第248話、魔の塔ダンジョン強襲


 ガンティエ帝国帝都に到着すれば、城を守っているのが帝国兵ではなく、邪教教団の戦士たちだった。

 本当に教団に制圧されてしまったんだな……。


「面倒なことになっているな」


 やはり邪教教団モルファーは、殲滅しないといけないな。こういうまともではない宗教は後を残すとろくなことにならない。


 リヴァイアサンの背に乗り、上空から見下ろしている俺たちだが、さてさて、どう城の中心に立つ魔の塔に乗り込むか。


 あれが上から乗り込めるなら、素早く突っ込むという手はあるが、天辺から入れないという面倒仕様。どの場合でも必ず入り口フロアから入らないといけない。その後は、フリーパスなり登録した冒険者証で、好きな階に行けるのだが。


「下りるとなると、教団員が邪魔なんだよな」

「あの城は破壊してはいけないのか?」


 邪王が聞いてきた。なるほど、その手があるな。……ついでに魔の塔も破壊できないものかと思ったが、内部制御装置以外では壊せなかったか、確か。

 そうだよな。外から破壊できるなら、中に入らずとも攻撃して、ヴァンデ王国に三十年も存在し続けなかっただろう。 


「レヴィー、アクアブレスで城壁の上のほうを削ってやれ」

『わかった』


 リヴァイアサンのアクアブレス。それが城壁の上の歩廊や尖塔を見張りもろとも吹き飛ばす。強固な岩の壁も、聖獣のブレスは切断、破壊し、その猛烈な勢いは人など軽く跳ね飛ばしてしまう。


 ある程度、壁は残しつつ、周囲に睨みを利かせていた教団員を叩き落とす。そして城の中庭、塔の周りにいた教団員たちは上からの洪水、岩石片、そして同胞が流れてくるのに巻き込まれる。


 城門や壁の窓から水が溢れ出す様を見るに、中庭は一旦水で満たされるほどの量まで水位が上がったようだった。


「うわー……」


 ソルラが、何とも言えない表情で見下ろしている。下の教団員たちにとっては、あっという間に水に呑まれただろうな。為す術なし。


「綺麗になったな」


 ベルデが皮肉げに言えば、目を凝らしていたシヤンが口を開いた。


「周りは沈黙したぞ。今なら、塔に簡単に乗り込めそう!」

「じゃ、さっさと下りよう」


 俺はリヴァイアサンに降下するようお願いする。こういう時に弓矢や魔法で狙われるのが面倒なのだが、城の上階にいた敵は一掃されたから抵抗はなかった。

 いざ、魔の塔ダンジョンへ。



  ・  ・  ・



 塔の入り口には、教団員はいなかった。地面がぬかるんでいるのは、アクアブレスの影響。洪水の後のような有様を見れば、ここを守っていた兵も水にさらわれたと見て間違いないだろう。


「乗り込め!」


 せっかく開いているのだから、遠慮なくお邪魔する。入り口入ってすぐのフロア。ここから真面目に一階ずつクリアしていくつもりはない。最深部まで、冒険者証で飛ぶ!


 ということで転移魔法陣と端末のところに来たのだが……。


「反応してなくね?」


 ベルデが端末をいじった。


「壊れた、か?」

「上で機能を止められているのではないか?」


 邪王が指摘した。


「ここを制圧した者たちが、我々の侵入を阻むために」

「……そう考えるのが妥当だろうな」


 そりゃここを取り戻した邪教教団モルファーにとっては、同じように最深部に来れる奴に直撃されても困るということだ。

 端末が故障しているのでなければ、俺たち対策だろうな。


 シヤンが嫌そうな顔になる。


「また、一からやり直しぃ?」

「そうなりますね」


 ソルラはきっぱり言った。


「でも、35階くらいまでなら、数え切れないほどやってきているので、最短ルートで行けますよ」


 何とも頼もしいお言葉だった。そういえば、この塔に挑んだ当初、神殿騎士だったソルラは、装備が重く、地形突破に悩まされて自分に自信が持てなくなった。それがどうだ。今ではすっかりベテランの貫禄が滲み出ている。


「ん、何です、アレス?」


 俺の視線に気づいて、ソルラが聞いてきた。真面目ぶっているところは変わらないな。


「いや、頼もしくなったな、と思ってな」

「どうも」


 以前の自分を思い出したのか、少しムッとしつつ恥ずかしいのか視線を逸らされた。頼もしくなったのは本当だ。


 邪教教団の団員の修行の場という説もある魔の塔ダンジョン。確かに、ソルラや仲間たちの実力を伸ばしたことを考えれば、あながち間違いではなさそうだ。

 また一階からと聞くと、暗鬱たる気分にもなるが、俺としてはこの頼もしき仲間たちがいれば、なんてこともないと思えた。


「よし、行くぞ」


 時間が勿体ない。



  ・  ・  ・



 暗黒司祭ガウスは、魔の塔ダンジョンの最深部神殿の制御室にいた。侵入者あり、と報告を受けて、それがどうも冒険者の一団を聞き、最初は部下たちに処理を任せていたのだが――


「いったいどういうことか?」

「司祭様。侵入者はすでに30階を突破しました! あり得ないスピードです!」

「報告から、まだ二時間と経っていないはずだが?」


 恐るべき手練れ。まるでどういう仕組みかわかって各階を突破しているかのような手際だった。


「間違いない。奴だ。噂のアレス・ヴァンデが来たのだ!」


 もう一度、一から突破しなければならない――魔の塔ダンジョンを自力でクリアした者にとっても、それは途方もなく、また精神的に苦痛を強いるはずだった。

 とても苦労させられた塔。傷つき、何度も死にかけて、疲労しきってクリアしたところなど、まともな感性の持ち主なら二度とやりたくないと思ったはずだ。


 それでもなお挑んでくる猛者。そして使命感を持っている敵となれば、おそらくアレス・ヴァンデくらいしかいない。


「司祭様、塔の構成を変えますか?」

「いや、このままでいい。一気に登ってくるつもりだろうが、このまま疲れさせろ」


 知っているからこそ、急ぎたくなる。手順が同じなら、と強行し、つまらぬところでミスを起こさせられるかもしれない。下手に連中に考えさせて足止めしてしまうと、休憩する時間を与えてしまう可能性があった。


 最深部に到着した時、焦りと疲労で本来の能力を出せないようになっていれば上出来。強行軍をさせ、そこで捻り潰す!


「来るなら、来い。アレス・ヴァンデ!」

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