第209話、結界を破れば
ダンジョン64階の城。次の階へ行くための魔法陣が、結界の中。ということで、その結界を取り除くべく、城内を探索していた俺たち。
結界の魔力供給装置と思われる小結晶体を台座から外したが、どうやら四つあるそれを全部やらないといけないらしい。
4つの班に分かれて探索、城の四隅に建つ塔の中で、残る装置があると思われるのは一カ所。リチャード・ジョー、ドルー、ティーツァの3人が向かった塔だ。
「C班、こちらアレス。そちらはどうなっている?」
通信魔道具で呼びかければ、たどたどしいティーツァの声が返ってきた。
『アレス様、申し訳ありません。今、装置らしきものを発見したのですが、敵が異常に硬く、突破できないです!』
番人に苦戦しているということだな。俺たちのところにも、獣人の戦士が待ち伏せていたし、ジンの行ったところにもいたようだった。
ソルラたちは言っていないが、おそらく彼女たちも敵と戦い、撃退したのだろう。
「わかった。そちらに応援を回す」
『アレス! それなら、私が!』
いつものようにソルラが志願した。とても積極的なのは助かるが、今回は塔の上層ということを考えれば、空を飛べる彼女が仲間たちで一番早く駆けつけられるだろう。
「よし、ソルラ。先行してくれ。俺たちも駆けつける」
通信魔道具を切る。様子を見ていたベルデが肩をすくめた。
「俺たち、ね」
「仕事だぞ」
「へいへい」
部屋を出て、階段を下る。勢いよく、ドタドタと下れば、木造の階段が少し安定に感じた。重量オーバー? それとも構造が脆いのか。あまりスピードを出して下りると、どこかでボキリと折れて、崩れてしまうのではないか。
不安をよそに、下の階にまで下りられた。最後は階段が壊れそうだったが、何とか保ったのでよし。
「アレス!」
先行するベルデが敵を知らせる。また騎士甲冑――と思いきや。
「あれ、さっきと違わない?」
恐竜型という巨大トカゲが全身鎧を纏っているような姿をしていた。しかも性質が悪いことに、サイズが前の騎士甲冑の倍で、通路を塞いでいた。
「この忙しい時に!」
しかし、この程度では足止めにしかならない。残念ながら、64階まで来ているこっちとしてはな!
ベルデの刃で敵が怯み、俺のカースブレードで両断。本当にただの邪魔でしかないな。
渡り廊下に出る。俺たちが向かう塔は――その瞬間、塔の一部が内側から壊れ、瓦礫が四方に散った。
「おいおい!」
ベルデがそれを見つけた。残骸に混じり、何やら寸胴な騎士甲冑もどきが落ちたのだ。
「ひょっとして、あれが壁を突き破ったせいか?」
高所から落下し、城の一部を壊す騎士甲冑もどき。渡り廊下からはどうなったか見えないな。
『アレス様、聞こえますか!?』
「聞こえるよ」
リチャード・ジョーが通信魔道具を使った。
『ソルラの手を借りて、障害を取り除きました。装置は……結晶体を台座から外せばいいんですね?』
「そうだ。やってくれ」
どうやら俺たちが駆けつけるまでもなかったな。さっきの落下した騎士甲冑みたいなのが、あの塔で装置を守っていた番人か。ソルラが到着したようだが、何だか凄まじく重そうなヤツだったが、どうやって吹っ飛ばしたんだろうか。
その時、レヴィーが「アレス」と俺を呼んだ。彼女の視線の先には、城の中庭に浮かぶ巨大結晶体。それがゆっくりと地面に降りてきて、やがて、結晶が消えた。結界のほうも一緒に消えたようだな。
「全員へ。中庭に変化あり。集合だ」
もうこの渡り廊下から直接中庭に下りるか。
などと思っていたら、城の壁が派手に崩れて、先ほど落下した寸胴な騎士甲冑もどきが現れた。
「……落下した程度では死ななかったか」
このままだと中庭に出た仲間たちと鉢合わせだろう。それならば、さっさと仕留めてしまおう。
俺が駆けるのに気づき、騎士甲冑もどきが振り向いた。腕を構え、守りの姿勢。こいつは見た目の通り、堅牢さがウリなのだろう。防御型、またはカウンター型かもしれない。
振り上げて、大上段からの一撃!
ガキン、と寸胴な騎士甲冑は、カースブレードを防いだ。ほう、手甲に刃が通らないか。これは硬い。
だが!
「呪いはどうだ!?」
パワーダウンその他諸々、能力ダウンの呪いを流し込む。寸胴な戦士は腕を振るい、こちらの剣を弾いてみせた。パワーはあるな、呪いが効いていないか?
寸胴戦士が拳を突き出した。武器は、その近接格闘か? しかし、動きが遅い。こちらは呪いの効果が効いているのだろうか。
「試してみる! 呪い――人体発火!」
外側が駄目なら内側から。呪いを流し込み、体内から燃やす呪いである。普通に戦うなら、こんな回りくどい呪いなど使わなくても、即効性の高い呪いはあるが、こういう外からの攻撃が効かない相手ならば、どうだ?
『ング……ンン!?』
寸胴な騎士は、急に悶えだした、どうやらこの呪いも効いたようだ。いかに頑丈な装甲をまとっていようが、生き物であれば、中は燃えるよな!
ドタドタと悶え、周りのものに頭や体をぶつける。さながら擦って汚れを落とそうとしているようだが、人体が燃えているのだから、それは無意味だ。
仲間たちが皆中庭に集まる頃には、寸胴な戦士は倒れたまま動かなくなった。肉の焦げた臭いが、辺りに漂っている。
「焦げ臭いですが、どうしたんです?」
リチャード・ジョーが聞いてきたので、発火の呪いだと教えた。
「非常に頑丈で厄介だったのですが、内側からとはさすがです」
C班にとっては、結晶体の装置を守る番人だったもんな。面倒だったのはわかる。
とにかく、結界は解けた。中庭の魔法陣で64階をクリアだ。
・ ・ ・
んん? 魔法陣で移動したが、何だか様子がおかしかった。
周りは黒雲。風が吹き荒れ、それほど広くない足場に俺たちは立っている。
「ここが65階?」
「いえ、たぶんまだ64階よ」
リルカルムが足場の端から下を見下ろした。
「ワタシたちがいた城が、すぐ下にある!」
とても高い場所にいるかと思いきや、そうでもなかった。とはいっても、下に下りる道も階段もなく、飛び降りれば即死できる高さだと思う。
「ここからどこか別のルートに行けるのか?」
その時、轟くような咆哮が聞こえた。ドラゴンか、それに類する巨大生物のそれ。この雲の向こうにいるのか?
「忘れたわけではないが……ここにいたか、64階のフロアボス」
九つ首のドラゴン種――ヒュドラ。
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