第208話、死なば諸共
「くそう、硬い……!」
リチャード・ジョーは盾を構え、目の前にいる寸胴な全身装甲の戦士を見やる。
城の四隅にある塔の一つに登ったC班の3人は、装置の前に陣取る邪教教団の重装戦士と対峙していた。
見れば見るほど、不格好な戦士だった。丸太のような横幅のある体型に、金属装甲を全身張り巡らせ、兜の隙間から目が覗く。見るからに動きは遅そうなのだが、とにかく硬い。
「巨岩!」
土属性魔術師のドルーが魔法叩きつける。
『フンヌゥ!』
戦士が拳を飛来する岩にぶつければ、魔法の岩は粉々に砕かれた。
『効かぬゥ!』
魔法を防いだ。しかしその間に、リチャード・ジョーは距離を詰めてシールドごと体当たりをぶちかます。体勢が崩れたところを、装備の隙間を狙って刃を突き入れる……はずだったが。
『……』
ビクともしない。リチャード・ジョーもまた重装備。当たりにいって敵の防御が崩れないということは、これが初めてだった。
『ヌゥゥン!』
寸胴戦士の鉄拳。リチャード・ジョーは盾で受け止めるが吹き飛ばされてしまう。転倒こそしなかったが、後方へ押しやられたことに、リチャード・ジョーは驚かされる。
「こいつ、パワーもある!」
「大丈夫ですか、ジョーさん!」
聖女のティーツァが気遣う。
「大丈夫、押されただけだ」
しかし――これは厄介な相手だと、リチャード・ジョーは思う。
「装置は目の前だと言うのに……!」
番人が硬すぎて、進めない。
・ ・ ・
「……見たところ、小結晶体そのものが、結界へと魔力を送り込んでいるようです」
ジンは通信魔道具に告げた。交信の相手は、A班のアレス、B班のソルラだ。すでに城内の塔にいて、結界を形成すると思われる装置を前にしているという。
「とりあえず、触れるなら、小結晶体を装置から離してみてください」
ジンは身を引く。銃弾が頭一つ横を掠めた。
邪教教団の暗殺者が硝煙くすぶる拳銃を捨てて、飛びかかってきた。手には瞬時にダガーが飛び出し、それでジンを狙うが――
「迂闊に飛び込んできて」
バンッ、と銃声が響く。
「相手が銃を持っているか確認すべきだったのでは?」
ジンの手には拳銃があって、直撃を受けた暗殺者は吹っ飛んだ。壁に叩きつけられた暗殺者は、胸に手を当て、しかし立ち上がった。
「ちっ、防弾か。風魔法付きの弾じゃなかったら、こっちがやられていたかもな」
拳銃弾如きで人は吹っ飛ばない。暗殺者が後ろへ飛ばされたのは、風の衝撃魔法込みの銃弾だったからだ。
「ちなみに、その防弾着、魔法も防げるのかい?」
ジンはセレクターを切り替える。拳銃からはレーザーを思わす緑色の光弾が放たれた。暗殺者は右へ左へと躱し、距離を詰めてくる。
「弾を見て避けられるのは大したものだ」
懐に飛び込み、ダガーを向ける暗殺者。しかしもう二歩でジンに届くというところで。
「プロテクション」
防御魔法の壁に阻まれた。暗殺者はジンの前で動きを止められる格好となり――胴体に光弾の連発を浴びた。力が抜け、暗殺者はドサリと床に倒れた。ジンはそれを無感動に見下ろす。
「……おい、ラエル。生き返ったか?」
部屋の入り口脇で座り込むように倒れていた弟子が、もぞもぞと動き出す。
「――はい、師匠。……開幕、喉をやられたみたいです」
突然現れ、喉を裂かれた。敵暗殺者の襲撃は完璧であり、普通の人間ならばそれで終わっていた。
「アレスに感謝だな。不死の呪いがなければ、お前はオダブツだった。次からは、もっと警戒するんだな」
「すみません、師匠。……それで」
ラエルは起き上がると、床に突っ伏している暗殺者を見下ろした。
「やりましたか?」
「戦場で『やったか?』は禁句だと教えたはずだろう、ラエル」
「やりましたか、であって、やったか、ではなりませんよ、師匠」
「屁理屈こねやがって」
『――ジン、聞こえるか? 何があった?』
通信魔道具から、アレス、そしてソルラの声がした。こちらがお喋りを中断したために何かあったのかと心配したのだろう。
「ラエル、ボディチェックしておけ。――遅くなりました、アレス。ちょっと番人を片付けていたもので。大丈夫です、こちらは処理しました」
通信魔道具で応答しながら、ジンは小結晶体のもとまで歩み寄ると、台座から結晶体を外した。鑑定魔法で、止まったか確認し――問題なし。
『結晶体を台座から取ったんだが、広場の結晶体に特に変化はなさそうなんだが』
「こちらの装置からの魔力供給は止まったようなので、おそらくまだ供給している装置があるのでしょう。こちらも外しましたし、他はどうです?」
『ソルラ?』
『こちらも外してます』
『そうなるとC班か――』
「師匠、自爆トラップです!」
ラエルが叫んだ。ジンは瞬時に振り返る。
――くそっ。
光が室内を満たし、大爆発が起きた。
・ ・ ・
その衝撃と音は、俺たちのもとにも届いた。
「塔が吹き飛んだ!」
ベルデが四つあるうちの一つの天辺近く、ちょうど自分たちがいる部屋と同じ高さから上が爆発したのを見ていた。
「あっちは誰が――」
「ジンたちだ」
俺も窓の隙間から、粉々になった塔を見る。爆発カ所から上がなくなるほどということは、そこにいたジンとラエルも巻き添えに。
『あー、こちらD班。刺客の死体が吹き飛んだ』
通信魔道具からジンの声がした。
『自爆の類いですが、こちら防御魔法が間に合い、ラエル共々無事。以上』
ほっ、とベルデが息をついた。レヴィーも頷いている。
ジンとソルラ、そして俺のところで装置を解除したようなので、後あるとすれば、リチャード・ジョーたちC班だが、大丈夫だろうか?
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