第143話、ドラゴンパーティー


 魔の塔ダンジョン攻略合同パーティーは、50階に到着した。魔法陣の登録をした後、階段を登っていたのだが、気づけば転移していた。

 薄暗い。屋内のようだが壁も天井も見えない。しかし――


「ヤバい、ヤバい、ヤバい! 何かいるぞっ!」


 シヤンがこの上なく怯えていた。獣人の血を持つ彼女は、人よりも気配に敏感だ。強いモノにはむしろ対抗心を抱く彼女が、瞬時に怯えているのは、そうそうないことだろう。

 だが逆に言えば、それだけ圧倒的な差か、プレッシャーを感じたということだ。


「どこだ!?」

「どこって、周りにいる! あっちも、こっちも! そっちも!」


 四方八方、包囲されている。冒険者たちは緊張を漲らせて、身構える。そして薄暗い中、くぐもった重低音が聞こえ、それらのシルエットが見えてきた。


「なっ!?」

「ドラゴンか……!?」


 俺たちを取り囲んでいたもの――それはドラゴン。それも五階層ごとにいたフロアマスター・ドラゴンだ。 

 フレイムドラゴン、サンダードラゴン、ストーンドラゴン、フローズンドラゴン、アークドラゴン、シャドードラゴン、ポイズンドラゴン、スカルドラゴン――これらドラゴンが合同パーティーを取り囲む。


「嘘だろ。一体でも厄介だっていうのに!」


 シガが唸る。そしてドラゴンたちは一斉に口腔を開けた。


「まさか、ここでブレス!?」

「逃げ場がねえぞ!」


 包囲されている状況で、一斉にブレスを放たれたら、防ぎようがない!


 絶体絶命! 初見殺し。ここでも冒険者たちを殺しにくる配置。


 その時だった。レヴィーが変身した。少女だったそれが、するすると、本来の巨大なるリヴァイアサンの姿に。


 冒険者たちは、自分たちの中から巨大な蛇のような竜が現れ驚愕し、周りのドラゴンたちもそうだった。

 リヴァイアサンがその長い体を垂直に伸ばし、上から咆哮すれば、周りのドラゴンたちも頭を上げて頭上のリヴァイアサンの頭のほうを狙ってブレスを吐き出した。


 しめた! レヴィーが、ドラゴンたちの注意を払ってくれたから、包囲ブレスが逸れた。

 千載一遇。勝機はここしかない!


「全員! 周りのドラゴンへ攻撃! 二度目のブレスを撃たせるな!」


 俺は叫び、そして正面にいるドラゴン――アークドラゴンへと突っ込んだ。光属性の上位ドラゴン、それがアークドラゴンだ。そのブレスは光であり、狙われたら回避は至難の業。だが、一発撃ってインターバルがある。その隙を、突く!


 リヴァイアサンの咆哮に、ドラゴンたちは足元に近づいている人間たちへの反応が鈍い。図体の大きなドラゴンからすれば、小さな人間より、見下ろしているリヴァイアサンのほうが気になるのだろう。


「その首――もらった!」


 一閃! 飛び上がり、無防備に晒している喉を、カースブレードで切りつけ、両断!

 隙さえつければ、ドラゴンだって一撃だ。


「マジか」

「大公閣下、凄ぇ……!」


 何か下で驚いているようだが、まずはそれどころじゃなくてだな……。俺は首を失い、倒れるアークドラゴンの背に乗って、他のドラゴンの様子を一望する。


 冒険者たちはパーティーどころではなく、それぞれ近くのドラゴンに襲いかかっていた。さすがにここまで来た猛者たち、俺が隙をつけと言ったら、躊躇なくドラゴンに挑んでいた。


 二番目に倒れたのはサンダードラゴンだった。どうやらソルラが翼を広げて、一気に肉薄してその心臓を打ち抜いたようだ。素晴らしい!


 三番目ダウンは、スカルドラゴン。リルカルムが炎の魔法で爆砕させたようだ。


 次は、フローズンドラゴン。霜ドラゴンの脳天を白騎士ルエールが剣で貫き、仕留めていた。さすが二年前のトップ冒険者。


 フレイムドラゴンが倒れる。シガとカミリアが連携して、炎のドラゴンをダウンさせた。いいぞ現職冒険者!


 ……しかし、ここまでか。残るはストーンドラゴン、シャドードラゴン、ポイズンドラゴン。一番頑丈な奴と、影を移動する奴、毒をばらまく奴が残った。他の冒険者たちが立ち向かっているが、さすがに一、二回攻撃しただけで倒せる攻撃力はないようだ。


 まあ、個々の力でドラゴンを倒してしまう面々が異常なのかもしれないがな。

 とりあえず、割と近いポイズンドラゴンへ向かう。攻撃さえできれば、他の二体よりは倒しやすい。


 ポイズンドラゴンの周りに毒水が広がっていく。触れれば死ぬ猛毒。それがドラゴンの周りで水溜まりになると、近接武器を持つ者は、ドラゴンを攻撃できなくなる。しかし、弓などではドラゴンの外皮を破れない。


「あ、大公様! それ以上、近づくのは――」


 俺に気づいた冒険者が声をかけたが、もう遅い。俺は毒水に踏み込んだ。ブーツ裏が溶けるような嫌な音がしたが……悪いな猛毒のドラゴン。俺は不死身なんだ。


 跳躍からの、剣技『十』。俺めがけてブレスを吐こうと大口を開けようとしたところを縦と横に切りつける。飛び散る返り血。それすら毒を含み、付着したところが焼け、蒸気を上げる。


 一旦、毒水に着地、瞬時にジャンプ。ポイズンドラゴンの背中に飛び乗り、痛みにのたうつ毒ドラゴンの頭を……突くのは難しそうなので、無難に一閃。首を撥ね飛ばす。

 頭を失い、ポイズンドラゴンは毒水の上に体は突っ伏した。


 残りは!?


 ストーンドラゴンが横倒しになるのが見えた。ソルラとルエールが動き回っているのが見えたから、彼女たちが倒したのだろう。


 最後のシャドードラゴンは――冒険者総掛かりで攻撃していた。何だかんだ言っても、一度戦ったドラゴンだ。それぞれのパーティーで力を合わせて突破しているので、個々で敵わなくても倒し方は知っている。


 よしよし、これでこの階の敵性ドラゴンは全滅だな。ポイズンドラゴンの背中から跳んで、毒の水たまりを回避。――と、レヴィー!


 リヴァイアサンは、少女姿に戻っていたが、その場に座り込んでいる。思えば彼女は、ドラゴンからブレスの集中攻撃を食らったはずだ。いくらリヴァイアサンでも、まとめて食らえば無傷では済まないのでは――?


「レヴィー!」

「主」


 表情に乏しい彼女が、薄く笑った。


「無事だったね。よかった」

「ああ、お前のおかげだ。ありがとう、レヴィー」


 とっさに変身して注意を引いてくれなかったら、俺たちは全滅していた。


「怪我はないか?」

「平気。ちょっと焦げたけど、すぐ治る」


 ブレスの数発程度で倒れるドラゴンは弱い、とレヴィーは言った。もともと防御態勢が、無敵に近いリヴァイアサンはなおのこと強く、ブレスの集中攻撃でもかすり傷程度で済むという。


「そうか。無事でよかったよ」


 偽りない俺の本音だった。

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