第190話、這い回れ


 開幕光線トラップで全滅。――こっそり皆に不死の呪いをかけておかなかったら、本当に全滅していたところだ。


「とりあえず、じっとしてろ」


 死んでからの蘇生で倒れたまま、様子を窺う。さすがに死体は撃たないようになっているのか、倒れている俺たちは追い打ちはかけられていない。


「あと、どうやらこの高さは、光線柱には認識されないらしい」


 伏せたまま、動いても撃たれなかった。つまり、動いている者を撃つにしても、床近くは、柱の死角ということだ。

 低い姿勢のまま、体を横に動かして、光線を撃つ柱がどうなっているかをよく見る。


「……横に10。縦に3列」

「30門の光線ですか」


 ジンが嘆息した。


「そりゃ防ぎきれないわけだ……。で、どうします?」

「正面は柱の密集地帯。左右どちらかに抜ければ――」


 迂回できそうだ。辺りを見回してみれば、ここも屋内。神殿のような内装で、部屋の作りから正面の柱段の左右にそれぞれ奥への通路があるようだ。


「繋がっているのか、それとも別々の通路か」

「別々だったら、面倒だな」


 ベルデの声がした。


「どっちか行き止まりだったり、次の階段と関係ない方へ行ってしまうかも」

「このまま倒れたままというのも、やりにくい」


 俺は仰向けから、うつ伏せになると、匍匐ほふくで前進する。ソルラが声を発した。


「アレス?」

「この高さなら大丈夫だ。撃たれない」


 まずは死角を利用して、立ち上がれる場所に移動するのを優先する。……鎧で匍匐は結構、キツイな。


「音で反応できるなら、間違いなく撃たれているな」


 仲間たちも、よじよじと移動を開始する。


「アレス! ストップだ!」


 ベルデの鋭い声に、俺は前進を止めた。


「何だ?」

「上」


 ベルデが仰向けなので、俺より上方が見える。その場でゴロンと一回転。天井に横向きに光線柱がついていた。


「げっ……」

「それ以上進んでいたら、上から撃たれていたんじゃないか?」

「だろうな。ありがとうよ」


 危うく、匍匐中に上からやられるなんて、昆虫みたいなやられ方をするところだった。しかし困った。進もうと思った矢先に、進めなくなってしまったぞ。


「アレス、方向転換して、右の通路へ。そっちの天井には光線柱がなさそうだ」


 ベルデが教えてくれた。そっちにはシヤンとソルラが動いていた。俺もそちらに方向を変える。


「どっちか、じゃなくて正解に行かないと撃たれるって階かな?」

「かもな。とすると、迷路型で正解の道以外は、光線で撃たれるってことかもな」

「入った早々に撃たれたんだが?」


 俺は皮肉っぽく返した。正解もクソもない初見殺し。



  ・  ・  ・



 ベルデの言う通り、光線柱によるトラップ主体の階だった。

 とりあえず、光線柱について破壊を試みたが、ピラミッド階同様、魔法は効かなかった。では、ラエルの狙撃はというと、こちらも弾かれた。今度は物理にも対応したらしい。


 匍匐から解放され、道なりに進めば分岐と……光線のお出迎え。通路の出っ張りなどの遮蔽を利用して、死角を辿り、通過する。


 正面と左への通路に差し掛かった時、正面へ行こうとしたら、突然左から撃たれるとか、判定がシビアな場所も多々あった。


「……むぅ、この先、光線柱だらけなのだぞ」


 先頭を行く――というか先頭になっていたシヤンが、とある部屋の前で言った。

 見れば、確かに部屋の左右に光線柱が埋め込まれていて、立って歩いていけば、たちまち撃たれるのがわかる。


「床のくぼみがある。伏せていけば死角じゃないか?」


 俺は言いながら、見回しているシヤンより先に匍匐で部屋へと入る。後ろで、ドルーがぼやく。


「また匍匐ですか」

「法衣が汚れますね」


 聖女のティーツァも呆れ声である。リルカルムが口を開いた。


「アナタたちはまだいいわよ。ワタシなんて、胸がつっかえるから背中をすりながらなんだから」


 胸の大きなリルカルムである。匍匐すると、頭の位置が少し高くなってしまうため、かなり床にへばりつくようにうつ伏せで這うか、仰向けでの移動のどちらかになる。巨乳さんの意外なお悩みである。


 床への無理矢理へばりつき前進は、同じく胸の大きな方のソルラがやったが、その姿があまりに変だったから笑われていたんだよな。……本人は撃たれないように必死なんだけどさ。


 不死の呪いが、死亡から蘇生までラグなしだったなら光線浴びながら強硬突破もできたんだがな。蘇生までの間動けず、位置が悪いとその間も撃たれるから、永遠に死亡復活ループで動けないなんてこともありうる。


 時々、止まって仰向けになって天井も確認。柱なし。再びうつ伏せ姿勢になり、前進。


 幸いなのは、ここまでトラップだけで、モンスターやゴーレムといった移動して攻撃してくる敵がいなかったことか。


 いない理由は簡単だ。いたら、モンスターの方が光線で蜂の巣だからだ。

 時間はかかるが、トラップの位置さえ見落とさなければいける。……なんて考えたのがいけなかった。

 匍匐していた俺の下で、床が突然抜けた。


「え……っ!」


 抜けたというか、傾いた。下へと滑っていく。


「アレス!?」

「アレス様!」


 やべえ、下にも通路があって、そっちへ滑っていく。何でだ! 今度は落とし穴トラップってか! って、水!


 俺は急角度を滑り落ち、頭から水へダイブした。そりゃ匍匐していたので、そうなる。


「……ペッ」


 顔から水を被ったので、それを払う。意外と水は浅かった。伏せたままでも、少し顔を上げれば、ぜんぜん呼吸もできる。


「さて、ただの落とし穴じゃなくて、こっちにも通路か」


 案外、こっちの道が正解だったりして。少し待ってみたが、上から誰かがやってくる気配はなし。ここがどうなっているかわからないから、どうしたものか困っているのかもしれない。


 無事を知らせる手段はないが、とりあえず大声で無事を叫んでみるか。耳のいいシヤンが案外気づいてくれるかもしれない。

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