第217話、アレス VS リマウ
魔の塔ダンジョン66階神殿内。邪教教団モルファー王都教団指導者を名乗るリマウ・ランジャに、俺は迫っていた。
彼が召喚した悪魔を両断。するとリマウは俺に手を向けていた。
「雷鳴!」
雷が走った。とっさにカースブレードを出していなければ、瞬きの間に貫かれていたかもしれない。耳によろしくない攻撃だ。
「呪え――」
黒い靄状の呪いをリマウめがけて放つ。しかし、靄を貫いて雷が連続で放たれる!
「私に呪いは効きませんよ、アレス・ヴァンデ殿」
リマウは雷を操りながら言った。
「呪い除けの魔道具をきちんと身につけています。ここにくるまで、貴方が呪いを多用したのを見ていましたから!」
しっかり対策済ってわけか。やるじゃないか。
「ちっ!」
しかし、このレベルの雷を自在に連発するとは。リルカルムも大概だが、リマウ・ランジャもまた、暗黒魔術師の上に君臨するだけの魔術師のようだ。何だか雷がヒュドラの頭のようで、連続して噛みつきを繰り出しているかのように見えてきた。
「さすが五十年前に大悪魔を討伐してまわった英雄殿だ。私の雷をこうまで凌いでいる方は初めてですよ!」
余裕でいられるのも今のうちだぞ。俺は剣で雷を弾く。それらは四方に飛び、天井や床を穿った。カースブレードでなければ弾くこともできずやられていただろう。だが、如何に魔剣をもってしても、的確に跳ね返すには、剣の腕前も必要だ!
角度を調整し、雷の一発をリマウへと跳ね返す。
「!」
自ら放った雷が迫り、リマウはとっさに首を傾けて躱した。しかし雷の範囲内だったか、耳を掠める。
「あうっ!」
リマウはとっさに耳を押さえた。雷が中断したうちに、距離を詰める。リマウは片手で耳を押さえつつ、残る片手で再び雷を放った。跳ね返す! 跳ね返す! 跳ね返す!
「っ!」
リマウが一歩身を引く。俺はすぐそこまで迫っていた。邪教教団指導者の一人、覚悟!
「障壁!」
防御魔法が、カースブレードの斬撃を防ぐ。
「お前さえ、現れなければ……!」
リマウの怨嗟の声。それは俺の台詞だ。邪教教団なんてものがなければ、死ななくて人がいっぱい死んだ!
呪いの魔剣が、障壁の魔力を喰らう。防いでいた魔法の壁を、メキメキと音を立てて、剣が裂いていく。
「……くっ!」
「一足先にあの世に逝っていろ……!」
世界は滅ぼさせない。カースブレードが障壁を両断した。守りが消え、返す刃でリマウを――
「お前さぇぇ――!」
光が弾けた。俺の胴体を鋭い痛みと、何かが駆け抜けたような感覚が突き抜けた。瞬時に、また胴体の一部に穴が開いたかなと思った。
だがその時には、カースブレードがすっと、リマウの体をすり抜けていた。飛び散る血飛沫。リマウの断末魔は、実にあっけなかった。
教団指導者は倒れた。討ち取った。三十年ほど、我がヴァンデ王国王都に存在し続けた魔の塔ダンジョンの主。いつからその職にあったのか、外見からは想像できないが、少なくとも現状のトップを倒したのは間違いないだろう。
しかし、何とも嫌な気分だ。邪教教団は敵であり、王国の平和を乱す事件を引き起こしてきた。世界にとっても敵なのは違いないが、リマウ・ランジャという個人に対して、感情的になるような要素はない。
個人でなく、組織を敵と見なしていたから、だろう。しかし、彼もまた敵だった。それも間違っていない。
リマウを倒したことで、悪魔たちも消えた。仲間たちは……全員健在だ。
「アレス!」
ソルラが駆けてきた。
「やりましたね!」
「さすがなのだぞ!」
シヤンも追いついてきた。ここでのボスを倒した。それはつまり、魔の塔ダンジョンを巡る戦いもほぼ終わりに差し掛かったとみてもいい。後は塔を操る場所などにたどり着いて、解体なりすれば完了だ。
「……何だか嫌な予感がします」
ジン、そしてリルカルムが来た。
「この奥で、魔力が渦巻いている。ねえ、もしかして何か始まってない?」
災厄の魔女が、とても気になることを口にした。ベルデが声を出した。
「おいおい、それってまさか、邪神の復活ってやつか――?」
「急ごう!」
何が邪神復活が果たされそうにない、だ。しっかり時間稼ぎだったってか?
・ ・ ・
復活の間、暗黒魔術師ハディーゴは、邪神復活の儀式を行っていた。
足りない魔力は、忠誠心に溢れた幹部たちの願い通り、復活に必要な魔力の足しとなった。
「マスター・リマウもまた、覚悟が足りなかった」
ハディーゴは、復活の間の中心に渦巻く深き闇に、魔力を投入する。
「失敗を恐れていては、何も成すことはできない……」
ゴゴゴゴ、と大気が震えだす。魔力が躍る。開かれし門。冥府の底に沈む、邪悪なる神の帰還だ!
「顕現せよ、邪神! この世に姿を現し、そして世界を蹂躙せよぉ!」
その瞬間、
深き闇があった場所に、人影があった。
――もしや、邪神!
ハディーゴは、それを見つめた。
若い男だった。黒き甲冑をまとった、黒髪の青年。姿こそ、思い描いた邪神らしさがなく、拍子抜けしたのも一瞬、彼の黄金色の瞳を見た時、自分が世界から切り離されたような感覚に襲われた。
――これは……!
ただ者ではない! 人の姿をしているが、人ならざる者だ。ハディーゴは反射的に跪いた。
「……ここは」
青年の姿をした得体の知れない何かは淡々と言った。
「どこだ……?」
「ご復活、おめでとうございます。邪神様」
ハディーゴは言った。青年は怪訝な顔になる。
「邪神?」
「まごうことなき、あなた様のことにございます。邪神復活の儀によって、ここに顕現なされました」
「俺は、邪神ではない」
青年は感情のこもらない声で言った。
「……俺は、誰だ?」
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