第184話、尋問タイム


「降伏の宣言を確認した。……まあ、戦場ではそれを受けず、そのまま続行する例もあるが」


 俺が睨みつければ、チエントロは縮み上がった。


「しかし、私は王族なのでな。たとえ、この場で始末すべき愚か者も、戦争という形をとっている以上、降伏を認めて、話を聞いてやらねばならない」


 不敬罪の件もあるから、助けるつもりはないが。これで終わったとは思わないことだ。


「リルカルム、ちょっと、戦争捕虜を拘束しておいてくれ。先に村人の救助を進める」

「わかったわ」

「……手は出すなよ。俺が戻るまで尋問はなしだ。間違っても殺すな」


 あとで、領主であるこいつの親父から賠償金ふんだくるんだからな。


 はいはい、と肩をすくめるリルカルムに、チエントロを拘束、見張らせて、俺はバルダー村の広場に戻る。

 騒ぎが一段落し、集まっていた人々――半分以上がまだ呪いで苦しんでいたが、先に呪いを解かれた者たちが面倒をみていた。


 そのうちに三人がこちらにきて、膝をついた。


「ア、アレス・ヴァンデ大公閣下、この度は村をお救いいただき、ありがとうございました! このお礼は何なりといたしますので……あの、よろしれば――」

「わざわざありがとう。だがまだ呪いを解かねばならない者たちがいるからな。先に呪いを取り除いておこうか」


 おおっ、と後ろの二人がホッとしたような声をあげた。子爵の横やりが入り、このまま呪いを放置して去ってしまうのではないか、と思ったのかもしれない。


 俺は、残る村人の呪いをカースイーターで吸収しながら、この村で何があったのか事情を聞く。


 案内を務めたゲレールの話では、突然、呪いの煙が発生して、一気に村がやられたと聞いていたが……そういえば、そのゲレールも、チエントロ側の人間臭いんだよな。


 村人の話では、一週間ほど前にチエントロ子爵が部下と共に、バルダー村にやってきて、村でも評判の若い娘たちを愛妾にするから連れていくと言い、村といざこざとなったらしい。あまりに乱暴な話に、村側で拒否した結果、四日ほど前に、突然、例の黒い呪いの煙が発生して、この有様だという。


「チエントロと、呪いの煙の関係は?」


 今のところ、直接関係なさそうだが。


「一週間前に、捨て台詞を残していったんです。逆らえば村は呪われるぞ、と」


 呪い持ちになったら、全員奴隷にして売り飛ばしてやるとか云々。そして呪いが発生した当日、チエントロの部下たちが村にきて、呪いが発生。そのまま逃げるように去っていたという目撃証言もあった。


 チエントロは、愛妾などと言っているが、単に女性をはべらせたかったのだろう。貴族だから何をやっても許されると思っているのか。貴族のなすべき義務も果たさずして、勝手に気ままに振る舞えると考えているというのならば、愚か者の極みだろう。


 魔の塔ダンジョン問題と、帝国問題を抱えている時に、つまらぬ手間を取らせやがって。



  ・  ・  ・



「ありがとうございます、大公閣下!」

「「「ありがとうございますっ!」」」


 自分たちを苦しめていた呪いから解放され、バルダー村の住民たちは俺に感謝した。うん、さぞ苦しかっただろう。お前たちが受けた呪い、中々のものだった。

 さて、それでは、次の仕事にかかろうか。


「チエントロくーん、待ったかなぁー?」

「ひぇえっ!?」


 チエントロ子爵は、地面からわずかに浮いていた。何やら天地がひっくり返ったりとぐるぐると回されていたようだが、俺が呼びかけると悲鳴をあげた。


「リルカルム、下ろしてやれ」

「ほい」


 ばたん、とチエントロは地面に落ちた。つま先から膝くらいの高さとはいえ、いきなり落ちたらそれなりに痛い。


「さて、チエントロ子爵。お話ししようじゃないか」

「……っ」

「貴様は、今回の騒動に対して説明しなくてはならない。何せ多忙を極める大公である私を、ここまで呼び寄せたのだ。王族を呼び寄せる原因を作ったからには、きちんと話してもらわねばな」

「……い、いえ、私は、閣下を呼んでなど――」

「ほう? 私を呼んでいない? ゲレールというのは貴様の部下だな?」


 村人に聞いたら、バルダー村の者ではなかったと言っていたぞ。


「し、知りません」

「……チエントロ君。貴様は、今回の国家反逆罪も含めて、不敬罪にも問われている。すでに断頭台もしくは絞首刑の未来が確定的な状況だ。後は国王が書面にサインすれば、貴様は終わりだ」


 チエントロはゴクリと唾を飲み込んだ。顔はみるみる青ざめていく。


「現国王のヴァルム王は、私の弟だ。……わかるな? 私のご機嫌を損ねるようなことをすれば、王のサインを止めさせる者はいない」

「……!」

「――王族に対して虚偽の証言をすることは、重大な反逆行為である。馬鹿な貴様にもわかるように説明してやったぞ。……わかったな?」

「は、はい……」


 本当にわかっているか疑わしいが、尋問を始める。


「バルダー村に、女を求めにやってきて、それで上手く行かなかったから、呪いをばらまいた。……これは本当か?」

「……! ……っ。……はい」


 答えるのを躊躇ったな。本当は否定したかったのだろうが、俺が『嘘をつくな』と釘を刺したから、迷った挙げ句、首肯した。


「呪いはどうやってばらまいた? 呪術師か? それとも魔道具か?」

「……魔道具、です」


 キャラバンで魔道具を売っていたので、購入したという。まさかここまで効果が大きいとは、などと、自分でも想定外という顔をするチエントロ。……いや、村人全員、巻き込むつもりだっただろうが。何、被害者ぶろうとしてるんだ?


「で、何で、王都にまで俺を呼び出したのだ?」

「いえ、本当に閣下をお呼びするつもりなどなく――」


 聞けば、どんな呪いも解くと評判の解呪の達人が王都にいると聞いて、それを連れてくるつもりだったらしい。

 要するに、まさかその解呪の達人とやらが、俺だと知らなかったパターンだ。……ふーん。


 それで、その達人を呼んだ理由は、自分の女として囲う村の娘の呪いを解除するためだったという。……舐めてるのか?

 自分のところにいないから、余所から連れてくるのはともかく、自分のことばかりで、呪いにやられた他の村人に対する救済もないとか。


「……ふうん、話はわかった」


 というわけで、村人の証言とほぼ合致したので、尋問を終える。仮に意見が食い違っていたとしても、王族への反逆と不敬罪があるから裁けるのだけれども。


「じゃ、お前の親父のところへ行くか」

「へ……?」


 ここは伯爵領だからな。この騒ぎを当人だけの問題にするかは、そこで決めさせてもらおう。だがその前に――


「村人たちの受けた呪いをその身で味わえ」

「うわっ……ああああっ」


 全身に痛みが走り、チエントロは、その場に跪いた。痛いだろう? 痛いよな? でもこれ、もう四日間も、村人たちが受けて苦しんでいたんだよ? お分かり?

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