第7話 本当は結那お嬢様が好きなんでしょう?

俺はベンツに乗って、月島さんの家に帰ることになった。

もちろん、それは一時的なこと。

ただ、荷物を取りに行くだけだ。

高級な革張りのシートに座って、俺は窓から見送る紬と糸ちゃんを見ていた。


「俺は荷物を取ったらすぐに帰りますから」

「ふふ……約束は守りますから」


片桐さんは不敵な笑みを浮かべた。

ベンツが走り出す。

俺は一抹の不安を覚える。


「あの……本当に帰りますからね」

「大丈夫です。春斗様の意思を尊重します」


何があっても、俺は結婚なんてしない。

俺は振られたんだ。

月島さんだって嫌に違いない。

親の勝手な約束だ。

俺たちの気持ちも考えないで……


◇◇◇


月島家の大豪邸に帰ってきた。

月島さんが玄関で俺を出迎えてくれた。


「日野くん……」


月島さんが心配そうな顔をしている。


「俺は荷物を取りに来ただけだから」

「そう……なんだ」


俺は玄関ホールに通される。

2階の俺の部屋だと言われたところへ行く。

俺が一人暮らしていた部屋の2倍はあった。


「春斗様……本当にいいのですか?」


荷物をまとめている俺に、片桐さんが優しげに話しかけてきた。 


「サイバー・フリックスの社長になれるのですよ?」

「別にそんなの要らないです」

「この屋敷も土地もすべて春斗様のものです」


たしかに大金持ちになれる。

だけど、月島さんは俺のことが嫌に違いない。

だって他に好きな人がいるのだから。


「……春斗様は、結那お嬢様が好きですよね?」

「え?」

「結那お嬢様に告白されたのでしょう?」

「どうしてそれを?」


俺は恥ずかしくて顔が熱くなった。

あの告白は、悠真しか知らないはずだ。


「一度振られたからと言って、諦めるのですか?」



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