第181話、呪い大発生
リルカルムの件は保留とした。
ジンは、ダンジョン入手の品の解析――例の竜騎士の装備や、敵が使っていた武具の調査を行うために離れた。
俺はギルマスの執務室で、ボングとダンジョン攻略の状況を話し合っていたのだが――扉がノックされた。
「はい」
「失礼します、ギルマス代理」
眼鏡をかけたギルドスタッフ、ロイル君がやってきた。
「お話中、失礼致します」
「緊急か?」
ボングは問うた。一応、大公である俺の会談の場に入ってきたわけだから、業務報告程度だったら許されない。
「緊急かどうか、わかりかねるのですが、問題であるのは間違いないので――」
何とも要領の得ない口ぶりである。気弱そうだもんな、ロイル君は。
「構わない、言ってみろ」
俺は促した。問題ではあるのだろう?
「はい、えーと、バルダーという村で、大規模な呪いが発生したそうです」
「呪い?」
「そうです。村にいた人は、ほぼ全員呪いに感染したようで、王都に優秀な呪い解きがいると聞き、助けを求めています」
ロイル君は、俺を見た。呪い解きとは、まあ、俺のことだろうな。ボングが口を開いた。
「話はわかるが、何故、ここにきたんだ?」
「俺が、ギルド前で王都住民の呪い解きをやったからだろう」
そういう噂から、王都、冒険者ギルドに来れば、呪い解きが誰かわかるだろう的な判断じゃないかな。
「そのバルダー村から、人が来ているのか?」
助けを求めに、わざわざ王都へ来た者がいるだろう。そう言えば、ロイル君は頷いた。
「はい、村の外で猟をしていて、帰ったら大惨事だったそうで……」
「その者と話はできるか? 詳細が知りたい」
王国の村での出来事である。本来は領主が対応すべき問題だが、事が呪いで、彼らの手に余るなら、遅かれ早かれ救援要請を出すだろう。
呪いの大量発生ならば、俺が赴くのが手っ取り早い。
「わかりました、今すぐに」
ロイル君は首肯すると、一度退出した。ボングは肩をすくめる。
「何だか大変なことになりましたな」
「まったくだな」
・ ・ ・
「バルダー村で、猟師をしているゲレールと申します」
「私は、ギルドマスター代理のボング。そしてこちらは――」
「アレスだ。君が助けを求めにきた呪い解きとは、俺のことだ」
「……」
ゲレールと名乗った男は、三十代くらい。毛皮を加工した狩猟服をまとい、厳めしい顔付きの男だった。……猟師というより、人を殺す仕事をしているような目だな。
「アレス殿は、騎士のようにも見えますが――」
格好のせいか、ゲレールは無表情ではあるが丁寧な口調だった。……随分と綺麗に話すものだ。偏見ではあるが、田舎の漁師っぽくない。元騎士とか兵士だったのかもしれない。
「冒険者も兼任しているんだ。呪い解きだよ」
「そうですか……」
一瞬、ゲレールは視線を逸らした。何か気になることがあるような、少し考えるような素振りだった。
「どうかしたか?」
「いえ……。呪い解きと仰るには、ご自身も呪い持ちのようだったので、違和感を」
「ああ、これね」
左腕に集めている、オーラが漏れるタイプの呪い。呪いを受けている者は、呪い持ちと差別的な見方がされるものだ。
「世の中には、呪い解きでもどうにもならない呪いが存在するんだよ。だが、大抵の呪いは解除できるから、そのよほどの呪いに襲われたのでなければ、助けられるぞ」
「……わかりました。ではお話いたします」
そこでゲレールは、バルダー村で起きた謎の呪いの煙騒動について話した。触れた者に苦痛を与える呪いのようで、村にいた人間は軒並み呪いの煙にやられて、苦しんでいるという。
「煙に心当たりは?」
「残念ながら」
うーん、何かの魔道具が発動したとか、悪魔とか邪教教団の仕業だろうか? しかし原因はともかく、被害者がいて、呪いに苦しんでいるのだから、救援には行かねばならない。
バルダー村は、王都から徒歩で四日ほど掛かる。ゲレールが急いで王都にきたとしても、数日は経っているのは間違いない。素早く駆けつけねば。
「わかった。原因究明は現地でやるとして、まずは村人を助けよう」
今日はもうダンジョンにはいかないから、その間に行って、日帰りとしよう。レヴィーにお願いして空から行けば、本日中に解決も可能だ。
ということで、俺はボングに後は任せて、ギルドを出ると、一度大公屋敷に戻ると、仲間たちに声をかけた。
「呪いの大規模発生と、村人救助に向かう。ついては、レヴィー、村まで乗せてもらえるか? 日帰りで戻りたいから」
「わかった」
リヴァイアサンが変身している少女は頷いた。ソルラが手を挙げる。
「私も――」
「ソルラは留守番だ。お前は今日は休め」
怪我人はしっかり休んで明日に備えてくれよ。
「それって、オレらも行かないってあり?」
ベルデが聞いてきた。呪い問題に関しては、できることがないって顔をしているな。
「いいぞ。最悪、俺とレヴィーがいれば、後は自由参加で」
「自分、お供いたします」
元グラムの魔術師ドルー――今はこの大公屋敷に住んでいる土属性魔術師が志願した。リルカルムも参加を表明する
「呪いと聞いたら、興味があるわ。救助よりも発生の原因にね」
「調査協力に感謝する」
俺が村人の手当をしている間に、原因を探ってもらおう。シヤンがニヤリとした。
「そういうことなら仕方ない。護衛として参加するのだぞ」
というわけで、俺、リルカルム、レヴィー、シヤン、ドルーが、バルダー村へ遠征することになった。
外で待っていたゲレールと合流して、王都の外へ。そしてレヴィーがリヴァイアサンに変身すると、無表情な猟師も驚愕した。
「こ、これは、ドラゴン……っ!?」
「そういうこと。大丈夫だ。俺たちと一緒にいればな」
さっさと行って、事件を解決しよう。
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