第158話、ないなら作るしかないので、一度屋敷に戻ったら


 大公屋敷に帰宅すると、カミリアたちバルバーリッシュと、マルダン爺たちグラムの魔術師たちが集まっていた。


「あれ、何事?」

「お帰りなさいませ、アレス様」


 カミリアが皆を代表して頭を下げた。


「我ら、アレス様にお仕えする者として、以後、お供させていただきたく参上致しました!」

「?」


 いや、それは前にも聞いたけどさ。グラムのメンバーには、魔の塔ダンジョン攻略の暁には、って話だったし、カミリアは――


「父上にはご相談したのか?」


 祖父のほうじゃないぞ、父上だ。俺が確認すれば、カミリアは満面の笑みを浮かべた。


「もちろんです、アレス様! 父上からも正式に許可をいただきました! こちらが、その書状にございます!」


 恭しく手紙を渡されたので、一読。要約すると、言っても聞かない娘なので、よろしくお願いします、だそうだ。


「わかった。以後、よろしく頼む。……もちろん、マルダンたちも。ここにいるということは、そういうことだな?」

「はい、閣下」


 マルダン爺たち魔術師は一斉に膝をついた。わかった、よきに計らうさ。


「しかし、せっかく来てもらったので悪いが、俺の屋敷は今、この有様でな」


 カーソン・レームの屋敷を貰い受けたが、なにぶん俺を殺そうとする刺客を引きつける囮役もあったから、庭も建物もボロボロなんだ。……最近はさすがに殺し屋や雇われた賞金稼ぎもこなくなったけど。……綺麗にしないとな。人が増えるなら。



  ・  ・  ・



「まあ、上の部屋は開いているし、裏手の兵舎も勝手に直す分には使ってもいいんじゃない?」


 屋敷の居住区である地下を担当したリルカルムからも許可が出た。バルバーリッシュやグラムの面々は、早速、散らかっている中の片付けを始めて、自分たちの寝床確保を開始した。


 それらをよそに、俺は、仲間たちと王城での話の報告を行う。なお、カミリアとマルダン爺も代表として参加している。


「孤児院!」


 そのカミリアが声を上げた。


「さすが、アレス様です! 孤児たちのためにまず最初に孤児院から手をつけられるとは……! さすが我が主!」


 彼女の祖父であるガルク・ファートも暑苦しい男だったが、孫にもその血はしっかり受け継がれているようだ。……やっぱ育ての環境って大事だよなぁ。


「しかし許せないのは幸せの会、そしてミニムム。クレンという貴族の面汚し! 処刑されたと聞いたがまだ殺したりない! 万死に値するっ!」


 さすがのリルカルムも、カミリアのテンションについていけないぞ。リルカルムもソルラも苦笑しかしていない。

 まあ、それはそれとして――


「とりあえず、クレン侯爵の屋敷後に、新しく孤児院を建てようと思うんだが、まさか全焼しているとは思ってなくてな。再利用できる建材もないし――」

「というか、色々足りないんじゃね?」


 ナイフの手入れをしていたベルデが言った。


「建物の設計とかやれんの? 建材って言ったって、まずどんな建物なのか設計図とかねえと集めようがないだろ」

「人手の問題もありますよね」


 ソルラが挙手した。


「あ、王都の業者に頼むんですよね? それでも建物の大きさによっては、かなり日にちがかかりますし」

「え、何、城でも作るの?」


 冗談めかすベルデに、シヤンとレヴィーが顔を上げた。


「お城かー」


 君たち、何を想像した? 彼女たちが何を考えたか、知りたいような知りたくないような……。


「アレス様、設計について、わしから」


 マルダン爺が小さく手を上げた。


「うちの魔術師に、大地属性魔法の使い手がおります。その者が建築に詳しく、孤児院の設計のお役に立てるかと」

「おおっ、専門家がいるのか。それは頼もしい!」


 こちとら、業者を呼んでやってもらうつもりだったから、手間が省ける。


「さっそく、その者を呼んでくれ」



  ・  ・  ・



「ドルー・ミアナハと申します」


 グラムの魔術師で、大地属性を得意とするドルーは、浅黒い肌の屈強な男だった。緑の魔術師ローブをまとっているが、戦士の格好をしたら、そのまま通用しそうな体格をしている。顎が角張っていて、顔が全体的に四角い。

 呼ばれた理由を、ドルーに話したところ、彼は心なしか表情が堅かった。


「何か、気になることでも?」

「……いいえ」

「ドルー」


 マルダン爺が眉間に皺を寄せている。


「大公閣下がお聞きになられているのだ。申せ」


 言いづらいことなのか、ドルーが飲み込もうとしたそれを、マルダン爺は見逃さなかったようだった。伊達に同じパーティーで死線を潜っただけのことはある。周りからの視線の集中砲火を浴びて、ドルーは渋々口を開いた。


「とても……個人的なことです。大公閣下のご希望は、大変素晴らしくありますが――」

「そうだ、アレス様のご提案はとても素晴らしいっ! 何が不満だというのだ!?」

「カミリア、黙れ」

「はい」


 とりあえず、余計なことを言わない。俺はドルーに頷いた。


「私は大地属性の魔術師の家系に生まれました。建築に多少詳しくはありますが、その……あくまで少しです。私自身は、そういう建築について、あまり得意ではないと言いますか。はっきり言えば、嫌いなのです」

「嫌い、か……」

「はあ!? 好き嫌いの問題だというのか!?」

「カミリア」


 口を閉じてなさい。なるほど、嫌いなものを強制するのはあまりよろしくないな。


「ちなみにだけど、嫌いな理由を聞いても?」

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