第254話、モルファーとの対決
俺とジーンベック・モルファーの戦いは始まった。
教主ということもあり、その出で立ちもあってか、魔術師かと思ったが、そんなこともなかった。
サンダーボルト――放たれた稲妻の嵐をカースブレードが吸収しつつ、俺は肉薄する。するとモルファーのローブの袖から光る剣が現れ、こちらの斬撃を防いだ。
「光の剣とはな……!」
『お主の呪いの剣でも、力を吸い取ることはできまい』
フードの向こう、骸骨のような口元がニタリと曲がる。その細い腕で、こちらの剣を防ぎ止めるとか、見た目に反して力もある。
明らかに異形の力を持っている。邪教教団モルファーを作った男だというなら、相応の歳のはずだ。それでこの力は、もう人間ではないだろう。
『あぁ、アレス・ヴァンデ。呪われた王族よ。その身に呪いを宿し、なお戦うか?』
「お前たちのような、民を脅かす存在がいる限り、私に安息はないだろう、な!」
剣と剣がぶつかる。
『皮肉なことよ。民を守ろうとした結果が、その呪いだ。大悪魔を倒し、呪われ、そのザマだ。……いいや、お似合いかもしれんな』
距離が離れる。ジーンベック・モルファーが腕をかざし、火球を放った。二発、三発と、魔法は剣で弾く。
『国も宗教と同じよ。民がいなければ、搾取ができない。だから綺麗事を並べて守ろうとする。お主たちも相当な悪だよ』
「お前の言う搾取が、懐を温めるだけか、民を温めるか。そこに大いなる違いがある」
俺は踏み込む。モルファーもまた光る剣で応える。
「その綺麗事が口先だけか、実行に移されるか。それは見て判断しろ!」
呪いでパワーをブースト。剣で触れたものを断つ、斬れすぎる呪い!
『感じるぞ。お主に渦巻く呪いの力ァ!』
ブーストしても押し切れない。モルファーも踏ん張り、つばぜり合い。人間をやめた教主の暗黒の力は、大悪魔のそれに匹敵する。
『それだけの力がありながら、何故、国に拘る。この腐った世の中をみて、何故自分の国という狭い視野に囚われるのか? お主の力ならば、この世界を変えることもできようものをぉ……!』
「あいにくと、世界征服には興味がなくてな!」
モルファーの左腕を切り落とす。逃げるモルファー。追撃をかけようとしたら、地面から鋭く尖った氷柱が飛び出し。胸と足を貫かれた。
『わからんな。果たして、お主の国の民は、守るに値するだろうか? 腐った貴族に憎しみを覚え、宗教によって汚染された者どもは、たとえ正しい指導を以てしても、逆らい不平不満を漏らす。そのような民を支配することは、私欲がなければ割に合わぬ。報われぬ役割であろう?』
モルファーは悠然と近づく。
『それでもなお、綺麗事を語るお主のことがわからん』
「……綺麗事を語っているつもりはないんだがね」
氷が溶け、体が倒れ込もうとするのを何とか踏みとどまる。不死身だから死にはしないが、さすがにダメージから再生するのに少し時間は必要だ。
「当たり前のことを、当たり前にやっているだけだ。それが綺麗事に見えるというのなら、それだけお前がクソ塗れになっているということなのだろうよ」
雷が落ちた。足のダメージのせいで、動きがとれず直撃した雷によって俺は吹き飛ぶ。全身に走る痛みと、焦げた臭い。呪いがなければ死んでいたな。
「……お前が汚れきっているからこそ、どっぷり悪に染まってしまっているからこそ……周りが綺麗に見えるんだろうさ。お前がクソだらけでもな」
『まだ言うか』
モルファーはまたも近づく。ふわりと騎兵槍が無数に浮かぶ。それで俺を串刺しにしようというのか。これは速度や当たり所によって、手足や首も簡単に飛びそうだ。
『理想を求める哀れな王族よ。世界は綺麗事で出来ていない!』
槍が飛んでくる。――反転の呪い。
俺に向かっていた槍が、猛スピードで反転した。放たれた槍は反射し、壁や天井を貫いた。
「お前は大いに誤解しているよ、ジーンベック・モルファー」
俺は立ち上がる。ようやく右足が埋まった。
「私は理想主義者ではない。むしろ現実主義的だと思っている。お前に理想を語ったことは一度もないし、助け合おうなどとも思わないよ」
黒き呪いの靄を放つ。それはあっという間に、モルファーを包み込んだ。
『呪いの瘴気! ふふ、我が身にそのような呪いは効かぬわ!』
「そうだろうな」
俺は靄を利用して、モルファーに接近した。
「しかし手段というのは、様々だ。一口に呪いと言っても効かないものもあれば効くものもある。何を選び、何を為すか。お前は私を善の象徴のように見ていたようだが、それすらも私から言わせれば、くだらない」
必ず殺す呪いを剣に乗せる。
「必要と思ったことをやるだけだ。そこに善悪のレッテルを貼り付けるな、宗教家!」
ジーンベック・モルファーは死んだ。
・ ・ ・
呪いの反動で俺は死に……しかし不死なので蘇る。
ジーンベック・モルファーは動かなかった。実はアンデッドで、殺す呪いも効かないんじゃないかと、呪いを使った時思った。
モルファーのローブの中は、骸骨だった。スケルトン、いや、所謂アンデッドキング的なものだったかもしれない。
必殺の呪いは、魂をこの体から引き剥がしたのかもしれない。じゃあ俺は、不死の呪いとはいえ死なないのは、引き剥がした魂が強制的に体に戻されているから、か?
わからん。わかっているようで、わからないことも少なくない呪い。
ともあれ、必殺の呪いがきちんと効いたのなら……もしかしたら中身だけどこか逃げたというのでなければ、ジーンベック・モルファー、邪教教団の教主は死んだ。
教団も決死の反撃で塔の奪回をしていたようだし、これで邪教教団そのものも終わりだろう。
あとどれくらい教団の人間が残っているかは知らないが……。
そこで、ふと、ジーンベックが言っていた言葉が脳裏をよぎった。
一度、宗教に囚われた者は、愚かになる。心に刻まれた「教え」を行動規範とする。たとえ宗教から脱しても、その規範はその者を縛り続ける。宗教に汚染された者は、いつまでも争いを生む火種として燻り続ける。そのような者は滅ぼさねば、いつまでも争いが続く――
……それは、お前が正しいかもしれないな。ジーンベック。
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