第205話、城門の先には


 魔の塔ダンジョン63階を突破し、俺たちは64階に到着した。


「大きな空洞だ」


 天井はあるが、うっすら霧のようなものが見えて、洞窟のそれが見え隠れしている。


「広すぎて、洞窟の中っぽくないのだぞ」


 シヤンが眉をひそめる。ベルデは笑った。


「そりゃ、ここは曲がりなりにも塔だからな」


 魔の塔ダンジョン、その内部は、実にバリエーション豊かで、我らの常識では計れない。


「この石畳に沿っていけばいいのかな?」


 地面は、馬車が走れるように石畳で舗装されている。洞窟のような空洞なのに、道がある。というより、その道以外、深い穴のようだった。


「危ねぇ……。よそ見していたら落ちたかもな」


 うっすらと靄が、所々かかっている。遠くは見えづらいが、いつぞやの霧の階と違って、周りは見えた。

 リルカルムが片目を閉じた。


「これだけ広いなら、さっきの階の飛空艇でも飛べるわね」

「どうやって持ってくるんだよ、そんなの」


 違う階のものだ。俺が突っ込めば、リルカルムがニヤリとした。


「そんなの回収屋さんの異空間収納に入れてもらえばいいじゃない。入るでしょ?」

「どうなんだ、ジン?」


 尋ねてみれば、とうの回収屋は肩をすくめた。


「可能ですよ。というより、回収済みです」


 なんと、ジンは、63階の飛空艇をもうすでに入手していたらしい。ベルデが口笛を吹いた。


「何と手の早いこと」

「珍しいものには目がなくてね」


 苦笑するジンである。


「アレス様!」


 前を行くリチャード・ジョーが一瞥をくれる。


「前に建物です。城のような……」


 靄の向こうに、重厚な造りの大きな建物が見えてきた。迂回路は――なさそうだった。石畳の通路以外、靄のかかった穴。つまり、城のような建物に、道に沿っていくしかないということだ。


「何回目の城かな?」


 できれば、これで最後にしてもらいたいね。石畳の上を進みながら、城へと近づく。


「ひょっとして、あの城、宙に浮いています?」


 聖女のティーツァが首を傾げた。石畳の歩道以外は穴で、その先に通じている城もまた、その下が靄によって見えない。


「かもしれない。だが中に入るなら、関係ないだろう」


 城門が見えてくる。門は固く閉ざされていて、来客には冷たい。


「近づけば開いてくれるかな?」

「どうでしょうね」


 ジンは言った。


「ここが邪教教団のテリトリーであると考えるなら、魔法とか、例の光線柱とか撃ってきそうですがね」

「門とか城壁というのは、そういうものだよな」


 敵を阻むためのものであり、俺たちのような侵入者を進ませないためにある。


「空を飛べれば、城壁がいくら高くとも関係ないんだがな」


 ちら、とソルラを見れば、彼女も頷きで返した。しかしジンは首を振る。


「守備隊がいるなら、単独で飛び越えるのは自殺行為ですよ。弓や魔法で狙い撃ちにされます」


 よっぽど高く飛ぶとか、猛スピードで飛び抜けるとかしない限り。それはそれで、降りるのが大変になるが。


「閉ざされた門。当然、敵は守りを固めているよな」

「案外無人だったり?」


 ベルデがニヤリとした。どうせ真っ正面から行っても、城門はぶち壊す必要があるしな。


「リルカルム、あの門、魔法で吹っ飛ばしてもらえる?」

「……しょうがないわね」


 待ち構えられていたら、どの道面倒なことになる。それならば先手必勝だ。敵が攻撃してこないうちに、先制攻撃を仕掛ける。

 リルカルムは大規模な魔法を使うため、詠唱を始めた。長い詠唱ほど、威力の高い攻撃魔法が繰り出せる。敵と戦っている間は、中々タイミングが難しいが、まだ攻撃されていない今なら、好きなだけ唱えてよし。


「駆け抜けろ、雷帝の雷!」


 振り上げた杖から、極太の雷が迸った。轟音が轟き、城門が木っ端微塵に吹き飛んだ。


「お見事」

「敵さんも、城門に対魔法の仕掛けをしておけば、やられずに済んだかもな」


 ベルデが腕を組んで、そう評した。

 ともあれ、これで門は開いた。ノックというのは、少々過激だったな。


「……敵は、来るか?」


 守備隊がいるなら、破壊された門の穴を埋めるべく、わらわらと出てくるはずだ。しばし眺めるが、特に動きはなさそう。


「静かですね」


 ドルーが言えば、シヤンも耳をすましている。


「特に、動きもなさそうなんだぞ」

「ここのところ、無人の階が多いですね」


 ソルラは怪訝な表情を浮かべた。63階には、久しぶりにゴブリンがそこそこの数出てきたが、61、62階は、仕掛けや自動兵器系が阻んできた。


「人材不足、いや、スタンピードでモンスターを消耗しつくして回復が追いついていないのかも」


 動きがないなら、こちらから動こう。城門を吹き飛ばして、城内へと近づく。油断はしない。敵が待ち伏せを狙っているなら、動きを悟らせないよう、隠れているだろうし。



  ・  ・  ・



 あっさり城内に入れた。敵は、至る所に配置された騎士甲冑。これが一定範囲に近づくと、突然動き出して襲いかかってきた。


「舐めているのか?」


 カースブレードで一刀両断。シヤンは鉄拳で潰すし、ソルラもまた動く甲冑の四肢を切断した。


「こんな仕掛けしかないとなると、本当に連中は人手不足なのか?」


 自動警備、トラップの類いと変わらない。これらを倒しつつ、城内の中央中庭に行けば――


「こいつが、ここのメイン課題というやつかな?」


 巨大な結晶体が宙に浮いていた。まるで天守閣全体が結晶化しているようで、巨大な宝石のようであり、その大きさには圧倒される。


「結界のようなものね」


 リルカルムの視線が鋭くなった。


「透けてるけど、次の階への魔法陣は、あの中みたいよ」

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