第252話、暗黒司祭との戦い


 緑の竜騎士らが、一斉に向かってきた。


 一体だけでも面倒ではあるが、邪教教団の魔術師ガウスは、何と言ったか?


 呪いの鎧、その完成形。

 邪教教団モルファーは、呪いの効果で、殺さない程度に人間を延命させつつ、命令に忠実に対応できる戦闘兵器を作っていた。


 王都冒険者を実験体に利用しつつ、最終的に脳味噌だけ取り出して利用していたようだが、それの完成形が、この竜騎士だったとは……。


 こいつに呪いが効かないのは、普通に呪い対策ではあるが、それならばカースイーターはどうだ?

 その呪いの鎧、バリエーションも含めて、俺のカースイーターに弱かったが、果たして――


「これでどうだ!?」


 飛び退きつつ、呪いを吸収。すると竜騎士たちからドス黒い呪いが溢れ出てきた。思った通りだ……!


 竜騎士たちが動きを止める。鎧の隙間から出て行く呪いの煙。それを拒むように、むしろ竜騎士は後退しようとするが、その動きは酷く緩慢だった。

 ガウスが驚愕の声をあげる。


「な、何っ!? これは呪いが、引きずり出されているというのか!?」


 どうやら、俺が呪いを吸い取れることを知らないらしい。王都ならば、一般人にも噂になっていると思うが、よそにいた者なら知らなくても不思議はない、か……?


 いやいや、勉強不足だろう。俺は、お前たち邪教教団からは、目の敵にされている自信がある。当然、俺に関係する情報も調べたはずだ。それで呪いに対する制御について、知らないとは、随分と舐められたものだ。


「ぐぬぬ、アレス・ヴァンデめ……!」

「さあ、どうするガウスとやら。お前のご自慢の人形たちは動きが止まっているぞ?」


 呪いの吸収が終わり、立ち尽くす竜騎士たち。俺は、一気にガウスに突進する。お人形が動かないうちに、さっさとケリをつける!


「……ふふ、それで勝ったとは思わぬことだ!」


 ガウスは不敵に笑った。魔法でも使おうというのか? その前に潰――


「!?」


 とっさに気配を感じて、コースを変える。俺が走っていた針路をなぞるように竜騎士が飛んでいった。


「動く……!?」


 呪いを取り除いたはずだった。間違いなく、だ。事実、カースイーターは呪いを吸い取っていた。

 なのに、何故、動く?


「呪い以外で動いていたのか……!」

「ご明察。その人形は、我が魔力にて動かしている!」


 ガウスがバッと手を上げると、三体の竜騎士が向かってきた。


「なるほど、人形使いだったか」


 竜騎士たちは、ガウスが遠隔で操っている。人形使いと言っても、糸のようなものを繋げての操作は、さすがに複雑な戦闘機動は不可能だろうから、魔法の類いだろう。


 回避と共に、全体を一瞥。竜騎士の数は六体。赤い奴より遅いが、以前、魔の塔ダンジョンのフロアマスターとして立ち塞がった奴と比べても、若干動きが鈍く感じた。

 さすがに六体同時に操るのは、人形使いでも難しそうだな! これなら同時に攻撃されても――


 前から二体、後ろから一体が向かってくる。


「対応できる!」


 前の二体を躱し、遅れてきた後ろの一体に、振り向きざまの一閃。加減無効の一撃は、竜騎士の頭を吹っ飛ばした。


「まず一体――うおっ!?」


 首を吹っ飛ばしたはずの竜騎士の腕が俺の胴にぶつかり、逆に飛ばされた。ガウスが笑う。


「ふふふ、そいつらは我が人形だ。頭がなくとも、制御できる!」


 そうだ、こいつら生きていないんだ。普通の倒し方では、仕留めきれないか。


「それっ、くだばれ!」


 倒れた俺にトドメを刺すつもりか、次の竜騎士が向かってくる。高速で突っ込み、俺を蹴飛ばそうというのだろう。やらせるかよ!


 貼り付けの呪い! 如何なるものも、その場で動けなくする超重量の呪いを発動しつつ、俺は丸まった。

 竜騎士が滑りながら俺を跳ね飛ばそうとしたが、結果は自身が躓いてすっころぶ羽目となった。


「なんだと!?」


 驚くガウス。まさか人間が、あの突進で吹っ飛ばないととは思わなかっただろう……!


 貼り付けの呪いを解除。素早く起き上がるが、次が向かってきた。数で攻めているんだ。そうやって連続で仕掛けないと意味がないよな。

 だが――


「遅いんだよ」


 複数制御を一人でやっているツケが出た。俺はカースブレードで突進してきた竜騎士の首、腕、そして足を切り落とした。


「動ける足がなければ、いくら操ろうとも動けないだろう?」


 一体を行動不能にした刹那、次の一体が向かってくる。


「一対一なら、大きな図体というのは、それなりに有効だろう」


 だが複数で、一人を囲む場合、一人辺りが使用できるスペースが狭すぎて、同時攻撃が難しくなる。

 それでなくても、全周を包囲したとしても全員が同時に攻撃できるわけではない。密集すれば、敵を狙った攻撃がはずれ、味方に当たってしまうという事故も起こる。

 しかも、大柄のボディで、一撃離脱戦法で来るなら、どうしても攻撃タイミングをズラサさないといけなくなる。仮に包囲した中に突っ込めば、離脱時に味方と激突してしまうから。


 だから自然と攻撃時は一対一にならざるを得ないわけだ。数の優位はどうした?


「ば、馬鹿なっ……!」


 ガウスが後ずさる。六体全部、片付けてやった。


「残るは、お前だけだぞ、ガウス!」

「ライトニング!」


 光弾魔法を短詠唱。しかし俺はカースブレードで魔弾を阻止。飛んできた魔法は呪いの剣が喰らった。


「おのれ……!」

「終わりだ」


 俺は、ガウスへと歩み寄る。塔の制御装置の前で、ライトニングを撃って抵抗するガウス。無駄だ、無駄。カースブレードが全て阻む。


「往生際の悪い奴だ」

「ぐっ、おのれ! おのれー!」


 ガウスは喚く。


「貴様ごときに! 我らが師、モルファー様の偉大なる教えを阻まれるわけには……!」

「諦めろ!」

「嫌だ! この世界を! 滅ぼすのだ! 貴様ごときに、偉大なる師の目指した理想を邪魔立てしていいはずがないっ!」


 宗教家とは話が通じないものか? さっさと終わらせよう。


「くっ、来るなァー!」

『――見苦しいぞ、ガウス』


 突然、この世のものとは思えない、重々しく冷ややかな声が浴びせられた。

 ガウスがギョッとした顔で固まる。何だ、今の声は?


『暗黒司祭ともあろう者が、醜態を晒すでない』

「も、モルファー様!」


 どこからともなく聞こえる声に、ガウスが周囲をキョロキョロと見回す。いや、それより、モルファーだと?


 この声の主は、邪教教団モルファーのもの……?

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