第2話 許嫁なんだから名前で呼びなさい
《マジかよ……どうして月島さんと俺が?》
これは夢か?
俺と月島さんが許嫁だって……
今日、月島さんに振られたばっかりなのに。
《父さん、実は月島さんのご両親と、大学の同級生なんだ。お前には今まで言わなかったが、実は学生時代に一緒に起業して、会社をつくったんだ》
《初耳だな……》
父さんは理科系の大学に通っていた。
息子の俺が言うのも悪いが、冴えない中年ITエンジニアの父さんが、学生時代に起業していたとは驚きだ。
《会社は順調に成長したが、できたばかりの会社で将来どうなるかわからなかった。今はよくても、いつ潰れるかわからない。IT業界は移り変わりが激しいからな。父さんの実家は貧乏でね。だから安定した企業に就職しないといけなかった。それで2人に会社を譲ったんだ》
聞いたことがある。
父さんの実家はかなり貧乏で、兄弟は下に3人いて、父さんは長男だ。
子どもの頃からお金で苦労してきて、大学は奨学金をたくさん借りていたらしい。
だから父さんは、リスクの高い会社経営よりも、堅実なサラリーマンを選んだというわけだ。
《今の話と、俺と月島さんが許嫁になることと、何の関係があるんだ?》
《会社を譲る時、お互いに子どもが産まれたら、結婚させようと約束した。必ず会社を成功させて、父さんの子どもに継がせると。お互いの子どもがしかるべき年齢になったら、伝えると決めた》
月島さんの両親は、大手IT企業「サイバー・フリックス」の社長だ。
日本のIT業界トップを走る会社。
そんなすごい会社の設立に、父さんが関わっていたとは……
《……要するに、父さんが月島さんの両親に会社を譲る代わりに、俺と月島さんを婚約させて、俺に会社を継がせてくれるってことか?》
《そういうことだ。明日、お前の家に迎えが来る》
《え?》
迎えが来るだと?
俺は嫌な予感がした。
《結菜さんの家で、お前はお前は一緒に暮らすんだ》
《いや、いやいやいや、いきなり一緒に暮らすなんて……無理だ。月島さんだって嫌だろ》
《はあ……結菜さんはお前の許嫁だぞ。一緒に暮らすのは当たり前だ》
月島さんと俺が、一緒に暮らす……
ありえない話が連続し続けて、俺の脳はショート寸前だ。
《明日は土曜日だ。朝から迎えが来るから、ちゃんと準備しとけ》
すべてがいきなりすぎる。
心の準備が全然できていない。
こんな強引な話があるか。
《あと、もうひとつ》
《なんだよ……まだあるのか?》
《月島さんって呼ぶのはやめろ。許嫁なんだから、結那さんと呼びなさい》
《……わかったよ》
《父さんは明日も仕事だから、じゃあな》
《待って!もっと聞きたいことが――》
電話は切れた。
おいおい。いったいなんだよ。
俺の気持ちも考えないで……
俺の初恋の女の子。
俺を振った女の子。
それが許嫁になって、まるで夫婦みたいに一緒に暮らすなんて……
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