第163話、遺跡、そして塔へ


 正直に言って、巨大ゴーレムに包囲された状況は、もはやこちらが守りを固めるだけ無駄だった。

 何とか守ろう、とか、態勢を整えよう、なんて考えていたら、ますます追い詰められただろう。


 一分一秒だって時間を浪費できない。最大限に効率よく、敵を減らすこと。それが早ければ早いほど、仲間は助かる。


 俺は目の前の敵を戦闘不能にすることを優先させた。魔喰いの呪いで、ゴーレムを行動不能に追いやる。

 自身の行動を魔力によって行っているゴーレムにとって、魔力が通らないのは、生物にとっての神経が遮断されるも同じことだった。


 関節の接続がはずれ、バラバラになる巨大ゴーレム。それが崩れ落ちるだけでも、下にいる冒険者たちにとっては危険だったが、あのまま攻撃されれば、もっと危ない。


「トドメは任せたぞ!」


 俺はゴーレムの動きを封じることを優先させた。崩れたゴーレムの、むき出しになったコアへのトドメは、仲間たちに委ねた。


 カミリアが、シガが、リルカルムがそれぞれゴーレムの心臓であるコアを破壊し、完全に打ち倒す。

 トータルで見れば一分くらいだっただろうか。短い間に戦いは終結した。


「3名死亡。5名が負傷で治療中です」


 カミリアが報告した。リチャード・ジョーは、戦死したメンバーの前に膝をつき、頭を垂れていた。ここまで共に戦ってきた戦友がまた一人、逝ったのだ。


「こちらの防御がまったく通用しない敵でした」


 カミリアは、どこか俺を慰めるように言った。


「前衛の盾ごと砕いてくる敵でした。アレス様が、無力化を優先して立ち回っていただけなければ、パーティーは半壊していたかもしれません」

「……」


 被害は最小限だった。そのつもりだったが、犠牲者は出てしまった。ダンジョンとはそういうところだ。

 遺体をジンに回収してもらい、負傷者の手当てが済んだところで、前進を再開する。


「敵巨大ゴーレムは厄介だが、対策はできた」


 出てきたら、俺が魔喰いの呪いを使うとか、リルカルムや魔術師らが魔力吸収だったり遮断だったりで敵の動きを阻害。動けなくなったところを、コアを狙って倒す。


「奇襲さえ受けなければ、もうやられない」


 俺たちは門に向かって移動する。道中、6体ほどに襲われたが、手順が確立されたから、もはや雑魚であった。


 最後のフロアマスターは、大蛇を模した巨大ゴーレムだったが、リヴァイアサンに比べたら全然小さいし、所詮はゴーレムだった。


 57階、突破。このところ上手くいっていたが、毎度そう行く保証なんて、どこにもないんだ。



  ・  ・  ・



 ダンジョン58階。シガは言った。


「塔なのに、塔を登れってか?」


 澄み渡る空。ひたすらまっすぐ走る石の橋。その先にはこれまた高い高い塔がそびえ立っている。


「どうやら一本道のようだな」


 カミリアが見渡せば、ティーツアが石橋から下を覗き込んだ。


「かなり高いですね、ここ。下にあるのは町かしら……?」

「さっき通った57階だったりしてな!」


 シヤンが言えば、リルカルムが鼻で笑う。


「さっきの階は天井があったでしょう? 見下ろせるわけがないわ」


 そうだった、と周りの冒険者たちが小さく笑った。

 さて、唯一の道である石橋を渡って、塔を目指そう。敵の襲撃を警戒しつつ、長い長い橋を進んだ先で、ようやく塔へと到着した。


「……思っていたんだけど、これ、塔っていうより、馬鹿でかい螺旋階段?」


 シガが苦笑した。ベルデが塔を改めて見上げる。


「外周を狭い上り足場があるみたいだが……」

「猫の通り道だろう? 通れなくはないが、バランスを崩したら真っ逆さまだぜ」


 ちなみに中は――あまり広いとはいえないその塔。人が一人通るのがやっとという細い螺旋階段が壁に沿ってあったが、塔の大部分が吹き抜けになっていた。つまり、階段以外は穴と言っていい。


「下行きの階段はなさそうだな」

「上に登っていくしかないが……」


 俺はシガと塔の中、入り口から上層を見上げる。


「こっちの階段も、狭さで言えば多少マシと言ったところか」

「つまり、中と外、二通りのルートがあるってわけだ。……どっちも高所恐怖症にはたまんねえな」

「高いところは平気か?」

「人並みにはね。怖いものは怖いぜ? ……と、ありゃなんだ?」


 上から何か降ってきた。


「危ない!」


 とっさに身を引く。落ちてきたのは、巨大な塊。一つ目の巨人――


「サイクロプス……!?」

「何で……」


 シガも絶句する。

 一つ目の巨人は、真っ逆さまに下へと落ちていった。しかも健全な状態ではなく、血だらけで無理やりボール状に固められたような、そんなおぞましい姿で。


「何だったんだろうな?」

「わかんねえ」


 俺とシガは顔を見合わせて、すぐ後ろに控えていたマルダン爺を見た。当然ながら、老練な魔術師にもわからなかった。


「また降ってくると思うかい、大公様よ」

「転落事故、という風にも見えなかったからな」


 足を踏み外した、とかいう格好じゃなかった。


「また、落ちてくると思うか?」


 俺にわかるわけがない。


「とりあえず、少し様子を見よう。……ソルラ!」

「はい、アレス」


 ソルラがやってくる。


「ちょっと塔の外側を飛んで、上の様子を偵察してきてくれ」

「わかりました」

「……それまでは警戒しながら待機。登る前の休憩と行こう」


 ソルラが偵察している間に、また降ってくるか見られるだろう。はてさて、どっちのルートから行くのがマシかな……。


 それにしても高い塔だ。外側だろうが内側だろうが登るとなると大変だ。外側は、落下するかも、という恐怖がより強く、内側だとひたすら長い階段を登ることになって膝にきそうである。


 さらに内側の場合は、落下物があるかもしれないので注意。頭上と足元にそれぞれ注意しないといけないのは割と神経を使うだろう。その面倒を考えると、外側ルートに行きたくなるように出来ているのかな、ここは。

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