第152話、戦利品と呪いと


 何だかんだ200個はあった宝箱。魔の塔ダンジョン49階の回収品だ。


 その内容だが、武器や防具がほとんどだった。中々の業物もあれば、ミスリルなどの魔法金属で作られた品もあった。冒険者たちはこぞって魔法金属製の武具を欲しがった。

 箱や品そのものに、全部呪いがついていたから解除はしたが……。それにしても呪いをつけてまとめて置いておくとか、邪教教団の連中は何がしたいんだか


「なあ、ジン。どう思う?」


 回収屋であり、ダンジョンの専門家に話を聞けば。


「あまり人前では言いにくいんですが、これまで魔の塔攻略で倒れた者、邪教教団と戦って死んだ者たちの遺品じゃないですかね」


 なるほど、ダンジョンに挑んで倒れた冒険者たちの武具か。それら回収品をいくつか、侵入者へのトラップに転用したわけだな。


「たちが悪いな、邪教教団の奴らは」

「これまで見た限りでは、否定しようがありませんな」


 ジンは苦笑していた。


 さてさて、ダンジョン49階で回収した品だから、合同攻略パーティーに参加した全員に受け取る資格はある。

 ということで、ダンジョンに挑む前に、山分けの時間だ。内容はともかく数からすれば、一人あたり、三、四個はもらえるぞ!


「「「「うおおおっ!」」」」


 盛り上がる冒険者たち。49階まで挑んだご褒美というやつだ。冒険者たちにとっては、これも楽しみの一つのようだ。


「アレス様から、お選びください!」


 カミリアが声を弾ませた。偉い人から選ぶ権利があるってか? いやいや――


「俺は残り物から選ぶよ。剣も足りているしな。お前たちで好きに選べ!


 一部の冒険者たちが歓喜した。偉い順なんて言い出したら、自分の番が来る前にいいものを取られてしまう――とでも思っていたのだろう。大公様は慎み深い……というわけではなく、遺品かもと聞いて、ちょっとね。


 ただ、武器や防具は使うことに意味があるから、お前たちはいいものがあればつけて、生還できるように努力してくれ。そっちのほうが大事だ。


 ワイワイガヤガヤと冒険者たちは並べられた装備を吟味したり、一部争奪戦を展開している。シガやリーダー級が間に入って、決闘にならないように仲裁しつつ話をまとめていく。こういう時、自然と仕切れるのは、さすがパーティーリーダーたちだ。

 そんな若者たちをよそに、グラムの魔術師リーダー、マルダンがやってきた。


「あなたはいいのか、マルダン?」

「指輪や腕輪、アクセサリー系の魔道具があればよかったのですが、そちらはないようですからな」


 マルダン爺は答えた。確かに、武器とか鎧、兜、盾が多いからな。


「魔道具があれば、アレス様をお守りするものもあったでしょうに」

「魔道具系がないのは、邪教教団の奴らが使っているのだろうな。そっちのほうは値も張るし」


 貴重なものはもちろん、防御やお守り効果などあれば便利だろうし、トラップのために利用するのは、些かもったいない。


「それより、お体のほうは大丈夫ですかな?」

「ん? ああ、呪いか?」


 俺は左腕に集めた呪い、その手を開いた。


「やっぱり見た目は、完全に呪い付きのそれだからな。……不安になるか?」

「呪いには様々な不利な要素がありますから。ここまでアレス様の超人的活躍は見ておりますが、それでも心配になります。痛みなどは?」

「五十年前より全然いいよ」


 あの頃は、呪いとも戦っていた。体が健康であろうとするために病魔と戦うように、苦痛やデメリットと向き合いながら大悪魔たちを討伐して回った日々。


「今は呪いを克服したみたいな感じだな。呪いを利用することで、活路を見いだしてるし」

「アレス様の不屈の精神、まことに感服いたします」


 しかし――マルダン爺は自身の顎髭を撫でる。


「五十年前は、お一人で戦いに挑んだと聞いております。何故、お一人だったのですか?」

「簡単だよ。周りの人間を殺したくなる衝動の呪いのせいだ。戦場になると敵味方問わず、斬りたくなる類いで、伝説の妖剣だか魔剣にありがちな呪いを、最初の大悪魔を倒した時にかけられた」


 敵の呪いは強力だった。呪いの解除も試みられたが、まるで通用しない。味方を斬らないようにするため、敢えて戦場には一人で向かった。不便ではあったが、同時に攻撃力が上がったから、それを利用したというところか。


 それからも大悪魔を倒すたびに、強烈な呪いはどんどん重なっていった。力半減とか、ろくでもない呪いを浴びたが、先の殺人衝動の呪いが威力を上げているとか、まあごちゃ混ぜながら、何とか五分五分で戦い抜いた。


 そうこうしているうちに、冒険者たちは戦利品の分配をほとんど終えた。いくつか残ったが……まあ、わかっていたが、大したものは残っていなかった。武器もカースブレード以下のものばかりだ。


 誰も取らないなら、ギルドに買い取ってもらってお金に変えよう。今後の合同攻略パーティーの活動資金の足しにしておく。


 一方で、仲間たちだが、ソルラは俺同様、分配を辞退した。試練の間で獲得した装備のほうがよかったということもある。シヤンとレヴィーもめぼしいものがなかったか見送った一方、リルカルムは魔法金属製のナイフ、ベルデはダガーや小手など、こちらも魔法金属製のものを獲得していた。欲しいものが手に入ったのならよし。


 それじゃあ、ダンジョン攻略に向かおう。隣国ガンティエ帝国が、こちらにまた攻めてこようとする前に、な。



  ・  ・  ・



 ガンティエ帝国パウペル要塞。帝都から避難した皇帝ご一行が、拠点としている場所である。

 帝国皇女レムシーは、不快感と共にベッドから起き上がった。


「おはようございます、皇女殿下」

「……口の中が変ですわ。何か変なものでも飲んだみたいな――」

「お水をご用意致します」

「ええ、急いでちょうだい。気持ちが悪いですわ」


 謎の不快感、そして謎の疲労感がレムシーを襲っていた。しかも体の一部が少し痛いような。


「……一体何かしら。この感じ」


 わからない。だが何かがおかしい。


「きっと、この不潔でみすぼらしい要塞のせいですわ。ええ、きっとそう! 忌々しいですわ! こんな穴倉!」


 レムシーはヒステリックに声を荒らげた。だがそうしたところで何も変わりはしないし、不快感も消えなかった。


 自分が、遥か彼方より『呪い』を掛けられていることなど、気づけるはずもなかった。自身が、災厄の魔女の玩具に選ばれたことも、知る由もない。

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