第240話、王都にいるうちに、孤児院を建設する
塔の攻略だったり、帝国の扱いについて活動していたら、王都の拠点が様変わりしていた。
「いつお帰りになるか、ヤキモキさせられましたが、無事なご様子で安心しました!」
カミリア・ファートは、満面の笑みで俺を迎えた。
冒険者パーティー『バルバーリッシュ』のリーダー、ファート伯爵家ご令嬢。で、今は、大公家に使える騎士、という扱いだっけか。
魔の塔ダンジョンの攻略最前線で戦った猛者であるが、ダンジョン59階で瀕死の傷を負い、無念の離脱を強いられた。俺に仕えられたと大喜びだっただけに、戦線離脱は凄まじくショックだったと聞いていた。
「留守を預かる者として、お屋敷のほうは修繕致しました!」
「……確かに」
アレス・ヴァンデ大公邸――俺の命を狙う殺し屋や悪党どもを引き寄せる囮だったこの屋敷は、大公邸に見合わず、結構傷みや損壊があったのだが、それらは影も形もない。庭も綺麗に整えられていて、世間に出しても恥ずかしくない貴族の屋敷となっていた。
俺の命を狙っていた暗殺ギルドを含めて、大方掃除したから、そろそろ囮屋敷も綺麗にしてもいいんじゃないかと思っていたが……手間が省けたな。
「ご苦労だった。いいね」
「光栄です、アレス様」
カミリアは恭しく頭を下げた。真面目ぶっているが、嬉しそうなのが見てとれる。俺たち攻略組がいない間、よく整備してくれたと思う。
「体の方は大丈夫か?」
「はい、もうすっきり! いつでも戦えます!」
大怪我からの復帰。リハビリの進捗を聞いたつもりだったが、その分なら、心配いらなさそうだ。……といっても、もう魔の塔ダンジョンの攻略はないんだけどな。
「あと、実に勝手ながら、マルダン殿と相談し、孤児院の方の準備を進めています」
「そうか。中々触れなかったからな。手間をかけたな」
「いいえ。これくらいしかお役に立てなかったですから」
俺やダンジョン攻略組に随伴できず、リハビリに時間を使いつつ、俺がやろうとしていた孤児院まわりの準備を進めてくれたという。魔の塔ダンジョン攻略が優先事項ではあるが、孤児たちのことも進めたいという俺の気持ちを汲んでくれたのだろう。
「ただ、こちらでできたのは、人員と孤児院で使う家財道具一式というところですが……。模型は拝見しましたが、建物自体はどうするかお話を頂いていなかったので」
「魔法で建てられないか、ってやつだな。短期間で作りたいから、業者も手配はしていない」
「ですよね? マルダン殿からそのように聞いておりましたので。……どの道、先の王都でのダンジョンスタンピードで、今、王都の建築関係業者は空きがないほど大忙しですが」
「あー、そうだよな」
モンスターの攻撃で破壊された建物も多く、建築関係は大車輪の活躍だろう。まだ孤児院の建物を建てていなくてよかった。
状況によってはモンスターの破壊に巻き込まれていたかもしれないし、仮に業者でも入れておいたら、大事な王都復興にも影響が出ていたかもしれない。
「こちらは魔法で、早めに建ててしまうか。人も道具も待たせてしまっているようだし」
・ ・ ・
魔術師のマルダン爺も、日常生活を送る分には問題ないレベルまで回復していた。
俺はカミリアと早速マルダン爺に会って、孤児院の内装やその他確認事項を話し合った。
その後、回収屋のジンを訪ねて、孤児院を建てた。クレン元侯爵の敷地――今では俺の預かりであるが、事前に模型を作ったものを参考に、数時間かけて完成させた。
「うん……いいね」
「お気に召したようで何よりです」
クリエイトロッドを使ったジンは微笑した。なお、素材を生成する魔力には、マルダン爺とその仲間の魔術師たちも協力した。……彼らは皆、クリエイトロッドに興味津々の様子だったが、ジンは作業に貸すことはあっても、終わったらきちんと回収した。
「こんな短期間で、お屋敷ができてしまうとは……!」
カミリアはビックリしていた。それは俺も同じだ。話には聞いていたが、いざ実物を見てしまうとな……。
「はあ……」
手伝いにやってきたソルラやシアン、バルバーリッシュやリチャード・ジョーら鉄血メンバーも驚愕する。
「はい、夕方になる前に、家財道具一式、中に運び込むよー」
「はい!」
冒険者たちで、机や椅子、ベッドなどを運び込む。ただの屋敷じみた外観だった孤児院にも中身が形作られていく。中からは、ベッドなどを組み立てるためのハンマーを叩く音などが聞こえた。
俺は、マルダン爺に段取りを説明した後、建物から出てきたジンに声を掛けた。
「急に呼び出してすまなかったな。君には世話になりっぱなしだったが」
「孤児院の建築自体は、前々から聞いていましたからね」
回収屋は微笑した。
「これで、本当に最後、ですかね……?」
「契約上は、そうなるな」
魔の塔ダンジョンも攻略し、素材回収業務は終了。そして前に相談した孤児院を建てることに関しても、たった今、それが果たされた。
「報酬は用意してある。こちらとしてはボーナスもつけた。君には助けられたからね」
「光栄です、アレス。……おっと、契約終了ですから、これからは様をつけないといけませんね」
「こういう個人的な会話では、呼び捨てで構わんよ、戦友」
俺は感謝の気持ちを抱く。ジンとその弟子ラエルは、俺たちのダンジョン攻略に随伴し、よく働いてくれた。合同パーティーでは死亡者も出たが、結局俺たちのパーティーでの死亡はなし。それにジンたち回収屋が大きく貢献したのは間違いない。
「お世話になりました」
「こちらこそ。……それで、差し支えなければ、これからどうする?」
「そうですねえ、この王都にダンジョンはなくなりましたし……。回収屋はダンジョンあるところにいてナンボですからね。近いうちに、移動するかもしれません」
「そうか。……頑張ってくれ」
そばにいてくれると色々知恵も借りられたが、彼らには彼らの人生がある。ジンは肩をすくめた。
「それで、リルカルムの件、どうします?」
災厄の魔女の今後。帝国の諸問題を解決したのち、魔の塔ダンジョンの解体と、その後のリルカルムという存在について。ジンは事前、俺に指摘したのだ。彼女の存在は、周辺国を含め、危険視されるかもしれない、と。
「もしよければ、我々が彼女を旅に連れ出してもいいですが」
考えられる三つの道。その一つである、『リルカルムにスリルを提供すべく、一緒に冒険者でもしながら旅をする』。
「ありがたい申し出だが、本人がいないところで進める話ではない」
俺は苦笑する。
「まあ、彼女については、俺に責任があるからな。よく話し合って決めるさ」
それに当面は、まだ彼女と、魔の塔ダンジョンに頼るところが大きいから。
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