第133話、ピラミッドに挑む


 というわけで、俺たち合同攻略パーティーは、ピラミッドにある入り口に向かうべく、高台を移動して、それが見える位置に来ると、緩やかだが結構長い斜面を下った。

 シヤンやベルデ、ウルティモの軽戦士たちが、軽やかに行く中、グラムの魔術師たちは浮遊魔法でゆっくりと降りていく。


 ここでも騎士系の比較的装備が重い者たちが、やや遅れる格好になった。


「リチャード・ジョー、大丈夫か?」

「この角度なら、慌てなければ問題ありませんよ!」


 そこまで急角度ではない。大盾持ちの中年冒険者たちも、一人怪しいのがいたが、まあ汗をかくようなものでもなかった。


「ルエール! そっちは!?」

「面倒なんで跳ぶ!」


 呪いがとれた呪いの鎧をまとい、重騎士といったスタイルのルエールが、斜面を勢いよく下りはじめて、底まで一気にジャンプした。……おいおい、大丈夫か? 着地の時、重量と衝撃で、足をやってしまわないか……?


「随分とせっかちですね、ルエール殿は!」


 カミリアが苦笑する。


「あ、大丈夫そうですね。さすがルエール殿です」

「いや、それは関係ない気も……」


 関係あるのか? ともあれ、斜面の終わりまで、転倒する者もなく、俺たちは底に到着する。


 空堀がある。かつては水でも通っていたのか? そこを超えれば、ピラミッドはすぐそこだ。

 先についていた軽戦士たちが、堀に身を潜めて、敵がいないか周りの様子を見ている。飛行するタイプのモンスターはいなかった。斜面を下る時も敵は現れなかったが――


「シガ」

「異常なし。静かなもんです。静か過ぎるくらいだ……」


 ウルティモのリーダーであるシガは首を振った。


「シヤン……獣人のネーちゃん、どうだ?」

「特に臭いはないのだぞ」


 シヤンも辺りを見回す。モンスターはいないらしい。またゴーゴンみたいな手強いのがいるかと思っていたが、敵はピラミッドの中か。


「でも、嫌な予感がしてきたんだぞ」


 シヤンの勘か。何かわからないが感じ取っているようだった。そういう嫌な予感の時は、要注意だっけか。


「嫌な予感というか――」


 ジンが追いついてきた。


「ピラミッドの段の中ほどにある、トーテムポールみたいな柱が見えますか? あれ、私が知るピラミッドにはないものです。注意したほうがいい」


 確かに、階段状に積み上がった石ブロックの段の中ほどに、妙な出っ張り――あまり大きくないが柱が数本立っているのが見えた。


「ただの柱ではないと?」

「だったら何だった言うんだ、回収屋?」


 シガが首を傾げた。


「罠ってことか?」

「そこまでは。……ただ、用心に越したことはないかと」


 確信はない。ただ悪い予感がする、というレベル。俺はシガに言った。


「ここはダンジョンだ。用心しよう」

「了解。それじゃ、行きますか?」


 堀を越えて、合同パーティーはピラミッドに挑む。リチャード・ジョーが、ゲッソリした顔になる。


「この段差を超えるほうが大変そうだ」

「階段があるだけマシだな」


 ピラミッド中央、例の入り口に繋がる位置に階段が伸びている。だがその段の多さは……百段は軽くありそう!


「気をつけろ! 柱が光った!」


 弓使いの一人が叫んだ。ジンが、ピラミッドとは関係ない異物だと言っていた出っ張りが、光っていた。まるで目のように赤い球から、線が伸びて、先頭を行くニンジャ――リュウに当たった。


「何だ、これは……?」


 リュウは自身の体をなぞる赤い光に怪訝になる。次の瞬間、柱がピカッと光った。


「ッ!?」


 その反射速度は超人的だった。リュウのいた場所を光の線が通過し、後ろから階段に登ろうとしていた戦士に当たった。


「あ――」


 一瞬のことだった。まばゆい光線に当たった戦士の上半身が消滅した。まるで光か熱の強力な攻撃魔法が命中して蒸発したように。


「攻撃だ!?」

「魔法を放つトラップか!?」


 柱から赤い光が伸びる。グラムのリーダー、マルダンが大きな声を発した。


「その赤い光の次に光の攻撃魔法がくるぞ! 逃げるんじゃ!」


 刹那、白い光が走り、またも冒険者が撃ち抜かれた。光線は四本。一人は即死、一人は躱したが腕を蒸発させられ、転倒。一人は下半身を失い、倒れる。最後の一人は、大盾を構えたが防いだと思った瞬間、盾が溶けてその騎士を貫いた。


「バラットっ!」


 リチャード・ジョーが叫んだ。盾持ちは鉄血のメンバーだったのだ。


「後退しろ! 一時後退!」


 俺が怒鳴ると、ジンが復唱するように叫び、それを聞いたカミリアも「後退!」と声を張り上げた。


 その間にも柱は発光し、ピラミッドを登ろうとした冒険者たちを撃ち抜いていく。光みたいな速度で飛んでくる攻撃である。そうそう躱せるものではなく、ギリギリ躱しても地面に当たり爆発したそれに煽られ、吹き飛ばされる。


「後退! 空堀に逃げ込め!」


 俺の後退指示は、冒険者たちに次々に伝わり、逃げながら『後退』を叫んでいた。空堀に身を伏せれば、柱の光線も届かない。

 時間にすれば、大したことはないのに、喉がカラカラで、皆、息も荒かった。


「何なんだあれは……!」

「くそっ、くそっ!」


 冒険者たちは突然起きた惨劇に、悔いたり悪態をついたりした。ジンが身を低くして移動してくるのを見やり、俺は言った。


「お前の言う通りだったな。とんだトラップだ」

「あそこまで酷いとは思ってませんでしたよ。……というか、誰も予想できなかった」


 初見で注意できただけでも上出来。ジンが指摘してなかったら、後退が遅れて、さらに犠牲者が出た。


「リチャード・ジョー?」

「バラットがやれました!」


 戦友を失い、目に涙が浮かんでいた。しかしその表情は、仲間を奪った柱への怒りがあった。


「……何人やられたんだ」

「五、六人くらい」

「もっとやられた」


 冒険者たちが口々に言った。くそ――ゴーゴンも厄介だったが、もっと厄介な仕掛けが待ち構えていた。さすがは46階だ。

 それでも、俺たちは、それでもここを突破しなくてはならない。仇はとってやる!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る