第188話、浮遊する足場ブロック


 王城から大公屋敷に帰ると、ソルラが少々ご機嫌斜めだった。……はて、俺は何かしただろうか?

 その答えは、ベルデが教えてくれた。


「シヤンから聞いたよ。チエントロ領だっけ? アレスが結構危ない目に遭っていたのに、自分が呑気に休んでいたことに、苛ついているのさ」


 別にソルラが悪いわけではないし、俺だってこうなるとは思ってなかった。誰のせいでもないと思うんだか。


「彼女、クソ真面目だからな。自分がついていなかったことに腹を立てているわけだ」

「休みの時くらい、気にしなくてもいいと思うんだがな」


 責任感があるというか、生真面目なんだよな、ソルラは。ユニヴェル教会の神殿騎士、敬虔なユニヴェル教徒。とにかく、職務に忠実なのだ。


「あれだろ、カミリアお嬢様から託されてるんだ。何があっても、大公様をお守りするってやつ」


 ベルデの言葉に、なるほどと思った。魔の塔ダンジョン攻略の最中、大けがを負い、療養中のカミリアや仲間たちの思いも、ソルラは背負っているのだろう。甲斐甲斐しい、いや律儀だな。


「そういや、呪いの発生源は何だったんだ?」

「? ああ、魔道具のことか? 呪いが発動する魔道具だったよ。もちろん、ぶち壊したから、もう安全さ」


 チエントロの馬鹿息子が使ったものは破壊処分。ちなみに、俺たちを領に呼んだゲレールは逃げたかと思ったが、モンドルを捕まえた時に、逃げようとした時にリルカルムが魔法で殺害していた。


 そういえば、見ていないなと思い出したら、すでに処理済みだったというね。……俺の仲間は優秀だな。



  ・  ・  ・



 翌日、俺たちは魔の塔ダンジョンの攻略に向かった。

 今度は61階。さてさて、どんな化け物がいるのやら……。


「モンスターはいなさそうですね」


 回収屋のジンが辺りを見回す。


「ラエル、どうだ?」

「……見える範囲には」


 狙撃銃のスコープを覗きながら、ラエルは言った。シヤンは口をあんぐり開けた。


「これまた広い屋内なのだぞ」

「地面はどこだ?」


 ベルデが、下を覗き込む。


「入り口階段の下も、何もねえのかよ。高ぇな……」


 無数の浮遊するブロックの島。それらが点在する以外、他には壁と、真っ暗な天井と床しかない。……床というか底なし穴みたいな。

 リルカルムが鼻で笑った。


「これ、いつぞやと同じく、浮遊する足場を渡って、次の階段を目指すタイプ?」

「そうらしいが……」


 俺は眉をひそめる。


「いつぞやと違って、足場の間隔も高さもバラバラだ。そもそもこれ、空を飛べなきゃ進めないだろう。明らかに渡らせる気はないぞ」


 決まったルートもなく、ただ浮かぶブロック足場島が、至る所を浮いている。ソルラが背中に翼を展開した。


「どこが、次の階行きの階段でしょうか?」

「それも探すしかないな。……頼めるか? だいぶ広そうだが」

「行きます」


 ソルラは嫌な顔ひとつせず、頷いた。リルカルムが長い杖を出して、足場にする。


「じゃ、ワタシも探してくるわ」


 ソルラ、そしてリルカルムも調査に飛び立った。俺は残った面々を見回す。


「次への階段なり魔法陣を見つけたとして、どう行くかだけど、レヴィーに乗っていくということになりそうだが」

「任せて」


 リヴァイアサンこと、レヴィーはコクリと頷いた。ベルデが、土属性魔術師のドルーを見た。


「あんたは浮遊魔法が使えるっけ?」

「使えるが、浮遊魔法は地面から浮かぶ魔法だからな。空を飛ぶ魔法じゃないから、こういう場所じゃあまり役に立たない」


 地面から上がり過ぎると効果がないのが浮遊魔法らしい。今回のような、床が見えないような場所では、落ちるのだという。


「今は、ソルラとリルカルムが、出口を見つけるまで待つしかない」


 改めて、だだっ広い室内を見回す。無数の島のような足場が、様々な高さで漂っている。飛べるといっても、全部見て回るのは大変そうである。



  ・  ・  ・



「見つかりません」


 戻ってきたソルラの答えはそれだった。


「一通り見て回ってきましたが、階段も魔法陣もありませんでした」


 なんてこった。ぐるっと見たところ、次の階へ行くらしいそれらは見つけられなかったという。


「私、もう一度見てきます――」

「ちょっと待て。……ジン、どう思う?」

「ソルラが見落としたのでなければ、たぶんこの浮遊するブロック足場のどこかに、仕掛けが隠されているんだと思います」


 遠くから見ただけではわからず、近くで何かスイッチなり仕掛けなりを見つけて、それを解かないとわからない類いということか。


「と、いうことで、ソルラ。今度は、そういう仕掛けに気を配ってみてくれ。他と違うものを見逃すな」

「はい!」


 ソルラは飛び立った。俺も見える範囲の浮遊するブロック足場島を睨む。


「何か、ここから見ても違和感があるものがないか見てみよう。ラエル」

「了解です」


 狙撃銃で、俺たちよりさらに遠くを見るラエル。ベルデが口を開いた。


「しかし、ここからじゃ視界が限定されるんだよな。上にある島なんて、どうなっているかここからじゃ見えねえし」

「それでも、やらないよりはマシなのだぞ」


 シヤンがたしなめた。リチャード・ジョー、ティーツァも黙って、辺りのブロック足場島を探す。


「そういえば……リルカルムはどうした? 見当たらないが」

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