第206話、結界を破るために


 ダンジョン64階の城内中庭にある宙に浮いた結晶体。次の階へ行くために、俺たちは結晶に見える結界を破壊するなり、何とか取り除かなければいけないらしい。


「ラエル、試しに一発」

「了解です」


 狙撃銃を構え、ラエルが適当に巨大結晶体を撃った。銃弾は弾かれ、傷一つつかない。


「次、リルカルム」


 物理で駄目なら、魔法でどうか? 城壁を一撃粉砕した災厄の魔女さんの魔法――しかしこれもまったく歯がたたず。


「結界、か」

「どこかに結界を発生させている触媒なり、装置があるかも」


 ジンが指摘した。


「解除させられれば、入れるかと」

「場所の心当たりはあるか?」


 聞いてみれば、ジンは首を横に振った。まあ、そうだろうな。


「城内を探すしかないな」


 その触媒や装置があればいいんだがな。ベルデが腰に手を当てた。


「どうする? 城内が、雑魚甲冑しかいないなら、固まって移動するのも何だし、時間短縮のために分散するかい?」


 一応、敵地だってことを考えると、分散って響きはいい予感はしないんだよな。ここまで雑魚しかいなかったから、確かに現状は過剰戦力なんだが、分散した途端、実は強い奴がいましたってこともありそうだ。……まあ、可能性で言ったら何でもあるんだが。


 それに一度分散すると、連絡が取れなくなるのは問題だ。リルカルムは魔力念話が使えるらしいが、全員が使えるわけじゃない。不死の呪いを全員にかけてあるから、目を離した隙に殺される、とかはないが。


「分散すると、何かあった時に、他の者に連絡できないのがな……」

「何かあると思うのか、アレス?」

「ここは魔の塔ダンジョンだぞ。何があってもおかしくない。油断できない」


 効率は悪いが、皆固まって探索――と、リルカルムが何か言いたげに、ジンを見ていた。俺もそちらに視線をやれば、回収屋は、諦めたような顔をして異空間収納に手を突っ込んだ。


「連絡用の魔道具があります」

「あるのかよ!」


 ベルデが突っ込めば、ジンは渋い顔になった。


「回収屋の職業柄な。私はもちろん、ラエルは持っている」


 そう言うと、助手のラエルは自身の耳もとを指さした。回収屋の業務として、わかれての捜索もしばしばあって、その際に活用していたらしい。


 ネックレスの形をした通信魔道具らしい。使い方を教わり、俺たちは四つの班に分かれた。


 何故、四つか? 中庭から城の構造を見やり塔が四つあったからだ。それぞれのグループで一つ塔とその周りを探索する。


 A班は、俺、レヴィー、ベルデ。

 B班は、ソルラ、リルカルム、シヤン。

 C班は、リチャード・ジョー、ティーツァ、ドルー。

 D班は、ジン、ラエル。


 人数が11人だから、四つに分けると、一人不足になる。


「構いませんよ。二人で行動するのは慣れていますから」


 ジンは自信たっぷりだった。元々回収屋コンビとして活動していたから、他メンバーがいないほうが、かえって上手くやれる気がする。


「よし、それじゃ、みんな。油断なくやっていこう」


 俺たちは、それぞれ城内に散った。結晶体を構成する魔法陣なり装置とやらを探すために。正直、それがどんな形をしているのかわからないから、怪しいと思ったものを見つけたら、通信の魔道具で連絡を取り合うことになっていた。



  ・  ・  ・



 出てくる敵は、相変わらず騎士甲冑だった。光線柱のような耐性があるわけでもなく、元が防具であるから硬いのだが、俺たちの攻撃力のほうが勝っている。


「やっぱり塔の上なのかな」


 ベルデが木製階段を足場に四角い塔を登る。俺もその後に続く。


「他になければ、そういうことなんだろう」


 上を見る。角に合わせて階段が曲がり、四辺を順に巡る形で上がっていた。階段は全部木製で、重量がかかる度にギシリと独特の音を立てた。……上から重量物が落ちてきたら階段が壊れて、俺たちも巻き添えになりそう。


 ベルデが慎重に先導する。どうあっても足音が出てしまうが、本職が暗殺者であるだけあって、俺やレヴィーより静かだ。


「階段はここで終着だ」


 ベルデが囁く。辿り着いた室内。


「あれじゃねえか?」


 奥の壁際に、ミニ結晶体とその台座らしきものがあった。結晶体の大きさは違えど、形も色も同じだ。

 他には特になさそう、と近づけば。


「アレス!」


 レヴィーが叫んだ。上から何か降ってきた! ベルデが舌打ちする。カースブレードが落ちてきたそれ――鉄爪を弾いた。


「待ち伏せかっ!」

「来たよ来たよ、来ましたよぉーっ!」


 漆黒の軽鎧をまとう屈強な戦士――しかしその頭は虎と、獣人種のようだった。


「アレス・ヴァンデとお仲間ーっ! てめえらはここでっ、しぬんだぁーっ!」


 虎頭の戦士は、両手のクローを振り回し、素速く飛び掛かってきた。金属音が連続する。目にも留まらぬ早い斬撃の嵐を、俺は全て防ぎ、弾いたのだ。


「あらぁー!? 防がれ――!」


 虎頭は、瞬時に背後に迫ったベルデを察知して飛び退いた。またもベルデは舌打ちした。


「逃げんな!」

「そんな殺意ダダ漏れされちゃあ、気づかないわけがないんよなぁーっ!」


 虎頭は一度離れると、すぐに態勢を整えた。


「鉄腕のヤヴィン。――てめえらを殺す者だぁーっ!」


 加速し、飛び込んでくる虎頭。


「けっ、シヤンみたいに体柔らけえじゃねえか」


 ベルデが迎え撃つ。鉄爪とダガーがぶつかるが、パワーが違う。


「なっ!?」


 ダガーが弾かれ、虎頭の蹴りがベルデの胴を直撃した。吹き飛ぶベルデ。


「人間が、止められるわけ――」


 虎頭が目を見開く。


「済まんな。横から入って」


 瞬時に踏み込んだ俺のカースブレードが、虎頭の眼球に映る最後の光景だったことだろう。

 鉄腕を名乗ったヤヴィンは、頭を失い、倒れ伏した。


「先を急ぐのでな。……大丈夫か、ベルデ」

「……ああ、何とかな」


 蹴られた衝撃は相当だったが、怪我はなさそうだった。さて、ここの結晶体をどうにかしようじゃないか。

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