第189話、生きるが勝ち
魔の塔ダンジョン61階の謎を解いたのは、リルカルムだった。
彼女は、浮遊するブロック足場島の中に、宝玉が置かれているものがあることに気づいた。それも複数。
宝玉は、バリエーションがありカラフルだった。固定されているものと、台座に置かれているものがセットになっていた。リルカルムは『ダンジョンで見つけたものは冒険者のもの』ルールを発動して、動かせる宝玉を懐に忍ばせた。
次の階へ行く手掛かりを探す中、宝玉を見つけていくリルカルムだったが、そこでふと固定されているものと、動かせる宝玉を同じ色に合わせる仕掛けではないか、と気づいた。
色合わせをした結果、島が一つに集まり、その中央に、次へ行くと思われる魔法陣が現れた。
「お見事。いきなり足場が動き出した時はゾッとしたけど」
俺たちのいた足場も、中央に引き寄せられたからな。危うく落下するかと思った。突然過ぎて、吃驚した。
「まあまあ、次の魔法陣が見つかったからよかったじゃない」
まったく悪びれた様子もなく、リルカルムは笑った。まあ、そうなんだけどな。
これで突破――と行きたいところだったが、残念ながら、フロアマスターが立ちふさがった。
……そりゃ、ここまで来て、戦闘もなしで進める階があるとは思ってなかったけどさ。
フロアマスターは、宝玉だった。例のリルカルムがパクろうとした宝玉が集まり、浮遊する、何とも形容し難い魔法兵器となったのだ。
赤い宝玉からは炎。青い宝玉からは水。水色は氷、黄色は雷、と属性に応じた魔法を撃ち込んできた。
「迂闊に近づけないな!」
一つ一つの宝玉に、それぞれ意思があるようで、それぞれが攻撃してくるから、誰かが引きつける、という手は使えない。そもそも、宝玉なので、どこを向いているのかも判断できない。後ろを取ったつもりでも、球体に後ろがあるのか、と。
さらに面倒なのは、攻撃の威力自体は大したことがないが、防御のほうは異様に硬く、こちらの魔法攻撃や狙撃銃が通用しなかった。
「次への魔法陣はすぐそこだってのに!」
ベルデが歯がみした。気持ちはわかる。何せこっちは近づけないもんな。俺は、カースブレードで飛来した電撃を弾く。
「アレス、得意の呪いで何とかできね?」
「呪いを受け付ける相手ならな」
生き物でないものに呪いなんて、大体のところ効かないんだよな。
「呪雷!」
呪いの電撃弾を連続発射。しかし、浮遊する宝玉には呪いの雷は通じなかった。……うん、知っていた。
さて、どうしたものか。あの宝玉は、ガンガン魔法に似た攻撃を繰り出していて、こちらも近づけないが、攻撃に使う魔力が切れるということはあるのか?
「物理で殴れれば……」
不死身なのを利用して押し込む? いや、あそこまで矢継ぎ早だと、被弾しながら近づくのは痛いし、効率が悪い。痛覚を切れば、痛みは何とかなるが、不死身といっても意識飛ぶ時があるから、致死的なダメージを食らえば、一時的に足は止まってしまう。結果、近づくまでにどれだけ攻撃を食らうことになるか。相手も動いて距離を取ったら意味ないしな。
「リルカルム!」
「なに?」
「宝玉の頭上からでっかい岩を落とせるか? 巨岩落としだ」
魔法でも実体化した岩がぶつかれば、それは物理攻撃。ただの岩投擲なら、迎撃されるが、それより遥かにでかい大岩なら、敵が破壊する前に衝突だ。
「思いっきりやってもいいのね!?」
「やれ!」
「きっちり時間稼ぎなさいよ!」
「了解だ、リチャード・ジョー!」
「盾になります!」
大型盾持ちのリチャード・ジョーが、リルカルムの前で宝玉の攻撃を防ぐ盾となる。
「ドルー! アースウォールで壁を形成!」
「承知しました!」
土属性魔術師のドルーが、岩の壁を展開して、盾を増やす。その間に、リルカルムは大魔法を詠唱。そして、巨岩が降ってきた。
周囲に攻撃しまくっていた宝玉たちは、大岩と衝突し地面にめり込み、挟まれた。さすがにその重量は許容範囲外だったか?
「倒せた……?」
ソルラの呟きに、リルカルムは首を振った。
「わからないわ。挟まれて動けないだけかもしれないし」
「倒せたかどうかは、この際いい」
俺は大岩の向こうにある、魔法陣を指さした。
「今のうちに突破だ。登録して次の階へ行ってしまえば、それでクリアだ」
宝玉が潰れたかどうかはわからない。まだ生きているかもしれないが、確かめる必要はないのだ。
俺たちはそのまま岩を迂回して、魔法陣に飛び込んだ。結果はどうあっても、61階、突破である。生きて突破したなら、勝ちだ! 前の階での犠牲者のことを思えば、特にそう思う。
・ ・ ・
ダンジョン62階。入って早々、光が瞬いた。
それがピラミッドのあった階にあったあの光線だと気づいた時には、俺たちはその集中砲火を浴びていた。
カースブレードを咄嗟に構えたが、一本、二本弾けたのは我ながら上出来だが、それを感じる間もなく、さらに数本が同時に来れば防ぎきれない。……やられたな。
「アレス! あっ――」
「くそっ――」
仲間たちも次々に撃たれたようで、呻きなどが聞こえた気がした。
意識が閉じたのは、どれくらいだったか。俺の視界は高い天井を見ていて、仰向けに倒れているのがわかる。視界に仲間はいない。全員が光線を食らい――全滅したのだろう。
初見殺し過ぎるよな。
「……誰か、意識のある奴は? いても、起き上がるな」
背中を床につけたまま、位置をずらして、おそらく倒れているだろう仲間たちを見ようとする。
「何故か、生きています……」
ソルラが、敵を警戒したか小声で言った。同じく、とジンの声。
「何でオレは、生きているんだ……?」
ベルデの声。視界をズラして、シヤンやリルカルムが倒れているのを確認。レヴィー、そしてシヤンと目が合い、生存を確認。
「わけがわからないのだぞ」
「だよな」
俺がお前たち全員に不死の呪いをつけておいたからだよ――というのは言わず、俺も素知らぬ風を装う。知っているのはジンだけだろう。呪い持たせて大正解。でなければ俺は仲間を全滅させていた。
「ティーツァ、ドルー、リチャード」
「生きてます。何故か」
聖女は答えた。ドルーもリチャード・ジョーも倒れたまま、こちらを見た。
「大公様、ご無事ですか?」
「問題ない。さて、全員生きているから、反撃と行きたいが……」
とりあえず、あの光線を撃ってきた柱を何とかしないとな。
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