第136話、46階と47階
「要約すると、ピラミッドは罠ですね。いかにも次の階へ行くルートであると見せかけて、入った者をトラップで殺すためだけにある仕掛けというやつです」
ジンが解説してくれた。
俺たち合同攻略パーティーは、ひいこら言いながら斜面を登り、ソルラが見つけた二つ目の魔法陣――入ってきた時とは別の、出口の前に到着した。
ルエールが言った。
「このフロアそのものが、トラップをテーマにしたフロアだったということね。高台と窪地、高低差とピラミッド。見えるものと見えないものを利用して、来る者を罠にはめるという」
ピラミッドの頂点と高台の天辺の高さが同じだったのも、意図したものだったのだろう。下に下りたら、次の魔法陣は見えず、ピラミッドに出口があると勘違いして突入してしまう。
ベルデが腕を組んだ。
「最初入ってきた時の真反対なのな。何で見えなかったんだろ……?」
「次フロアへの魔法陣の出現条件が、一度下に下りる、だったからじゃないかな?」
ルエールが顎に手を当てつつ、自身の推理を口にした。
「一度見た時はなかったから、一度窪地に下りてしまえば、たとえ魔法陣が発生していたとしてもわたしたちは気づかなかったと思う。悪質な罠よね」
あるいは、ピラミッドの天辺に立つと見えるようになる仕掛けかもしれない。高さからすると、天辺に行かないと高台の上も見えないから。
「よく天辺に行かせましたね、アレス――様」
「トラップを看破するとは、さすがです、アレス様!」
カミリアが絶賛する。いや、別に見破ったわけじゃなくて、第二の罠発動を警戒して、見えない反対側を偵察させただけだからね。
下から登ろうとしても、三方には柱が残っていて危ないし、向こう側は空堀から回り込むか、天辺に上がらないと見えない。空を飛べるソルラなら、高低差を無視して一気に上まで行けるから、時間短縮できるってだけだ。
ともあれ、合同攻略パーティーは46階をクリアした。ピラミッドに入っていたら、全滅コースだったかもしれないと思うと、選択ひとつで天国と地獄だった。
しかし、ピラミッド自体が罠。次の階へ行くための出口を導き出すまでに、7名の冒険者が戦死し、一人が腕を失う大怪我を負った。
これはさすがに一回の探索での被害が大きすぎる。仲間を失った者たちの心のこともあるので、今回は一階突破で離脱した。
「あの初見トラップは、回避不可能だよ。大公様じゃなかったら、もっと被害が出ていた」
シガはそう言った。
「あの柱を用心していてあれだ。警戒していなかったら、うちのリュウも真っ先にやられていたかもしれない」
先導したニンジャ――そういえば彼は、最前列にいたが、とっさに光線の回避に成功していた。恐るべき反応速度だ。
かくて、王都冒険者ギルドに戻り、46階の報告と、戦死者たちの慰霊を済ませ、その日は解散した。
仲間を失って悲しむ者がいる反面、復讐に気合いが入り過ぎている者もいて、冷静じゃいられない雰囲気を感じ取った。こういう気持ちが前のめり過ぎる奴が次に死ぬんだ。いつもなら落ち着いて除けられるものも、注意力が散漫になって、つい雑にやられてしまったり。
一度頭を冷やすべきだと判断した。一眠りすれば、気分も少しは落ち着くだろう。
・ ・ ・
翌日、俺たちは再び、魔の塔ダンジョンに戻った。
昨日は人数が増えて力強さを感じたのに、8人抜けたら、それ以上にごっそり減ったように感じた。……まあ、三人ほどこなかったからな。
46階の戦闘で、戦意を喪失してしまったのか、仲間の死が堪えたのかはわからない。だが来ない者を待っても仕方ない。俺たちは進まねばならない。
47階は、広大なる水たまり。来た時の魔法陣のある場以外は、すべて膝下までの水浸し階だった。
浮遊魔法が使えるものは浮遊を使って、水の上へ。リルカルムは杖を浮かせてその上に乗る。
「――で、次の階段か魔法陣はどこ?」
前も後ろも右も左も、ただひたすらに水面が広がっていて、目印になるものはない。もし見える通りなら、水平線の彼方まで水しかないのだが?
「ソルラ。上から見てもらえるか?」
飛行できるソルラが高度をとって、グルリと見回す。高い場所ならより遠くが見えるのだが――
「駄目ですね。どこまで行っても水面しか見えないです」
「……これ、正しい方向にいかないと、永遠に出られないやつじゃないか?」
一度探しに出て、入り口まで見失ったら迷子となって死ぬんじゃなかろうか。
「
「ん? なんだ、レヴィー……」
リヴァイアサンこと少女姿のレヴィーが俺の手を握った。いつもの絡まりたいってやつかな。
「こっち」
彼女は俺を引っ張って水をザブザブと歩き出した。どこへ行くんだ?
「魔法陣の場所がわかる」
「本当か?」
「水のことなら任せて」
さすが水の聖獣様。水に触れているだけで、探し物がわかるらしい。……というか、魔法陣は水の中パターンか! これ探すのがとても大変なやつじゃないか。
本来なら、次の魔法陣を探して、彷徨いまくる階だったようだが、レヴィーが案内してくれたおかげで、一時間ほどの移動で、転送魔法陣を発見した。本当に水の中かよ……。
道中、水の中をゆく蛇型モンスターに襲われたものの、やはりレヴィーの警告で切り抜けられた。リヴァイアサン様々。
フロアボスは多頭竜――ヒュドラだった。遮蔽物がなく、ブレスを吐かれたら逃げ場がなかったが、瞬時にそれを察した魔術師たちの攻撃魔法が集中。頭を次々に吹き飛ばされて、弱点が露出したと思ったら、そのままの勢いで攻撃を食らい倒された。
ほとんど瞬殺だったが、これもここまでくぐり抜けた強者揃いだから。そうでなければ先手を取られて大惨事だったに違いない。
あとレヴィー、お前の水魔法も凄かった。
「よくやったぞ、レヴィー」
「うん。……褒められた」
はにかむレヴィーに、俺たちもホッコリ。事情を知っているアルカンや鉄血メンバーは穏やかな顔をしていたが、それ以外の面々は不思議がっていた。
「気になっていたのですが……」
カミリアがおずおずと切り出した。
「この娘だけ、戦士というわけでもなく謎だったのですが、次の魔法陣まで見つけてしまって……。彼女は一体――」
「水の神様に仕える巫女様だ」
俺は適当なことを言った。
「加護を受けているから、水の中の物や事もわかるんだ。お前たちも敬っておけば守ってもらえるかもな」
「なるほど、それで魔法陣の位置がわかったのですね。お見逸れしました、ありがとうございます、巫女様」
カミリアらバルバーリッシュが頭を下げれば、レヴィーも「ん」と満更でもない顔をした。リチャード・ジョーらベガら事情を知っている者たちは、生暖かな目で見守っていた。
47階、突破だ。
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