第129話、マラディの正体
魔の塔ダンジョンの45階、突破! 石化対抗できるのなら、案外大したことなかった。
やはり敵の正体がわかり、その攻略方について徹底されれば、歴戦の冒険者たちならば何とかなってしまうものだ。
パーティー全体に消耗はほとんどなく余力もあるのだが、助けた先駆者たちを一度、王都冒険者ギルドに戻した。
中には数年ぶりの帰還ということもあり、その間に変わってしまったギルドや王都などを受け入れてもらう必要があった。……後、復活不能で結局助けられなかった仲間を弔うことも。
城の主であるゴーゴンたちの気まぐれか、あるいは戦闘の余波か、破壊された石像も少なくなかった。石像から戻ったら、敬愛する戦友が死んでいたとか、ショックとしか言いようがない。
生還を祝う者もいたが、仲間を喪失した悲しみに暮れる者たちのほうが多かった。かつてのトップクラス冒険者パーティーの帰還にも、ギルドでは素直に喜びの声を上げることができず、スタッフたちも困惑していた。
俺のもとにソルラがきた。
「あの人たち、立ち直れるでしょうか?」
「彼らも冒険者の中じゃAランク級のエースばかりだ。これまでにも仲間の死とか経験していると思う」
ただ、環境が激変してしまい、まだそれに感情が追いついていないのだろう。あるいは、経験が豊富だからこそ、張り詰めていた最後の糸が切れてしまうこともある。生死のかかった戦いを繰り返せば、人の心は消耗していく。
酒に溺れたり、異性を抱いたり、生存本能と暴力本能の狭間で精神を病んでいく、などなど。そこで長年の戦友を失えば……立ち直れないかもしれないな。
カミリアがやってくる。
「彼らも名の知れた冒険者でした。まだ攻略への闘志を持ち合わせているとよいのですが……」
「本人たち次第だな。こればかりは、どうしようもない」
俺は頷くと、視線を転じた。
そこには二メートルにも達する長身の黒騎士が、俺たちのそばに佇んでいた。マラディは魔の塔ダンジョンから戻ってからも、何故か俺たちの近くにいた。シヤンとレヴィーはやはり、そんなマラディにガンを飛ばすように凝視している。何かおかしな動きがあれば襲いかかる、そんな風にも見える。
まあ、彼女たちが警戒する理由はわかる。マラディがまとっている全身の呪いのせいだろう。
鎧のおかげか、一見すると呪いのオーラがわからないが、マラディは正真正銘、呪い持ちだ。喋らないのではなく、喋れないのでは、と俺は思っている。
「さて、マラディ。ずっと俺たちのそばにいるのは、『呪い』を解除してほしいからか?」
呪い!?――カミリアが身構えたが、ソルラがそれを止めた。首を横に振って、手を出すなとカミリアに合図する。世間じゃ呪い持ちを、病気のように忌避するところがあるからな。カミリアの反応も、その典型だ。
俺が見上げると、暗黒騎士はコクリと頷いた。そうかそうか、やっぱり呪いを解いてほしくて、俺の周りにいたんだな。
俺が石化の呪いを解除しているところを見て、自分の呪いももしかしたら、と考えたのだろうな。
俺も呪いには気づいていたが、中には俺のように呪いを使いこなしている者や共生している者もいるから、言われなければ解除はしないんだけど。
「それならば、呪いを解除してやろう。……カースイーター」
マラディの呪いを解く。黒い甲冑から色が剥がれ落ち、白い甲冑に変わる。見守っていたソルラとカミリアが目を見開く。
純白の鎧。そしてそれらがボトボトと落ち始めた。中の人間が光りの中、小さくなる。逞しい体つきは、みるみる女性のそれに変わっていく。白銀の髪の少女――
「ルエール・デ・トワ!? まさかっ!?」
その声を上げたのは、冒険者ギルドのギルマス代理のボングだった。突然、フロアで光ったから様子を見に来たのだろうが、……ルエール、誰?
「ルエールだと!?」
聞きつけた数人が駆けつける。そのルエールという少女から鎧がはずれ、前のめりに倒れかかったので、とっさに抱きとめる。
「ボング、教えてくれ。この娘、知り合いか?」
「知り合いも何も、かつてこの冒険者ギルドでトップ冒険者だった人ですよ!」
ほう、トップ冒険者ねえ。……でも、かつてとは?
「二年ほど前に、魔の塔ダンジョン攻略中、未帰還となって……。おそらく死亡しただろうと思われていたのですが……まさか、生きていたなんて」
ダンジョンで失踪、戦死だろうと思われていた人物だったようだ。なまじトップ冒険者だったから、ボングも覚えていたということか。
まさか、呪いによって暗黒騎士になっていたなんて、誰も気づかなかったらしい。呪いの中には、声を奪うものもあったから喋れなかったのも納得でき――おっと何だこれ、自分のことを明かすと死ぬ呪いだって? なるほどなるほど……。
俺は彼女から取り除いた呪いの種類と効果を確認して得心がいった。こりゃ正体明かせないな。
・ ・ ・
場所を変えて、ギルマスの執務室。死の呪いも取り除いたことを、ルエールに伝えた上で、事情聴取を開始。場には俺とボング。カミリア、ソルラの他、鉄血のリチャード・ジョーら、ルエールを知る者たちが数人いた。
「まずは、助かったよ、ありがとうアレス――ヴァンデ大公」
元来、気さくな性格なのだろうか。名前呼びして、大公であることを聞いたのを思い出して、付け足した感じだ。銀色の長い髪をなびかせ、全身から光というか活力が溢れてでているような女性だった。
「そうかぁ……二年か。マラディと名乗って活動して……うーん、記憶がほわほわしていて、あんまりよくわかっていないけど、とにかく助かった。ありがとう」
ルエールは頭を下げた。
「で、どうしてわたしが呪われたかを聞きたいんだろうけど……。単刀直入に言えば、邪教教団の連中に捕まって、あの呪いの鎧を着せらてしまったんだ」
「呪いの鎧」
「そうさ。最初から呪われていたわけじゃなくて、あいつらが呪いを付与したらしいんだけどね。邪教教団の連中は、実験体とか言っていた。操り人形というか、命令に忠実な戦士を作ろうとしていたみたい。中に優秀な戦士とか魔法使いを放り込んでね」
呪いの効果で、殺さない程度に中身を延命させつつ、ゴーレムなどより細かな命令にも忠実に対応できる戦闘兵器を、邪教教団は作ろうとしていたらしい。
「連中にとって、ここが欲しかったんだろうね」
ルエールは自身の頭を指さした。つまりは頭脳。しかし邪教教団も脳味噌を取り出しても、そこからどう使えばいいのかわからず、人を呪い漬けにして使う方法で試していたらしい。
「気づけば、魔の塔ダンジョンの外にいた。捨てられたのか、自分で脱出したかはわからないけど、特に命令もなく日々を過ごした。冒険者になって、魔の塔ダンジョンを攻略していたのも、呪われる前の記憶のせいじゃないかなー、と今では思う」
本能という部分で、冒険者を続け、何だかんだ45階まで辿り着いていた、と。さすが元トップ冒険者。本能だけで、クリアするとか凄いな……。
しかし、呪いの鎧か。
邪教教団モルファーの連中なら、いかにもやりそうな話だ。実験体ということは、まだ連中はこの呪いの鎧関係のことに手を染めているのだろうか……?
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