第192話、モンスターがいない……?


 巨大歩行型光線柱の足で踏まれれば、人間など軽くぺしゃんこだ。


 せっかくの光線柱なのに、図体がデカすぎて、足下の俺たちを狙うのが難しいようだった。


 何という欠陥! 歩かせることで、射線を確保しようとしたのに、死角が増えては本末転倒。ついでに転倒させて動けなくさせてやる。


 問題は、大きすぎてひっくり返すのが困難なこと。風で押すとかも無理。掴んで投げようかと思ったが、歩くたびに上下する足のせいで、掴むことはできても、踏ん張って投げるまでが不可能。こっちが振り回される。


 当然ながら、物理攻撃も魔法も効かない。そんな状況なので、困った時の水神様。

 俺はレヴィーを連れて、歩行型光線柱の真下へと潜り込んだ。


「レヴィー、ちょっとだけ変身してくれ」

「わかった」


 リヴァイアサンの姿に変わるレヴィー。巨大歩行型光線柱が動き回れる大きな部屋とはいえ、リヴァイアサンにとっては狭い。


 が、それでいい。下からリヴァイアサンの巨体が、巨大歩行型光線柱を持ち上げて、ひっくり返した。天井にぶつかる前に、レヴィーにはすぐに元の姿に戻ってもらって室内へのダメージを回避。

 上下逆になってしまえば、歩行型光線柱は歩けない。


「やったのだぞ!」


 シヤンが歓声を上げたが、俺はすぐに怒鳴る。


「リルカルム、ドルー! 防御魔法と壁を展開! 爆発するぞ!」


 この巨体だ。爆発すればさぞ凄まじい威力だろう。急いで防壁と防御魔法を展開し、俺たちはその陰に飛び込む。


 そして、大爆発!

 防壁が軋み、塞いだ耳ごしに轟音と衝撃が通り抜けた。


「ふぅ、危機一髪だぜ」


 ベルデが息を吐き出した。


「アレス、よく爆発するってわかったな?」

「さっきまでいた下の通路には、あれのミニ版が何体もいてな」

「あー、それでひっくり返せば弱いってわかったんだな。納得だぜ」


 フロアマスターを撃破。62階、突破だ。


 俺は仲間たちの状態を確認した。怪我人はなし。皆、上のトラップには慎重に行動したようで、無傷だった。

 体は無事だが、神経使っただろうし、どうだろうか? もう一階進む?


「帰りましょ。どっと疲れたわ」


 リルカルムがお疲れの表情を隠しもしなかった。ソルラなどは平然としているが、我慢強い彼女の場合、こういう時はあまりアテにしてはいけない。まだ元気なシヤンの大人しさを見たほうが、信用できる。

 魔術師が疲労しているのは、魔法を使う上でかなりの戦力ダウンなどに繋がるので、今回はここまでにしておこう。


 撤収!



  ・  ・  ・



 王都冒険者ギルドに戻ると、なにやら冒険者たちの姿が多かった。しかも微妙に騒がしい。


「なーんか、あったのかしら?」


 リルカルムが言えば、ベルデが首を傾げる。


「ギルドが騒がしい時って、大抵面倒なことが起きてるんだよな」

「どうだ、シヤン」


 俺は、耳のいい獣人娘であるシヤンに聞いてみた。


「……ダンジョンの話をしているんだぞ」


 ピクリと獣耳が動くシヤン。


「モンスターが消えたとか、どうとか言ってるのだぞ」

「モンスターが……消えた?」

「どこのダンジョンよ、それ」


 リルカルムが聞けば、シヤンは眉をひそめる。


「魔の塔ダンジョンなんだぞ。――今日、ダンジョンに入ったら……モンスターを一匹も見かけていないとか言っているのだぞ」

「そんな馬鹿な」


 ベルデが呆れ顔になった。


「それで、ここの奴ら、騒いでいるのか?」

「そうなのだぞ」


 魔の塔ダンジョンから、モンスターが消えた? ダンジョンから魔物どもが消えたとなれば、何かの前兆っぽくて警戒するところだが……。


「本当なのか? オレら、今日も中で敵と戦ったぜ」

「――いや、モンスターとは戦っていない」


 ジンが口を開いた。


「61階も、62階でも、モンスターと戦っていない。61階では、門番のような魔法兵器。62階でも光線柱に足がついた、どちらかといえば機械の類いの防衛兵器しか見ていない」

「言われてみれば……」


 ソルラが顎に手を当てた。


「私たち、生身のモンスターを見ていませんね」

「そういう階だったんじゃねえの?」


 ベルデが食い下がる。


「モンスター系が出ない、トラップとかそっち系の敵しかいない階だったってだけで」

「確かに、そういう階だったと否定はできないが」


 ジンも考える。俺は言った。


「俺たちのところは偶然だからと言って、他の階までモンスターが出なかったというのは、おかしなことだろう。魔の塔ダンジョンに、何か起きているのかもしれない」

「何が……とは」


 ソルラが眉間にしわを寄せた。……ああ、嫌な予感しかしないよな。


「もしかして、邪神の復活が近い、とか?」


 何か不可解なことが起こると、それがまず考えられてしまうのが、嫌なところだ。


「ボング!」

「アレス様! お帰りでしたか――」


 ギルマス代理のボングに声をかければ、彼はすぐにやってきた。


「よくご無事で。魔の塔ダンジョンに潜った冒険者たちから、妙な報告が相次いでいるのですが――」

「下の階で、モンスターを見かけないって話だろう?」

「ご存じでしたか」

「そう聞こえた。俺たちのところは、トラップ系に歓迎されたから、はじめからモンスターがいなかったかどうかはわからないが」

「大変です! ボングさん!」


 入り口から、若い冒険者たちが血相を変えて駆け込んできた。


「魔の塔から、モンスターが出てきました! 王都に流れ込んでいます! こ、こいつはス、スタンピードです!」

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