第249話、繰り返す邪教教団
アレス・ヴァンデらの魔の塔ダンジョンの侵入。邪教教団モルファーの暗黒司祭、ガウスはすでにこの英雄王子が、一度塔を制覇したことを知っている。
決して油断するつもりはないが、一度できたから二度目も上手くいくとは限らないと思っていた。慣れてきた頃の油断、ではないが、二回も自力で突破は無理だろうと予想していた。
しかし、結論から言えば、アレス・ヴァンデらの侵攻速度は、微塵も落ちず、むしろ加速した。
侵入者報告より三時間後には、アレス・ヴァンデらは60階を突破してしまったのである。
「あり得ない」
疲労させる? とんでもない。
「こいつらは化け物か!」
驚愕である。常人の所業ではない。何故このようなことになっているのか。どうしてこうも簡単に突破できるのか。
「ガウス様……」
「守りを固めよ」
ガウスは背筋を伸ばした。アレス・ヴァンデという規格外に怖じ気づいている場合ではない。
「モルファー様は、アレス・ヴァンデを倒さねば我らに未来はないと仰せだ。必ず、ここで奴の息の根を止めるのだ!」
・ ・ ・
一度経験をしていれば、次は何をするべきかの判断も早い。
俺たちは、順調にフロアボスを倒し、階を突破していった。前回と違うふうにアレンジを加えてくるかもと思ったが、そんなこともなかった。
モンスターの出現量を調整はできてても、階の構造を変えるとかまでしてこなかった。そこまで弄るのに、何か制限があるとか、あるいは高度な操作技術でもいるのかもしれない。
これはただの想像で確信はないが、こんなことだったら塔の制御方法を覚えたリルカルムから、もっと詳しく聞いておけばよかった。……まあ、ここまで来たら、その必要はなかったかもしれないが。
階をクリアする手順はわかっている。一回目に比べ、リルカルム、ジン、ラエルがいないが、ソルラが大幅パワーアップしていて、さらに魔王級の強さを持つ邪王がその不足を補って余りある活躍をした。
こんなことを言うとあれだが、正直に言って邪王だけでも手順さえ教えておけば、単独で塔を制覇できてしまえる気がする。
モンスターの大群も一薙ぎで吹き飛ばす様は、リルカルムの大魔法にも匹敵する。しかも呪文詠唱なしで出るのだから、これは国だって滅ぼせそうである。一人で万の軍勢をも退けることができる……それが邪王という男だ。つくづく味方でよかった。
そして65階で、再び図書館を炎上させて、65階のフロバボスこと、ドラゴニュートの監督者ダウローと再会した。
「やあやあ、アレス・ヴァンデ。また会ったね」
「特に会うつもりはなかったんだがね」
邪教教団モルファーが塔を占領し、各階の移動に制限をかけたせいで、また一からやり直さねばならなかった。
「それは大変だったね。まあ、その最深部はすぐそこだ。頑張って」
「今回も素通りさせるのか? 塔を取り戻した邪教教団モルファーだ。今度こそ戦えって言われていたりは?」
「ない。ボクには一言も言ってきていないし、挨拶にも来ていない。つまり、彼らにとって、その程度だということだ」
ダウローは手をヒラヒラさせた。ここには他の教団員はいないようだ。敵がいないというのであれば、66階に挑む前に――
「確認しておくが、皆大丈夫か?」
いよいよ魔の塔ダンジョンを占領した邪教教団と対決する。どこにいたかは知らないがせっかく集まってくれた敵だ。ここで一網打尽にして、組織を壊滅させてやるつもりだ。
前回同様の集団戦として教団員とぶつかるわけだが、ここまで小休止数回で来てしまったがお疲れではないか?
「大丈夫ですよ」
ソルラは即答した。シヤンとベルデも頷く。
「というより、アレス、何かしたんだぞ」
「あんま疲れていないんだよな。疲れない呪いか何か付与したんじゃねぇの?」
「バレたか」
呪いをかけたよ。何せ66階までの強行軍だからな。いくら二度目とはいえ、奴らが仕組みを変えてきた時のために不死の呪いと、疲労しない――寝たくても疲れていないので寝れなくなる呪いをね。
「さすがに俺も、素面で全階制覇を一日以内にできるなんて思っていないからな」
無茶をさせるとわかっていたから、付き合わせた面々には対策してある。普通に考えたら、もっと前の階で、体力の限界を迎えているだろうに。
「邪王は? 大丈夫か?」
「愚問だ。全然余裕だ」
さすが。頼もしいね。
「向こうは、こちらの速度に泡を食っているだろうな。このまま一気に攻め込んでしまおう」
全員が頷くのを確認し、いざ。
「じゃあな、ダウロー。今度こそ次に会うことはないだろうけど」
「いってらっしゃい」
ドラゴニュートと別れて、いよいよ66階に。
小高い丘に出て、廃墟の町と神殿が見えた。ベルデが皮肉げな笑みを浮かべた。
「デジャヴなんだよな。……それとも間違い探しか?」
「前回同様、町には邪教教団の団員がいるみたいだな」
一応ダンジョンの名を冠するだけあって、前回レヴィーのアクアブレスで破壊された街並みが、元に戻っている。そして町の防備も。
「今いる奴ら、前回ここの奴らがどうやってやられたか、知らないんだろうな」
「知っていれば、町に立てこもるなんてやらないだろう。……レヴィー、やってくれ」
アクアブレスで再び町を薙ぎ払い。凄まじい水流が、根こそぎ町を洗い流していく。
「デジャヴですね、ほんと」
ソルラが感心とも呆れとも取れる調子で言った。一掃し終わり、やはり無傷の神殿へと俺たちは向かう。
「余計な仕事を増やしてくれた礼だ。今度こそ、教団を壊滅させてやる」
長き因縁に終止符を。今後や奴らに悩まされることがないように。最終決戦だ。
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