第214話、魔の塔ダンジョン66階
魔の塔ダンジョン66階、俺たちは、小高い場所にある祭壇のような場所に出た。
「へぇ……。これはまた……」
広い屋内、その中に町が一つと、奥に神殿があるのを見れば、ここもまたかなり広い場所だというのが一目瞭然だ。
「今さら、広さどうこう言うつもりはないけどよ」
ベルデが口元を引きつらせた。
「またまた奥に行くまで長そうだなぁ」
これまでの階を振り返れば、町もあったし、塔のある空みたいなところもあった。規模こそあるものの、怯むような者は一人もいない。
「何となくだけれど」
リルカルムが神妙な調子になる。
「この階で、終わりな気がするわ」
「そう」
レヴィーもまた、奥にある神殿を睨んだ。
「あそこに膨大な魔力を感じる」
「邪神とやらの復活は、あそこで行われるということか」
ここが邪教教団の、邪神復活の拠点である以上、そういうことになるだろう。65階のフロアボスであるダウローも、終わりはすぐそこって言っていたしな。
「教団の連中も、本気で阻止してきそうです」
ジンが遠距離視覚の魔法を使いながら言った。
「町に教団員が多数……。バリケードなど仕掛けも用意しているようです。迎え撃つ気満々ですよ」
「それは面倒だな」
守りを固められているとなると、正攻法だと苦労させられる。そもそも人数差が絶望的に開いているから、いちいち相手していたらしんどいんだよな。
「やっぱり町ごと、吹っ飛ばせれば楽なんだが」
ちら、とリルカルムを見る。お前は、こういうの好きだろう?
「私が、やる」
レヴィーが珍しく一歩前に出た。
「この奥の魔力、淀んでいて私は進めない。だから、ここで私が道を切り開く」
……そうなのか? リヴァイアサンは聖獣とも言われているから、邪神復活の濃厚な気配に近づけないとか、そういうのがあるのだろうか? 体に悪いとかはあるかもしれない。リルカルムに振ろうとしていた俺は、もう一度彼女を見れば、災厄の魔女さんは肩をすくめて腕を組んだ。
「いいわよ、譲ってあげる」
「ありがとう」
レヴィーは一言言うと、俺たちより前に出て、すっと息を吸った。この動きは――アクアブレス!
凄まじいまでの大量の水が、怒濤の如く放たれた。水流は町に達し、射線上にあった建物、邪教教団員、バリケードなどをあっさり砕き、吹き飛ばしていく。
見よ、これが巨大なる海の獣リヴァイアサンの咆哮。町が薙ぎ払われ、そこに隠れていた敵を根こそぎ、容赦なく、差別なく流し、飛ばした。
彼ら邪教教団員の悲鳴も、建物が崩れる音も、リヴァイアサンの大波に飲み込まれ、こちらまで聞こえなかった。
町は崩れ去った。そこで待ち受けていただろう者たちも、おそらく無事には済まない。ドラゴン系の中でも上位種であるリヴァイアサンの力をもってすれば、町一つ滅ぼすなど造作もないことなのだろう。
ドルーやティーツァなどは、あまりの光景に絶句している。リチャード・ジョーは顔を強張らせていたし、ソルラとベルデも神妙な様子。一人、リルカルムが破壊の景色に自然と顔が綻んでいた。
シヤンが遠くを見る。
「うーん、奥の建物は無事なようなのだぞ」
「防御魔法とか、結界があったんだろう」
ジンが告げた。
「レヴィーのブレスも弾いていたようだから、連中もそうまでして守りたいものがそこにあるんでしょうね」
「俺たちが目指すのはそこだ」
邪神復活の場。俺たちが阻止しなればならないものだ。
「おそらく塔の管理装置なども、あの神殿の中だろう。塔を奪い、邪神復活を企む邪教教団を殲滅する!」
圧倒的なアクアブレスで、66階の町は瓦礫の山となっていた。俺たちは、膨大な魔力が感知された神殿――魔の塔ダンジョン最深部へと向かう。
神殿までの道は瓦礫のせいで平坦ではなかったが、敵は襲ってこなかった。町にいた者たちは本当に全滅してしまったのではないか……? 吹っ飛んだ残骸の下敷きになっている死体などを見れば、特にそう思う。
だが、アクアブレスを防いだ神殿の前の、邪教教団員たちが待ち構えていた。
「来るぞ!」
「洒落臭い!」
リルカルムが、呪文を唱え始める。神殿入り口に繋がる幅のある階段前には、バリケードと暗黒魔術師たちがいて、火の玉や氷礫、電撃などの魔法を使ってきたが、それがこちらへ飛んでくる前に、リルカルムの放った爆裂魔法が炸裂し、それらの魔法を掻き消した。そして、爆炎が敵魔術師たちを飲み込み、蒸発させた。
「雑魚は引っ込んでなさいな!」
災厄の魔女の魔法で、神殿入り口が、すっきりと片付いてしまう。こういう開けた場所は、魔術師が有利だよな。
いざ神殿内へ。
集会が開けそうなフロアだ。柱が幾つか建っていて、その上に悪魔像が飾ってあった。
「注意しろ、ガーゴイルだ!」
ジンが看破した。柱の上の悪魔像が動いて、飛び込んでくる。対してシヤンとソルラが素早く飛び上がり、それぞれ一体ずつガーゴイルを倒す。残るガーゴイルは背中の翼を広げて、四方から向かってくる。
カースブレードで飛びかかってきたところを一撃。石でできているような見た目だが、思ったより柔らかい。所詮は見た目だけか。
ベルデやリチャード・ジョーが、周りのガーゴイルを相手にする中、正面を見れば、邪教教団員――黒装備の戦士たちがいた。
『邪教徒に死を』
念仏のように唱えた戦士たちの体に異変が起こる。体が肥大化したように大きくなると、その頭がドラゴンに近い形に変化した。ドラゴニュート――竜頭の亜人のような姿。しかし先の階のダウローに比べると、少しも強そうに感じないのは何故だろう? こちらのほうが人間と比べると屈強なのだが……。
ドラゴニュート化した戦士たちは、武器を手に突っ込んできた。
「アーススパイク!」
ドルーの土属性魔法が、向かってきたドラゴニュートもどきを三体ほど串刺しにした。向かってきた残りは、俺がお相手しよう。
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