第171話、暗黒守護者
59階のフロアボスってやつだろうか。
一人は暗黒の全身鎧をまとった重騎士。
一人は杖に乗った暗黒魔術師。
一人は黒き衣をまとった軽戦士。
そいつらが、合同攻略パーティーの冒険者たちと戦い、次々と倒していく。
高速で飛行する暗黒魔術師は、弓使いたちの投射攻撃を掻い潜っているところに、軽戦士が風のように駆け抜け、弓使いたちを倒す。
前衛を担うはずの騎士や戦士たちは、すでに重騎士によって倒されていて、ルエール・トワやシヤンが何とか凌いでいるくらいだった。
倒れている者の中にはカミリアやベルデの姿があった。
「キシャー!!」
暗黒魔術師が奇声を上げる。頭上から雷が落ちてきて、冒険者たちを感電させる。
くそ、いいようにやられているじゃないか!
俺はカースブレードを抜き、駆ける。リルカルムが、飛行する暗黒魔術師に攻撃魔法を浴びせた。
しかし暗黒魔術師は、まるで波に乗るように杖を足場に、爆発魔法を掻い潜った。
「やるわねぇ、あいつ――」
「リルカルム!」
ソルラの声。災厄の魔女に、敵軽戦士が肉薄していた。あまりに素早くあっという間の出来事だった。
だがリチャード・ジョーが盾で割り込み、さらにソルラが軽戦士を横から斬りかかり、敵を後退させた。
あっちは任せて、俺は重騎士に向かう。最強冒険者ルエールは、アーマーなしの状態で重騎士と渡り合っていた。彼女は剣を持っているが、何故か敵の重剣を受けることなく回避に専念していた。……何故、受け止めない?
受け止めきれないほど、相手のパワーがあるのか? 確かに重騎士の腕の振りは早く、当たればただでは済まないだろう。しかし、敵の剣をどうにか止められれば、隙を窺っているシヤンも攻撃できるのだが。
なら、俺が止める!
「アレス!」
ルエールが叫んだ。
「こいつの剣、受け止めたらやられるよ!」
簡潔な注意が飛んだ。止めたら駄目なのか? 受けようとしたらやられるということか。周りで倒れている騎士、戦士組も、受けようとしてやられたのか? 見れば、剣など彼らの武器が折れているのが見えた。
考えられるとすれば、見た目以上にパワーがあって、金属製の武器や防具すら簡単に両断してしまうということ。あるいは奴の重剣が、何か特殊能力持ちなのかもしれない。ルエールの注意を無視すると、たぶんやられるな。
重騎士が俺に気づいた。でかいな、身長2メートルはありそうだ。
その時、シヤンが動いた。敵の目が俺に向いた隙をついたのだ。しかし重騎士は、すっとシヤンを見ずに左手を向けた。次の瞬間、突っ込んだシヤンが吹き飛ばされた。
魔法か? ええい、よくも! 俺は踏み込み、重騎士に斬りかかる。ガシンと金属同士がぶつかり、火花を散らした。
重剣がカースブレードを防いだのだ。……かかったな!
魔力吸収! 呪われし魔剣が、重騎士から魔力を奪う。同時に俺は呪いを開放して、敵の体に複数のマイナスの呪いを付与する。
力も、俊敏性も下げて、さらに麻痺も――しかし、重騎士は動いた。まるで何事もなかったように。
「こいつ……!」
呪いが効かないのか。突きを躱して、追撃の斬撃を掻い潜る。なるほど、振りの速度も変わっていないみたいだな!
ルエールが重騎士の背後から刃を突き立てた。しかし――
「弾かれた!?」
あるいは重騎士のマントかもしれない。重騎士は自身を中心に一回転。風が舞い、俺とルエールはそれぞれ距離を取った。
「やるじゃないか……」
俺は正面から構える。重騎士はじっと俺を見据える。一言も発しない。まるで、呪いの鎧で言葉を失ったルエール――マラディのように。
もしかしたら、この重騎士が、邪教教団が作ろうとしていたものの正規版なのかもしれない。……試してみるか。
「カースイーター!」
呪い喰い! 重騎士からの呪いの類いを吸い取る。こいつが呪いの力を根源としているなら、それで能力を抑制できる。上手くいけば、鎧が剥がれて決着というパターンも……。
「……ない、か!」
重騎士が踏み込んで重剣を振り上げた。飛び退いて回避――とその瞬間、重騎士が左腕を突き出して、衝撃波を放った。
「くっ!」
追い打ちを食らって吹っ飛ばされる。シヤンがやられたやつだ。
ルエールが再び、重騎士の背後から迫った。しかし今度は重騎士にも迎撃の余裕があった。俺を吹っ飛ばすことによって!
振り返りざまに、ルエールの体が浮いた。重騎士の左腕が彼女に向けられている。まるでそこから見えない腕が伸びているように。重騎士が拳を固めると、宙に浮いたルエールが締め付けられているように苦しみだした。
何かはわからないが、何をしようとしているかはわかった。ルエールを見えない力で潰そうとしているのだ。
「させるかよっ!」
床を滑りながら、無理矢理起き上がると、倒れる勢いでカースブレードを投げつけた。魔剣は、背中を向けている重騎士、その首に突き刺さる。
『!?』
重騎士は倒れない。しかし魔剣が刺さったのはわかるのだろう。取り除こうと手を伸ばすが、重甲冑をまとうその体、腕が届かなかった。
俺は呪いの力で加速した。この隙を逃してはならない。ここで、奴を倒さないと、ルエールが殺される!
「おおおおおっ!」
重騎士の背中に飛び乗る勢いで突っ込む。刺さったカースブレードを握り込み、飛び込む勢いで、そのまま押し倒す。刺さった剣先はさらに深く重騎士の太い首に刺さって、倒れる時には貫いていた。
重騎士は動かなくなった。死んだのだろう。兜で顔はわからないが、こいつから力が抜けたのを感じた。
「ルエール!」
見えない力から解放され、ルエールは床に横たわっていた。
「ルエール……!」
「……やばい、色んなところ、潰されたかも……。手足に力が入らない」
俺は駆け寄り、ルエールを抱き起こす。血を吐いたりは……ないな。手足がぶらんとしているが、折れてるのか。
「大丈夫か? 手足以外に痛いところは?」
「それは……大丈夫そう。頭もはっきりしている。けど、やっぱり手足が動かないや」
内臓が無事なら、命は助かるだろう。圧死なんて冗談じゃない。
「ヒーラーは!? 誰か手当を……!」
周りには倒れた者たちばかり。魔術師もヒーラーも。聖女のティーツァの姿が見えた。しかし彼女も負傷しているのか、自身に治癒魔法を試みているようだった。他にもカミリアら、動けないようだが、まだ生きているのか息をしているのが見えた。
雷鳴が轟いた。
杖に乗った暗黒魔術師が、ソルラと空中戦を演じていた。もう一人、敵の軽戦士は足元から伸びる無数の氷柱を躱して後退している。
こいつらを倒さないと、この階のクリアにはならない。
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