第191話、光線柱が動けないと何故思った?


 声に出して叫んでみたものの、返事がないので、向こうに聞こえたかは定かではなかった。


 かといって誰かが上から落ちてくるわけでない。たぶん重量が一定以上かからないと、作動しない仕掛けだったんだろうな。


 ただ待っていても仕方ないので、俺は落ちた先である通路を進むとしよう。

 上は明るかったのだが、こちらは地下に落ちたのを連想させるように、薄暗かった。


「光線柱は……見当たらないか」


 俺は立ち上がる。床の上を水が張っているが、伏せなければどうということはない。ザブザブとブーツを濡らしながら、道なりに進む。

 上は頻繁に光線柱が壁などに埋め込まれていたが、こちらは見かけなかった。油断は禁物だが、こっちのほうが圧倒的に進みやすいのでは……?


「……?」


 ザブ、ザブ、と水を踏みしだく音が正面から聞こえてきた。俺はカースブレードを構えた。


 この一本道。迂回路はない。このままだと正面から激突する。

 ちかっ、と光が瞬いた。俺はとっさに右へ避けた。光線柱の攻撃かと思ったからだ。そして予想どおり、光線が今いたところをすり抜けていった。


「くそっ」


 俺はそのまま正面へ駆けた。繰り返すが、ここは一本道。止まっていては撃たれるし、逃げても同じ。伏せたら、今度は水に突っ込む。水呼吸の呪いという手もあるが、顔を上げたらすぐ空気の呼吸と対応できないから、この浅さは微妙にやりづらい。嫌な地形だよ、まったく!


 正面のそれが歩く。独特の音は金属製のゴーレムのよう。正面に見える光が動き、俺のほうを見たと共に、またも光線を撃ってきた。


「歩く光線柱か!」


 わかっているつもりだが、光線はギリギリを抜けていく。さすがに攻撃が速い。歩行型光線柱が、近づきながらその目のように光るそれを、俺に向けようとする。それで撃ってくるつもりなんだろうが、滅茶苦茶厄介だな!


「氷呪!」


 呪いの氷を食らえ! 歩行型光線柱に向けて、氷塊を飛ばすが、パリンと割れる音が連続した。光線柱にこちらの攻撃が通用しなかったのだろう。知ってた。


 懐に潜り込んで、物理で殴る! ……殴れればいいんだが。気掛かりを言えば、この階の光線柱は物理攻撃も効かなかったから、この歩行型もまた通用しないかもしれない。

 だが、まずはやってみる!


 複数の敵に狙われれば躱しきれなかっただろうが、一体だけなら何とか掻い潜れる!

 そして、敵の姿も見えてきた。


 一見すると蜘蛛のようだった。ただし、足は四本のみ。胴体中央に光線柱が一つついていて、そこから光線を放っていた。設置罠である光線柱に、脚をくっつけたようなシルエットだ。


 歩く案山子ってか?


 踏み込み、至近距離へ。光線柱の目が俺を捉える。放たれる光を、紙一重で回避。そのまますれ違い、敵の側面へ。胴体の上の柱が回った。


「後ろへ回り込まれる対策ができているのか!」


 背後をとれば撃たれないだろう、は甘い考えだったようだ。俺は敵の周りをぐるりと回りながら距離をつめて、脚の一本にカースブレードを叩き込んだ。


 キィィンと金属音がこだました。弾かれた。硬い! 金属の装甲か! 物理耐性は凄まじい。

 一対一なら、必殺の呪いも選択肢となるが、この柱に命はない。命がないものに必殺の呪いは自滅でしかない。ならば呪いでパワーをブーストする手は――? 弾かれたら意味がない。


 うだうだ考える前にやってみろ。案外潰れるかもしれない――自分を叱咤しつつ、俺は呪いで力を上げてカースブレードを振るった。

 金属音が激しく木霊する。


「パワーを上げているんだぞ? それでも攻撃が通ってない!?」


 何て硬さだ。脚の一本も破壊できない。


「マジで対物理対策が施されているのか!」


 さあて困った、四本の足を動かして、俺に密着されないようにする歩行型光線柱。こちらの攻撃が効かないのではなあ。ゴーレムすら一撃で砕く魔力を乗せた一撃すら、敵は弾いてみせた。


「なら、これはどうだ!」


 殴っても呪いでも効かないなら、ひっくり返す! カースブレードに魔力を乗せて、振るう。足元の水をはねさせて、目眩ましにすると、俺は剣をしまい、歩行型光線柱に接近。呪いの重ね発動で、筋力アップさせて歩行型光線柱の足を掴むと持ち上げ、ぶん投げた。


 予想どおり、足はあっても腕のない光線柱は、ひっくり返ったらもはや元に戻れず、もがいている。

 うーん、ざまあ見ろ、なのだが、こいつをどうしたものか。何かもがいてはいるものの、まだ生きているっぽい。破壊できないので、このままにするしかないが、離れた時、射線が合って背中から撃たれないだろうか?


 不死の呪いで食らっても死なないとはいえ、位置によっては、死亡と蘇生の繰り返しで動けなくならないか、これ?

 誰かいてくれればフォローできるんだろうが、いま俺は一人だし。


「……お?」


 歩行型光線柱がジタバタするのをやめた。どうあがいても復帰できないと諦めたか。


 と、次の瞬間、その四脚を含め、全身が光りだした。嫌な予感――!


 次の瞬間、歩行型光線柱が爆発四散した。俺は吹っ飛ばされ、床上の水たまりに突っ込む。


「……なるほどね。自爆か」


 おー、痛ぇ。爆発するならするって言ってくれよな。とりあえず、これで気兼ねなく通れるってもんだ。不死の呪いの再生に任せつつ、俺は出口を求めて、通路を進む。


 ザブザブ――


「はいはい。お次の方どうぞ!」


 歩行型光線柱が、光線を撃ってきた。


「もうそれは見た!」


 掻い潜り、突撃。魔法も物理も利かなくても、倒し方はわかってるんだ!



  ・  ・  ・



「アレス、無事でしたか!」


 ようやく、ソルラたちと合流できた。どうやら、落ちたのは俺だけだったようだ。皆、光線柱だらけの階を、何とか突破した。……道中は突破した。

 だが、フロアマスターというものがいて――


「歩く光線柱です!」


 俺が下で、戦った四本足の光線柱、その巨大版が、我が物顔で歩く。


「こちらの攻撃がまるで効かないです!」

「だろうね、知ってるよ、ソルラ」


 俺も下で苦労したから。どうやら仲間たちは、ここでいきなりの歩行型光線柱との遭遇だったようだ。


 さて、じゃあ、こいつを行動不能にしましょうかねぇ。……しかし、デカいんだけど。

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