第3話
「はい着きました」
コンビニから十分ほど走り、市内のショッピングモールに到着した。料金を払いお礼を述べて私はタクシーを降りた。
「ありがとうございました」
チャラいタクシードライバーはわずかに笑顔だった。口元からは白くてきれいな歯並びが見えていた。
そうか、チャラいということは異性に見られることを意識しているということ。そういった技術や能力に
クリスマスの二日前ということで、店内はすっかりクリスマスだった。
もみの木に電飾が連なっている。サンタクロ―スのはりぼてが口を開けて不気味な笑顔を見せている。入口付近にあるケーキ屋には行列が出来ていた。ショーケースに並ぶショートケーキには葉っぱが載っていた。いつものショートケーキも葉っぱひとつでクリスマス仕様になる。
コーヒーの香りがしてきた。チェーン店のコーヒー屋も満席に近かった。今日は平日だ、学校帰りのカップルや有休をとったのであろう社会人のカップルがたくさんいた。
衣料店では、マネキンの前にギフトボックスが置かれていた。プレゼントに〇〇を贈ろう、といったポップが目につく。
本屋や家電売り場では店員がサンタの帽子をかぶっていた。いや、かぶせられていた。やらされている感がこの時期の風物詩になりつつある。
そうだ、ギターを探そう。目的はそれだ。
楽器屋は何階だろう。マップを確認してエスカレーターに乗る。
CD屋のなかに楽器売り場があるみたいだ。CD屋を目指して歩く。せめて拓也くんがすすめてくれたギターを見るだけでも……。そう思っていた。
ギャル服売り場の前を通る。さっきのチャラいタクシードライバーを思い出す。あの人の彼女って、あんな感じなのかな。
ギャル服売り場の店員はドレッドヘアを頭のてっぺんでまとめていた。体のラインが見える短いニットに短パン、ロングブーツをはいていた。とてもスタイルがよい。
いいなぁ、顔が小さくてスタイルがよくてオシャレで。あんな感じなら人生怖いものなんてないだろうな。私には縁のなさそうな店員と店を、気づかれないように横目で見ていた。
隣の店が妙にキラキラしている。コスメショップかな。
今だけ限定、クリスマスコフレ。この時期雑誌でもよく見かける宣伝文句がポップに書かれている。
宝石みたいなケースにキラキラしたアイシャドウが何色か入っている。値段を見ると、一万円だった。高校生には手が届かない。
諦めて目線をそらすと可愛い部屋着やワンピースが売っていた。どうやらこの店、コスメだけではないみたいだ。
お部屋でも可愛く―。ポップの横にはハート型や星型のぬいぐるみが置かれていた。誰かに見られていない自分だけの空間でも可愛くいること。提案。そうか、そう思ったら少し、わくわくしてきた。
誰かの視線なんて関係ない。自分が可愛いと思ったら、そうすればいいんだ。私は部屋着を見て、スカートやワンピースを順番に見ていた。
「お客様、どういったものをお探しですか?」
今私が見たようなゆったりしたワンピースを着て柔らかい雰囲気のメイクをしている店員が声をかけてきた。店員が私に近寄ると、ふわっといい香りがした。可愛い子はいい香りまで
何を探している? 私は何を探していたんだっけ? ギターを見にきたんだ。けれどキラキラに惹かれてこの店に入った。
「あの私……いや僕、男なんです」
一応断っておいた。制服の上にコートをはおっているので、もしかして私服のズボンに見えるかもしれない。最初に言っておいたほうがあとが楽だと思った。嫌悪感を示されたら店を出てギターを見に行こう。本来の目的はそれなんだから。
「そうですか、中性的な魅力の方だと思いました」
店員はさきほどと変わらない表情で言う。
「当店はユニセックスの商品も揃えていますのでごゆっくりご覧になってくださいね」
店員は頭を下げて私から離れた。なんだか拍子抜けした。気にしていたのは私だけだったのか。
店内を見ると、確かに男の人がスカートみたいな服を着ているポスターが貼ってあった。オシャレだし、妖艶な雰囲気だった。
「このモデルかっこいいですよねーメイクも
先ほどとは違う店員に声をかけられた。この店員は細身のジャケットに、短パンがついているミニスカートを着用していた。メイクの気合もすごかった。コスメ担当なのかもしれない。
「私が今つけている一番上のアイシャドウ、これが新色でーす」
店員は自分のまぶたを指さして言う。一番上と言われてもよく分からなかった。
「お客様、とっても色が白いので似合うと思いますよー」
語尾を伸ばす口調になんだかペースが引き込まれるが嫌な気はしない。それに一番上、がやっぱり分からないので実際に試してみることにした。
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