第162話、遺跡の町
魔の塔ダンジョン57階。古びた金属の臭いと遺跡が混在する屋内にいた。俺たち合同攻略パーティーは、薄暗い中、慎重に進む。
シガが先導組を率いて言った。
「何だか遺跡探索しているみたいで気分が高ぶるなぁ」
確かに、雰囲気はあるよな。ソルラが遠くへと視線を向ける。
「何だか、大昔に滅びた町のような趣きもありますね」
「廃墟の町、か?」
屋内とはいったが、ここも例によってかなり広いな。
かなり先にうっすらと壁があって、巨大な門が見える。俺たちは、とりあえずそこに次の階への魔法陣なり階段なりがあると考えて、目指している。
「そこが出口だとよいのですが……」
マルダン爺が、崩れた瓦礫を難儀そうに下りる。
「もし違えば、出口を探して、かなり面倒なことになりますぞ」
「そうだな」
広い町のような遺跡。次への階段を探して、探索とかどれだけ手間がかかることか。ベルデが首を横に振る。
「生き物の気配がないのは、幸いってやつじゃね? どうだシヤン?」
「魔物の気配も、臭いも感じないのだぞ」
獣人娘は鼻をヒクつかせる。割と障害物が多くて、待ち伏せには打ってつけの地形だ。敵が潜んでいないのは、精神衛生上ありがたい。
「いや、敵は何も生き物だけじゃない」
ゴーレムとか、トラップとか、これまでもそれに悩まされた。
「油断は禁物だ」
中々歩いているが、ようやく門まで半分という辺りに差し掛かる。現在まで、敵対するモノとの遭遇はなし。
「もう本当に、廃墟しかなくね?」
シガが口を尖らせた。
「これで宝箱の一つでもなければ、やってらんねえな」
「気を抜くなよ、シガ」
カミリアがたしなめた。
「その油断が命取りだ」
「あー、はいはい。わかってますよってんだ」
ブゥン――
「……!」
「どうした、シヤン?」
ベルデが、突然立ち止まったシヤンに問えば、彼女はある方向を向いていた。
「何か、音がしたような……」
その瞬間、右方向で遺跡の壁が砕けた。とっさに身構える俺たち。現れたのは――
「ゴーレム!? いや――」
「大きい……!」
巨人型の魔物のような巨体。鉄のボディーを持つ騎士のようなそれが姿を現した。ベルデが目を見開いた。
「デカ過ぎるだろ!」
「帝国で暴れていた大鬼よりは全然小さいわよ」
リルカルムが言った。鋼鉄鬼ことダイ・オーガに比べれば半分程度か? しかしジャイアント系とゴーレムを合わせたような無骨なそれは5、6メートルくらいの高さはあった。
「来るぞ!」
その大型ゴーレムが向かってくる。ご丁寧に右手に剣のような武器、左手に盾を持って。冒険者たちは慌てる。
「あんなでかいゴーレム、攻撃が通じるのかよ!」
「く、来る!?」
勢いに押されて、冒険者たちは逃げ腰だ。無理もない。そのままでは向かってきたら踏み潰される。手持ちの武器で止められるような相手ではない。
「アーススパイク!」
グラムの魔術師、土属性魔術師のドルーが魔法を唱えた。地面から巨岩が突き出て、それは数メートルの大型ゴーレムの胴体を直撃して、よろめかせた。
「おおっ!」
「効いているぞ!」
ゴーレムの足が止まったことに、冒険者たちは踏み留まる。しかし、根本的な解決にはなっていない。
「厄介な相手だな」
思わず声に出た。合同攻略パーティーの冒険者たちのほとんどの冒険者の攻撃を受け付けそうにない巨大ゴーレムだ。ドラゴンの装甲とどちらが硬いか気にはなるが、とりあえず、やってみるか。
「気をつけろ! 他にもいるぞ!」
瓦礫を砕いて、さらに鋼鉄の大型ゴーレムが現れる。その数は二体、四体と増えていき、あっという間に十を超えた。
50階のドラゴンに包囲されたのを思い出す。あの時はレヴィーが本来のリヴァイアサンの姿になったことで九死に一生を得たが、今回はあの手は使えない。
障害物が多く、また天井も巨大ゴーレムたちが動くには問題がないが、リヴァイアサンには狭すぎる。無理やり巨大化して、もし天井が崩れることになれば俺たちもぺしゃんこだ。
「これは、非常にマズいな」
全体の半分くらい進んでいるせいで、敵に包囲されてしまった。しかも――
「地形のせいで統制が取りにくい……!」
近くに現れた大型ゴーレムの巨腕が振り下ろされる。俺は飛び退いて、回避。遺跡の残骸がゴーレムの一撃で砕けた。こんなもの、人間が盾で防御して防げるものじゃないぞ!
近くの瓦礫を蹴って跳躍。呪いの力を応用し、獣のような大ジャンプからの剣技『点』! ゴーレムの頭をカースブレードが砕く。
「まず一体!」
仲間たちを見れば、空中に飛び上がったソルラが一体、地形を踏み台にして近づいたルエールがこちらも一体を何とか倒していた。
だがそれ以外は、ゴーレムの巨大さと、瓦礫だらけの地形に足を取られて、なかなか攻撃に移れない。遺跡壁の破片が大岩となって散らばっているから、アップダウンが激しく、魔術師やヒーラーなどにとっては敵の攻撃範囲から逃れるだけで精一杯という有様だ。
近接型の戦士たちも、そんな地形を何とか踏み越えてゴーレムに立ち向かおうとするが、そのゴーレムは地形を踏み砕きながら進めるから、間合いが掴めず苦戦を強いられていた。
個々で比べたらドラゴンのほうが強いだろう。だが、変化する地形と、その地形をゴーレム側は無視できる特性のせいで、圧倒的に不利な状況に追い込まれた。
仕方ない。どうこう考えるより、まず動いて一体でも減らせ!
「図体はデカかろうが、所詮ゴーレム。その体を動かしているのは魔力だろう!? 『魔喰い』!」
俺は近くの巨大ゴーレムに、呪いを飛ばした。黒き呪いは、その体に取りつくと、あっという間に全身へと伸びていった。体を動かしている魔力を呪いが喰らう。やがてゴーレムは自身の体を支えることができず、その場にガラガラと崩れた。
「俺が、ゴーレムの体勢を崩す! トドメは任せたぞ!」
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