第250話、邪教教団を舐めるな
前回同様、前座の町を一掃し、制御装置のある神殿に向かう。そして神殿には入らないというレヴィーには表で待機してもらった。
「神殿の門番はなしか」
前回と違って。するとベルデが言った。
「どうせ入ったところで待ち伏せしてるんだろうよ」
神殿に突入する。最初のフロアの奥で、黒ローブの魔術師が並んでいた。ほらな! 攻撃魔法を――
その瞬間、俺たちの周りで朦々たる灰色の煙が上がった。あっという間に視界が煙に覆われ、見えなくなる。
「煙幕ってか……!」
小癪な真似を。この煙で姿を隠して、何が近づいてくる?
『ふはは。ここまでだな、アレス・ヴァンデ』
煙の向こうから男の高笑いが聞こえた。
『石化の魔法だ。貴様たち全員、石となって果てるのだ。ふはははっ!』
ちっ、石化魔法の煙だったか! やられた! 俺は全魔法無効化――治癒か効果アップ系の魔法さえ無効になる呪いで、石化は防げるが、仲間たちはそうはいかない!
煙が晴れる。振り返れば、ソルラ、シヤン、ベルデが石像と化していた。
「ぐぬっ、なんと! 何故、お前たちは石化しないのだ!?」
お前たち? 見れば俺の他に、邪王が元と変わらない姿でそこにいた。
「ふむ、そんな生半可な攻撃が、私に通用すると思ったか?」
邪王が左手を突き出せば、見えない壁が魔術師たちをまとめて吹き飛ばして、壁に叩きつけて、圧死させた。あの高圧的な声の魔術師も巻き添えだろう。
「さすがだ、邪王。石化にも耐性があるのか」
異世界で不死身の化け物と言われていたというだけあって、不死以外にも一通り耐性がありそうだな。
「貴殿もそのようだな」
「俺は呪いの力だ」
「無事なのは喜ばしいが……。ソルラたちが石化してしまった」
「俺が不死の呪いをかけておいたから、石化さえ解ければ問題ない」
問題は、石化を解く方法だ。以前、ゴーゴンの邪眼による石化の呪いで、多数の冒険者が石化していたが、それは俺がカースイーターで呪いを喰らうことで解除できた。
が、今回は、呪いではなく魔法というのがネックだ。
「それで、解けるのかアレス?」
「ちょっと工夫がいる。魔法効果解除の呪いを使う」
「それで、石化も解けるのか?」
「魔法による石化ならな」
「便利なものだな」
「そうでもない」
何せ、魔法ではなく、呪いだからな。
「俺が、カースイーターで人から呪いを剥がせるからいいが、この呪いは、自分に有利な魔法効果さえ受けつけなくなる」
諸刃の剣というものだ。もっとも、呪いは後で取り除けばいい。今は石化解除を優先する。
「しかし、なめてかかったつもりはなかったが、迂闊だった」
俺や邪王以外のメンバーだけだったら今ので石化全滅だ。
「ふん、それは自分が存在している限り、全滅ではないから、気にすることはない。私と貴殿は、生き残っているからな」
石化した三人を元に戻す。で、つけた呪い――魔法効果解除をカースイーターで吸収する。これでまた、有利な魔法魔法効果などを受けられるようになった。
「すみません、アレス。油断しました」
ソルラが早速謝ってきたが、それは俺も同じだ。お前たちのせいじゃないよ。
・ ・ ・
邪教教団の戦闘員がわらわらと出てきた。しかし、石化されたことで悔しい思いをしたソルラ、シヤン、ベルデの挽回の意思は強く、瞬く間に片付けられていった。
「リルカルムは無事か……?」
俺としては制御装置のもとに行きたいところだが、不明のリルカルムがどこにいるかも気になる。彼女も不死者だから死んでいないとは思うが。
皇帝の身柄も、今どうなっているか気になる。個人的には助けたくないが、まだ利用価値があるからな。まあ、あの男も、死なない呪い持ちだから、全然生きているとは思うが、邪教教団がどう扱うかはわからない。
「邪王、頼めるか? 俺は、これ以上おかしなことになる前に塔の制御装置を取り戻す。あなたは皇帝の間の様子を見に行ってほしい。ラウダ・ガンティエを見つけたら保護してくれ」
「わかった。邪教教団の幹部どもがいたら、片付けてもいいな?」
「もちろんだ。……そっちにいると思うか?」
制御装置のそばに居そうな気もするが。
「俗人は玉座のある部屋が好きと相場が決まっている。権力欲があれば、なおのことな」
「任せる」
俺は、制御装置の部屋へ。邪王は皇帝の間へと向かった。邪王の能力なら、単身で行っても問題ないだろう。彼は世界を滅ぼせる力のある男だ。
ソルラたちに雑魚の撃退を任せつつ、先を急げば――
「ここは通さん!」
邪教教団の魔術師らが氷の刃を飛ばしてきた。……舐めるなよ。
カースブレードで弾きつつ、前進。いかに高速の氷の塊と言えど、切断するのは容易い!
「ば、馬鹿な!? 魔法だぞ……!」
黒き呪いの靄を飛ばす。それらは邪教教団魔術師らをあっさり包みこむ。
「石化ではないが……悪いな」
彼らの横を通り抜ければ、呪いによって黒く変色した死体が床にバタバタと倒れる。
次に来たのは狼型の魔獣。敵の中に獣使いがいたか。
「どけ」
カースブレードで切断。飛び込んでくるだけの能無しめ。
「いやはや、随分と荒っぽいですねぇ、アレス・ヴァンデ――」
「黙れ」
呪いの腕を伸ばし、耳障りな声を発して現れた敵魔術師の頭を掴み、握り潰した。こちとら、ちょっとキレてるんだよ。不死の呪いがなけりゃソルラたちを失うところだったんだからな。
カン、カン、と金属が床を叩く音がした。通路の向こうから、いつぞやの竜騎士の色違いが現れた。
「今度は赤いヤツか」
前回のヤツは半端な呪いは通用しなかったな。
「……邪教教団を舐めるな、と言うところか?」
床を抉るようい軋むような回転音と共に騎兵槍を手に赤い竜騎士が向かってきた。
「だが、殺せない相手ではない。……そうだろ?」
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