不安

誰が悪いのか

無事に進路が決まり、何も気にせず年を明けることが出来た。弓道に邁進まいしんしていた高校生活だったが勉強を疎かにしていたことはない。単位を取るという感覚がないくらい成績優秀で正に文武両道を果たした。


2月上旬、全国的に大寒波が押し寄せて学校は午後からの授業となった。寒いし心も体も温まりたい、学食でラーメンを食べたいと雪のため間引き運転をしているために寒空の下で電車を待っている。


地面は滑りやすく転んで手を痛めては弓道が出来なくなるだけではなく、日常生活にも支障を来たすかもと細心の注意を払っていた。


電車も慣れない雪でいつもよりもスピードを落として慎重になっている。普段雪の降らない地域で気をつけるのは乗り物も人間も同じだと感じていた。定刻時間より30分遅れて高校の最寄駅に着いた。


革靴登校が必須だった菊川総合高校。車もスピードを落として走っているものの目の前でスリップして自損事故を起こしている姿をの当たりにする。学校から最短距離の道路だがすぐさま通行止めとなって迂回するように誘導をされる。


仕方ないこととはいえ、時間がかかる上裏道は日影でとても滑りやすくまるで天然のスケートリンクのようになっている。歩幅を小さくゆっくり歩いてと心がけていていた。


この日のためにとタイヤチェーンを付けている車も多くいるがそれでも登校中の蒼唯は車に跳ねられて手を付いた。車に過失があるものの不可抗力とも言える。


家と学校の距離を考えた時に学校の方が近くとりあえず事情を説明したらそのまま病院に同行してくれて手にヒビが入った程度で済んだ。


しばらくして家族がやって来て、警察から事情聴取を終えた事故を起こした運転手が病院にやって来て菓子折りと土下座をして誠意を見せる。利き腕でもある右手にヒビが入らなかっただけまだよかったとそう思っていた。


見舞金としてお金の入った封筒を渡している姿を見て誠意を見せてくれているもののそれは本人のいないところでやって欲しいと蒼唯は思っていた。


生活する上で両手が使えないのは少し不便を感じたものの1ヶ月も経たないうちによくなって卒業式が行われる時には手にヒビが入っていたことを忘れるくらい何ともなかった。


卒業式を終えてから仲のいい何人かでアミューズメントパークでプリクラ、カラオケと謳歌してそのまま晩御飯を食べて会えなくても連絡を取り合おうと話していた。


この制服を着ることはもうないのかと思うと名残惜しい気持ちにはなったが弓道で声をかけてくれた静岡体育大学の躍進のために頑張ろうと燃えていた。


絵日記に車に引かれた描写があり、この時はもう終わったな。ヒビで済まず大怪我でしばらく入院生活することを覚悟していたから逆にラッキーくらいに思っていた。


エースとして

初めての静岡体育大学にスーツを着て入学式に行って締まった気持ちになり、高校時代同様に文武両道を目指していた。どんな仲間と出会えるかワクワクが止まらない。


早速弓道部に行って先輩たちに挨拶をして部内ルールや履修登録の仕方、どの講義が比較的単位を取りやすいなどと何でも相談してねと優しく接してくれた。


高校時代に全国大会を制し、世界大会のメンバーとして参加して日本を初代優勝者として導いた三島蒼唯の名は先輩たちにも知ってもらっていて大きな期待を寄せられている。結果よりもまずはケガをしないようにしていた。


勝つためには学年は関係ないという方針の静岡体育大学弓道部、実績の申し分のない三島蒼唯。個人戦だけでなく団体戦では先輩を押し退けて主メンバーとして大会に多くに帯同して試合に出場をしていた。


思うように弓が当たる時ばかりだけでなく、期待されているプレッシャーがある。味方だけでなく敵からも常に高いレベルを求められて少し調子が悪いとこの程度なのか、大したことないなという空気感に恐かった。


同級生や先輩たちに相談をすると静岡体育大学には蒼唯がいなくてはならないよ、そう感じているならば練習中や試合中にも声をかけてくれてやり易い環境になる。


その反面、同級生には調子乗ってるとか実績あれば贔屓ひいきしてもらえるのかと思われるのではないか複雑な気持ちでいることも確か。


それでも同級生や先輩たちからは優しくしてくれて勝つも負けるも蒼唯次第、それで負けたら仕方ないくらいに思っているからとりあえずケガや病気にはならないで欲しいと切に願うほどだった。


ある時爪がのびたから切っていたら深爪してしまいそのことを伝えただけで大丈夫なのかと過度に心配されてしまい過保護のように見えるが気にかけてくれるのは嬉しい。言っていることが矛盾をしていると蒼唯自身も感じていた。


このままではよくないとみんなと同じように接して欲しいと部活前に言うとこれまで以上にチームがどうしたら勝てるのかを柱としてと強い思いを持つようになった。


ここから静岡体育大学弓道部の躍進して三島蒼唯個人としても団体戦で年間で無敗を誇り強豪校から名門校へ押し上げた。それを見て実業団チームから引き抜きをしたいとオファーが来ていたが入学したからには卒業をする。その時またお願いと電話で答えていた。


部活動のみならず勉強ではフル単を取って学祭で外の露天でクレープ販売、そして弓道をもっと沢山の人に知ってもらいたいと実演と体験コーナーを設けたりしていた。


学祭についてのことを絵日記で描かれており、小さい子から大人まで多くの人がクレープのブースや弓道場に訪れて拍手と実際に体験した人からは矢が飛ばない、飛んでも刺さらないと色々な声が聞こえていた。


多くの人が弓道って難しいけど面白いねと言って帰って行く姿を見て部員全員が笑顔になっている姿にやってよかったと打ち上げで焼肉に行って終始盛り上がっていた。

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