接対決になるとお互いに負けないとみなぎる闘志でお互いを見つめている。


負け越ししている蒼唯としてここで勝って対戦成績をイーブンに戻したい。その気持ちがあっても手元がブレては思ったところに矢が的に当たらない。弓道とは実力もることながら精神も大事だなと感じる。


この試合で蒼唯が制して最後は全国大会に繋がる夏の大会、個人として最後は勝ち越しをして全国大会出場を考えていた。団体戦でも全国大会に導けるようにメンバーを鼓舞する。


本来ならば地区大会からの出場になるがスーパーシードとして島田女子高校の森舞莉矢、掛川弓道クラブの三島蒼唯は県大会、それも準々決勝まで当たらない組み合わせになっている。それだけこの2人が静岡県の弓道を牽引していると伺える。


それぞれ勝ち上がってまずは個人戦三島蒼唯対森舞莉矢は三島蒼唯が中心から外れた矢がないほど絶好調で個人戦を制して全国大会出場を決める。


続く団体戦では森舞莉矢が個人戦の悔しさを晴らすように最初から出場してストレート勝ちを収めた。個人戦、団体戦と異なるもののお互いに全国大会出場を決めた。


全国大会はまず団体戦から行われ、観客席には蒼唯の姿があった。ライバルの勝利を込めて応援をしていたが全国の壁は厚く島田女子高校は負けてしまう。


全国の精鋭が集結しているとはいえ蒼唯のライバルで切磋琢磨していた舞莉矢ちゃんが負けるということに驚いた。翌日から行われる個人戦に向けて早めに眠る。


朝起きると舞莉矢ちゃんから『今日応援に行くね』これを見て負ける訳にはいかない、全国の頂点に立つ、舞莉矢ちゃんの分まで頑張ろうといつも以上に自分を奮い立たせていた。


県大会を勝ち上がってきた猛者もさ、精神を研ぎ澄まして蒼唯は勝つと強い思いで初戦に挑む。危なげなく勝利をする。


この勢いのまま勝ち進みたい思いではいるが試合が終わっても対戦相手も勝ち上がってきている実力者、冷静になって精神を集中する。そのおかげもあってか2回戦、3回戦、準々決勝、準決勝と相手を圧倒して決勝進出を決めた。


そして決勝戦にまで勝ち進んだ蒼唯、対戦相手は会場に来たものの夏風邪が悪化して試合するのは難しいとの判断で棄権という形で優勝。トロフィーをもらって掲げたもののもし試合をしていたら勝っていたのか、嬉しいよりも申し訳無い気持ちでいた。


優勝を納得のしていない蒼唯。これで引退となり、エキシビションマッチとして対戦をしたいと大会主催者にお願いをする。それで負ければトロフィーを渡すとして一旦トロフィーは預かってもらう形にしてもらった。


1週間後、同じ会場で本来行われるはずの決勝戦が行われて甲乙付け難い戦いで最後の最後までどっちが勝ってもおかしくない戦いが終結をする。辛くも蒼唯は負けてしまいトロフィーを渡して会場を後にする。


すぐさまネットニュースになる。カッコイイ生き様という声もあれば自らトロフィーを手放したと辛辣なコメントも寄せられていた。


蒼唯としては決勝戦まで勝ち上がって対戦相手が体調不良で棄権となり優勝してもわだかまりがある。それで優勝したと胸を張って言えない、ならばお互いに万全の状態でどっちが本当に強いか行って勝った方がトロフィーを貰うべきだと考えていた。


最強カルテット

全国大会大会、そしてエキシビションマッチを終えて複数の大学や実業団チームから弓道として誘いが多く来ていている。強豪チームで高みを行くべきか創部したての黎明期のチームで自分の力で強くするか悩んでいた。


進路が決まるまでは学校に通いつつ掛川弓道クラブに行って矢を放っていた。練習後、コーチに呼ばれてある場所に言って欲しいと1枚の紙を渡される。


紙を開くと近所の場所かと思いきやまさかの東京。新幹線のチケットを渡されるわけでもない。


「全日本弓道協会 三島蒼唯様

翌日の正午に品川グランドホテルにお越しください」

幸いなことに土曜日で学校を休まなくて済む。家族にお願いをして新幹線の掛川から品川の往復チケットを買ってもらう。


協会からのお達しでスーツを持っておらず制服で初めての新幹線に乗り込みいざ、東京に向かう。せめて呼び出す理由を教えて欲しいと呟いていた。品川駅で降りてホームには舞莉矢ちゃんがいて同じ理由で新幹線に乗っていた。


2人で会場に行くと同じくらいの女子高生がいてようやく呼ばれた理由を伝えられる。


「掛川クラブ三島蒼唯、島田女子高校森舞莉矢、埼玉成城高校大宮遥華おおみやはるか名古屋総合高校犬山奈緒いぬやまなおを日本代表として選出するために呼び寄せた」


蒼唯を含めて全員が日本代表とは?どこかで世界大会が行われるためそれで選出されたのかと誰ひとり自分事だと思わず何を言っているのか分からずにいた。


話を聞いていると世界女子高生弓道選手権大会が始めて開催されるため、全国各地から精鋭を集めて初代優勝者として日本を導いて欲しいとのこと。後日会見を開くからスーツを着て欲しい、会場日時は改めて連絡すると言われた。


ひと通り話が終わってそのまま帰るのももったいないと思ってチームとして仲を深めて置いた方がいいと考えた蒼唯、4人でそのまま遊びに行きつつ自己紹介と親睦を深めようと掛川駅に止まる最終の新幹線の時間まで遊んだ。


開催国が台湾のため、急いでパスポートの申請を行って電話で掛川弓道クラブだけでなく、学校にその事を告げると公休にしておくから頑張ってこいと担任の先生やクラスメイトから応援をしてもらう。


後日、スーツを着て弓矢を持って再び掛川から東京に行って会見をしてそのまま羽田国際空港から開催国台湾に向かう。初めての飛行機、ドキドキとちょっと怖いなと思っていたら空を飛んでいる。


数時間のフライトで空港に着くと耳が痛くなったがしばらくすると治って練習場に向かって調整をした。5日間で行われる団体戦で参加チームが16カ国と意外に多くて驚いていた。


この4人は全国大会で全員準決勝まで残った精鋭で負けることはないだろうと思いつつも勝負においては何が起きるか分からない、油断していたら足をすくわれるからと蒼唯が引き締めるように伝えた。


結果は日本の圧倒で初代優勝を日本にもたらし、メダルを貰ってお土産を買って帰国をした。羽田国際空港に着くとネットニュースに取り上げられていて改めて実感をする。


月曜日、学校に行くと横断幕が至る所に垂れ下がっていてそこまでしなくてもと当事者の蒼唯が戸惑う程あった。


やっとゆっくりする時間が出来て進路について考え、弓道の強豪校になりつつある静岡体育大学に行くことを決めて連絡に明け暮れていた。申し訳ない気持ちと自分を評価してくれたことのお礼を伝えていた。


夏の全国大会から怒涛の日々を過ごしてあまりいつの記憶だったか曖昧となっていたからこうやって絵日記で振り返ってよくやったなと自負していた。

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