第201話、地下世界の大船団?


 過去一、大きな階だと思う。


 魔の塔ダンジョン63階。先ほどまでは果てしない空と雲の海。だが雲の中の風に従えば、今度は暗闇が支配する地下世界のような空間。飛空艇は風に乗り、闇の底へと少しずつ下りている。

 俺たちは飛空艇の甲板から、周囲を睨む。


「柱が見える。まるで天井を支えるみたいな」


 岩の柱が、遠くにいくつも見える。それだけでここが相当広い場所だというのがわかる。もっと明るければ、地平線が見えるくらいではないか。

 ソルラが眉間にしわを寄せる。


「私たちは、どこまで流されるんでしょうか?」

「風の終着点まで」


 どの道、この飛空艇には、自力で動かす方法がない。マストはあるが帆がなく、それでも風を受けて動いているが、これ以上、弄る方法がない。


「方法がないなら、このままさ」

「一応、動かす方法はなくはないわよ」


 リルカルムがマストを見上げた。


「回収屋さん? あなた、帆の予備とか持っていない?」

「……代用品になりそうなものならある」


 ジンは答えた。ジヤンが目を丸くする。


「あるの!?」

「サンド・ヨットって言う、砂漠を走る船用のを持っている。それを使えば、まあでっち上げることはできる」


 砂漠を走る船とか、その乗り物、ちょっと興味がある。


「何でも持っているんだな」

「何でもはありませんよ。さすがにね」


 ジンは苦笑した。リルカルムが咳払いする。


「帆があるなら、後は風魔法で、方向を変えることくらいはできるわよ。……ちょっとしんどいけど、船をこの風以外の方法で進ませることができる、と」

「なるほど、ちょっとしんどいか」


 リルカルムあたりが風の魔法を帆に向けて放てば、できるってことなのだろう。


「いざ、方向転換が必要になったらお願いしよう」


 あるいは風がやんで立ち往生したら。

 風任せの航行はしばし続く。背中を押す風は常に一定のようで、飛空艇の速度が変わることはなかった。


「ん……?」


 ベルデが船首にいて、それに気づいた。


「正面に、光!」

「!」


 仲間たちは前に集まり、前方の光を見やる。一つ、二つ、三つ、四つ――その数は立ち所に増えていき、数え切れないほどになった。


「なんだありゃあ!? 魚の群れみたいに増えやがった!」

「群れと言えば群れのようだ」


 ジンが言えば、シヤンが口を開いた。


「飛空艇なんだぞ。先っぽに明かりを灯した船の大群がいるのだぞ」

「嫌な予感がしてきたわね」


 リルカルムが笑みを浮かべたが引きつっていた。俺たちの飛空艇は、風の赴くまま、飛空艇の大群へと向かっていく。


「備えろよ。何があっても動けるように」


 明かりがついている船ということは、人かそれに類する何かが乗っている可能性が高い。そしてここがダンジョンであることを考えれば、十中八九、敵だ。


 飛空艇の大群が迫る。迫るというか、こちらが風に押さえているというだけではあるが。遠距離視覚やスコープなどで見える範囲、あちらの飛空艇の様子を観察するが――


「……特に何か乗っているようには見えないな」


 てっきり大海賊団みたいなのが待ち構えているかと思ったが、そうではなかったかもしれない。


「幽霊船ですかね?」


 リチャード・ジョーが言えば、ベルデやソルラが、シヤンを見た。その獣人娘は、表情に緊張を滲ませている。


「……いるのだぞ」


 何が?


「船に、こちらへの敵意が漏れているのだぞ。獲物を待ち構え、息を殺しているのがわかるのだ」


 飛空艇は、大船団の間を突っ切る。こちらは風に乗っているが、周りは風が吹いていないのか、浮いているだけに見える。


「シヤンの言う通り、待ち伏せているなら、真ん中に飛び込んだタイミングで一斉に攻撃されるということだな」

「シヤンの言うことを信じるのかい、アレス?」


 ベルデが尋ねてきた。俺は思わずニヤリとした。


「信じるさ。ここまで共に戦ってきた仲間だからな。シヤンの感覚は信頼している」


 この大群に一斉に襲いかかられたら、この船もひとたまりもないだろう。で、あるならば――


「こちらから仕掛けるぞ。投射魔法が使えるものは敵飛空艇を攻撃する!」

「攻撃するのですか? こちらから?」


 ティーツァが目を見開いた。聖女様は、まさかこちらが攻撃されていないうちに、敵と決めつけて攻撃することに思うところがあるのかな?


「こちらからだ。ティーツァ、ここは魔の塔ダンジョンだ。俺たち以外は、すべて敵だ」


 間違っても味方はいないよ。


「レヴィー、悪いがリヴァイアサンとなって、ちょっと飛空艇掃除を手伝ってくれないか?」

「うん、わかった。造作もない」


 コクリ、と少女の姿をしたレヴィーは頷いた。俺は、災厄の魔女さんへと視線を向ける。


「リルカルム。好きなだけ吹っ飛ばしていいぞ」



  ・  ・  ・



 狂犬を自由にさせたら、想像どおりというか、やってくれた。

 リルカルムは巨大な稲妻の魔法で、飛空艇を引き裂き、レヴィーはリヴァイアサンとなってその巨体で飛空艇の間を飛んで接触して潰す。


 攻撃された途端、待ち伏せ不可とみて、周りの飛空艇から、ゴブリンやオークが出てきた。……この期に及んで、そんな雑魚しか出せないのは、スタンピードで戦力を使い過ぎたせいか?


 とはいえ、そんな雑魚でも飛空艇に乗って投射攻撃をするならば、普通に戦うより大変面倒な存在となる。こちらが直接殴れない距離から、だからな。


 しかし、俺たちにはリルカルムという魔法の大天才がいて、彼女の攻撃魔法は一撃で飛空艇を破壊し、乗っていた魔物たちも奈落の底へ突き落とした。


 リヴァイアサンも、飛空艇に体の一部を接触させただけで、船体分断とかマスト折れの大破などで、敵船を次々に廃船に変えた。


 ソルラ、ドルーも船から投射魔法だったり、俺は呪弾を飛ばして、撃破に貢献はしたが、リルカルムとレヴィーが破格過ぎたな。


 結果、飛空艇の大群を蹴散らし、俺たちの飛空艇は、浮遊する大地に到着した。ようやく飛空艇ともおさらばかな。

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