第153話、砂場と光線
魔の塔ダンジョン52階は、どこかの遺跡の中だった。暗闇の中、明かりで照らしてみれば、綺麗に整えられた石材の床や壁と、どこからか入り込んでいる細かな砂が至る所に見えた。
これに対して、専門家の第一印象は――
「まるで砂漠の遺跡ですね。我々が入り損ねたピラミッドの中……はこうではないですが、何となく雰囲気は似てます」
ジンはそう言うのだ。俺は首を横に振る。
「つまり、罠があるってことか」
実際、罠だらけだった。
部屋によっては床が砂だらけのところがあったが、砂が細かすぎて、一歩踏み出すたびに沈むという緊急事態。石材床を頼りに、砂は回避する羽目になった。
「足場が不安定なら、浮遊していけばいいんですがね」
マルダン爺など、浮遊魔法が使える者は、砂を回避して、石材床を頼りに進んでいくしかない者たちに足場を譲った。
出てくる敵はゴースト系に包帯男――
「あー、これは完全にピラミッドですね」
ジンは苦笑する。ゴースト系は魔術師、
変幻自在に形を変える砂の化け物は、斬っても殴っても手応えがなく飛散したかと思えば、すぐに形を変えて襲ってきた。
「ちっ、どうだってんだ!?」
シガが唸り、カミリアも叫ぶ。
「物理攻撃は効かないのか!?」
倒せないのでは、いずれ疲労と負傷を重ねてこちらがやられる。決定打もなく、ジリ貧か。
「たぶんですが、砂は本体ではないかもしれません」
アルカンのリーダー、ベガが、攻撃魔法で近づく砂の戦士を吹き飛ばした。
「この砂は、手足のようなもので、指揮しているものは別じゃないですか!?」
「ふむ、砂のゴーレムみたいなものやもしれぬ」
マルダン爺が視線を彷徨わせた。
「だとすれば、コアのようなものがこの部屋のどこかに――」
そうなってしまえば、時間の問題だった。レヴィーが水で部屋一面を濡らしたら、サンドモンスターの湧きが急激に減少。ラエルが狙撃銃で、高い天井の一点にあったコアを狙撃し終了した。
52階を突破、次の階へ。
・ ・ ・
53階、ここも建物内。しかし、次の階への魔法陣が見えるほど、さほど広さはない。が――
「かなり、深そうですね……」
ソルラが、俺たちがやってきた52階魔法陣のある足場から、下を覗き込む。
向こうの魔法陣があるところまで、細長い通路が一本あるのみで、周りは底知れぬ穴となっていた。
明らかに、足場のほうが少ない階だ。しかもご丁寧に、通路は橋ではなく、底まで伸びているようなので、人数制限はなさそうだが、横に2、3人程度しか歩けないほど狭いので、進む時は、長めの列になる。
「こんなところを攻撃されたら厄介だな」
ベルデが険しい顔をすれば、リルカルムは鼻で笑う。
「ゼッタイ、仕掛けてくるわよ、それ」
「問題は、何が来るか、だな」
階をぐるりと見回す。通路を挟むようにある壁に、特にゴブリンとかいて待ち伏せしている様子もない。狭い通路を、左右からアーチャーから狙われたら厄介だったのだが、それもなさそう。
「そうなると、ゴーストとか浮遊するモンスターかな?」
「とりあえず、警戒しつつ進もうぜ、大公様」
シガが言った。これ以上、見ただけで判断はできない。かといって、ここで立ち止まっているわけにもいかない。
「全員で動くと、何かあった時に身動きできない。先行組を出して、残りは援護だ」
「了解」
シガは、自分を含めて、数名の斥候チームを編成した。ウルティモのメンバーに加えて、ベルデ、シヤン、ソルラも選ばれた。
斥候チームが、階段を下り、魔法陣のある足場まで伸びている通路を、慎重に、しかし足早に進む。
周囲の警戒を怠らず、適度に間隔を取っている。残っている俺たちは広い室内を監視しつつ、敵が現れた場合に備える。
先頭が中ほどまで進むが、何も起こらない。敵がいない? そんな簡単なものじゃないだろう、ここは!
「邪な気配……来ます!」
聖女ティーツァが言ったその時、斥候チームの斜め後ろに、ふわりとゴーストが複数浮かび上がった。振り返る斥候チームだが、俺たちは、それよりも部屋の壁が発光したのが見えた。
あれはまるで47階ピラミッドの柱の発光――!
「前だ、前を見ろ、リュウーっ!」
リチャード・ジョーが轟くほどの大声で怒鳴った。名前を呼ばれたウルティモのニンジャは素早く振り返ると、足の高さを狙った光線に気づき、瞬時に後方へ飛び退いた。
恐るべき反射速度。もうわずかに遅れていれば、足を光に両断されていた。……などと悠長なことを言っている場合ではなかった。斥候チームの方に左右から伸びた光が迫っていた。
シガが怒鳴る。
「下がれ! 下がれっ! 足を持っていかれるぞ!」
光線が通路の上を幾重にも走る。足を切り裂かれて倒れれば、続く光線に体を切られる。ジャンプして前方に飛べは、やはり追走する後続の光線に切られる。後退しかないが――
「やべ、追いつかれる!」
シガは叫ぶ。光線のスピードは人の足より早い。このままでは斥候チームは追いつかれて、光線の餌食に――
「くそっ」
「ベルデ!」
ソルラが翼で飛び上がり、それを見たベルデがとっさに飛んで、その手に捕まった。シガは叫ぶ。
「横に飛び出せ!」
言うが否や、狭い通路の横へ滑り込み、反転。体を通路の外へ投げ出し、手だけで捕まった。シヤンや他の斥候チームも、とっさに反応した。彼らは手でぶら下がることで、光線を回避した。
危機一髪。見ていたほうも心臓が止まるかと思った。全員で移動していたら、半分以上が光線の餌食になっていたところだ。
なお、斥候チームで通路を走って逃げ切ったのは、ニンジャのリュウだけだった。逃げ足も速い。
こちらは通路にぶら下がっている斥候チームを狙おうとしたゴーストどもを、攻撃魔法や除霊効果をエンチャントした投射武器で仕留める。
通路に人がいなくなったためか、光線は消えた。逃げ切れないあたりまで進んだところで、侵入者を殺す光線トラップだった。
なお、飛んでいる対象には反応しないようで、ソルラのように飛べればフリーで、次の魔法陣まで到着。通路も浮遊魔法をかけて、順番に渡ることで、時間はかかったが、全員無事に突破した。
「死ぬかと思ったぞ」
とっさに通路にぶら下がって危機を脱したシヤンが言ったが、まあ、突破してしまえばこっちのものだ。
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