第4話 会社も娘も全部きみのものだ

「おお。さっそく2人で朝ごはんか!」

「うふふ。2人ともお似合いよ!」


背後から声がした。


「パパ!ママ!」


月島さんが声を上げた。


すらっと背の高い中年の男性と、天使みたいにきれいな女性——月島さんの両親だ。

人の良さそうな白髪の紳士は、月島綺堂≪つきしまきどう≫。大手IT企業サイバー・フリックスを一代で興したカリスマ経営者。

その隣にいるのは、元人気女優の月島聖≪つきしませい≫。月島綺堂との結婚は、大いに世間を騒がせた。

……そんな超有名人の2人が、俺をニコニコしながら見ている。  


「ほお。君がイッチの息子か。イッチそっくりじゃないか」 

「本当ねえ。目がイッチにすっごく似てる」

「イッチって……?」

「春斗くんのパパのことだよ。一郎だからイッチって呼んでるんだ」


俺の父さんの名前は、日野一郎≪ひのいちろう≫だ。

一郎の「いち」から取って、渾名が「イッチ」らしい。

あのハゲた父さんの渾名がまさか「イッチ」だとは、信じられないぜ。


「今日からこの家は全部、春斗くんと結那のものだ。好きに使いなさい」

「え?この屋敷が……」


こんな立派な屋敷が……俺のもの?


「そうだ。家も土地も全部、春斗くんの好きにしていい」


すげえ……一夜にして大金持ちだ。

いやいや、ダメだ。

金に目が眩んではいけない。


「将来、春斗くんはサイバー・フリックスの社長になるんだ。これぐらい当然だよ」


綺堂さんは、俺の肩に触れた。

隣の聖さんが、俺に天使のように微笑む。


「春斗くんは、結那と結婚してくれるんでしょう?」

「いや、それは……」

「嫌なの?結那は好みじゃないのかな?」

「そういうわけじゃ……」


月島さんは俺の初恋の相手。

ドストライクに決まってる。

……でも、俺は振られたんだ。


「パパ。ママ。日野くんが困ってるじゃない。日野くんはあたしと結婚できないの」

「結那は、春斗くんが嫌なの?」


聖さんが悲しそうな顔をした。


「……いやじゃないけど」

「ふふ。じゃあ決まりじゃない!高校卒業までは婚約者ってことで。この家で許嫁生活を楽しんでね!」


なんだよ。許嫁生活って……


「でも、ママ——」

「ママたちは、これからバカンスに行くから」

「え?バカンス?」

「春斗くんが結菜と結婚して、会社を継いでくれることになった。私たち、今までずっと働き続けてきたから、しばらく休暇を取ろうと思うの」

「だから結婚は——」

「おっと、そろそろ飛行機の時間ね。私たちは行くから!」

「いや、待って——」

「片桐、2人をお願いね!」

「かしこまりました。奥様。命に代えてもお嬢様と春斗様をお守ります」

「2人とも、お幸せにね!」


綺堂さんと聖さんはそう言うと、急いで食堂を出て行った。


……いったいこれからどうすれば?

俺と月島さんは途方に暮れてしまった。






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