第132話、冒険者たちの士気は高い


 王都冒険者ギルドは、45階を突破した。

 俺たち突入した冒険者たちは、一人の欠員もなく生還したことは非常に喜ばしいことだった。

 だって、これまでは誰一人帰ってこなかった場所だからね。相手の正体を推測し、それに対する対抗手段があれば、あっさり突破できるものだ。


「アレス様が、いらっしゃればこそです!」


 カミリアはそう上気した顔で褒めちぎるのである。


「それなくば、果たしてどれだけ生き残れたか。終わってみれば、なんてことはなかったので、あの人数でいけばおそらく突破はできたと思います。ただし、その大半は、石化の餌食になっていたでしょうし、ゴーゴン討伐にこだわれば、全滅もあり得ました」

「呪いで解除できる問題でよかった」


 いわゆる魔眼、邪眼というのは呪いの類いだからな。そうでなければ、カミリアの言うとおり、45階で脱落者が出ただろう。


「しかし、そういえば5の倍数階だが、ドラゴンはいなかったな」

「そういえばそうですね」


 ソルラが頷いた。


 魔の塔ダンジョンでは、5階ごとにドラゴンのフロアマスターが配置されていた。


「もしかして、別ルートに配置されていたりして」


 過去、ルート分岐で、フロアマスターは片方の道にしかいない、というパターンがあった。


「お言葉ですが、アレス様。あの階、石の城を回避できるルートはなかったと思いますが?」


 カミリアが指摘した。まあ、そうなんだがな……。

 どうあれ、突破は突破だ。もう二度と俺たちは行くこともない。


 俺たちが話しているそばで、ジンとマラディ、いやルエール・デ・トワが、『呪いの鎧』を組み立てていた。

 俺が呪いを取り除いたから、もう呪いの鎧ではないのだが、便宜的にそう呼ぶ。呪いがエンチャントされていたこの鎧、脱着方法が特殊であり、着込むとき、魔力を通すことで、足を入れたら、後は自動で全身を覆って装着させるらしい。


『まるで鎧に食べられるみたい』


 と、ルエールは独特の言い回しをした。装備を正しい位置につけていくジンとルエールを見ながら、ソルラは言った。


「足を入れただけで全身鎧が自動で装着って、便利ですよね」

「普通、騎士の全身鎧ってのは複数人で取り付けるものだもんな」


 冒険者たちが身につける鎧は、一人でも比較的脱着がしやすいようになっているが、装備の数にもよるが、そこそこ時間がかかるものだ。

 カミリアが首を振った。


「あのタイプは、間違いなく一人で脱着が不可能ね。……そういえば、アレス様が呪いを解いた時、ボロボロと装甲が落ちていきましたけど、どういうことでしょうか?」

「そりゃ、魔力で各部を繋いでいたからだよ」


 ルエールが、こちらの話を聞いていたらしく答えた。


「呪いが消えて、同時に魔力の繋がりがなくなったから、支えられなくなって勝手に外れたんだ」


 あの全身鎧のようで、関節部分が魔力接続だったから、中の人間には非常に動きやすい仕様になっていたらしい。可動範囲も広いそうで、あの見た目でよく動けたという。


「で、それを直して、どうするつもりなんだ、ルエール?」


 俺が疑問を口にすると、ルエールは肩をすくめた。


「そりゃ、アレス……様たちと、一緒に魔の塔ダンジョンを攻略に行くためさ」


 二年前の、王都冒険者ギルドトップ冒険者であるルエールである。


「皆が頑張っている時に、サボってちゃ、トップの名が泣くからねぇ」

「そうか、期待してるぞ」

「どうも、アレス……様」


 どうも様付けが、ワンテンポ遅れる。俺は呼び捨てでいいと言ったが、カミリアはじめ、一部の者が『それは駄目』と強硬に言い張っていたりする。


 うちのパーティーメンバーは許すらしいが、それ以外の者はケジメをつけろ、ということらしい。そういえば、うちの連中で、俺を様付けで呼ぶやついたっけ……?


 それはともかく、ここでダンジョン攻略組がまた増えた。

 45階突破時、ゴーゴンによって石化されていた先行冒険者たちも救出された。つい最近、消息を絶っていた冒険者パーティー『デグヴェルト』も石化を解かれて、復帰。以後の攻略に加わる。


 他にも救助された冒険者たちの中でも、仲間を失い立ち直れない者たちを除いて、攻略に参加する。元々ダンジョンをクリアしようと意気込んで45階まで挑んでいた者たちだったから、しばらくぶりの者も闘志は衰えていなかった。

 ここまで来ると、鼻っ柱の強い者たちも多いからな。規模は大きくなるが、皆、Aランクかそれに匹敵する実力者揃いである。


 実に、頼もしいことだ。



  ・  ・  ・



 大幅に増員された合同攻略パーティーは、続く46階へ挑んだ。


「こいつは……ピラミッドみたいですな」


 ジンが、その建造物をそう表現した。


「古代の王様の墓なんですがね。ああやって階段状に岩のブロックを積み上げて建てられたと」

「ダンジョンに墓とはね……」

「大きな墓標」


 リルカルムが皮肉げに言った。確かに巨大だ。他の冒険者たちもそのスケールに感嘆の声を上げている。

 俺たちは高台に立っていて、そのピラミッドは窪みの中にあった。その天辺が、ちょうど俺たちのいる高台と同じくらいの高さだ。なお見たところ、ピラミッドの頂点には、何も見当たらなかった。


「下から見上げたら、かなりのものだろうな」


 何せ石ブロックひとつでも大人の背丈を超える大きさ、大体2メートルくらいはありそうだ。それが延々と積み上がっているのだから、途方もない。


「次の階への階段……ではなく、転送魔法陣タイプになるか、この場合」

「ゴールはピラミッドの中ですかね」


 ジンが言えば、ベルデが口元を緩めた。


「どうかな? そのピラミッドってヤツは囮で、この四方の高台の向こう側に、案外あったりして」


 もしそうなら、高台から下ったら面倒なことになるな。割と斜面がきついから、下りも気をつけないといけないが、登るのはさらに大変そうだから。

 ウルティモのリーダーのシガが、振り返った。


「爺さん、あんたんとこ、使い魔出せるよな? ちょっと偵察してくれよ」


 爺さん――魔術師パーティー、グラムのリーダーであるマルダンは、顎髭を撫でながら頷いた。


「よかろう」


 見るからに魔術師といった高齢の男だ。よくここまで体力が保ったものだと感心してしまう。グラムパーティーから、使い魔らが飛び立った。それらはぐるりとピラミッドと、それを取り囲む高台の上を回って偵察を行った。


「――高台には何もないのぅ。しかし、ピラミッドの中腹に入り口らしい穴があった」

「中に入らないと、突破できないパターンかな」


 つまりは、一度高台から下らないといけないわけか。他になければそうなるよな。

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