第127話、番人攻略の糸口


 お試し、というと何やら不謹慎な気がしないでもないが、石化が解けるかどうかやってみようと思う。


 俺は周囲の石化されている像を改めて見直してみた。しかしパッと見だと、ただの石にしか見えない。

 石化の呪いを操れるとはいえ、石になってしまったものを戻すというのはまた違うのではないか、とも思う。……しかし、リルカルムの封印の石化は解除できたんだよな。


 呼吸を整えて、できると信じて、解呪を試みる。呪いによって石となった者よ、元の姿に戻れ。


「おおっ!?」


 周りで声が上がった。俺の目の前で、石像だったそれが肌の色を取り戻していく。ほのかな光と共に、石だったそれが人となった。


「戻った!?」

「凄い、本当に人に戻ったぞ」


 石から戻ったその人間――戦士は、力なくその場に倒れる。意識がないようだ。

 カミリアが「ミルス」と仲間の騎士に呼びかけると、倒れている戦士に歩み寄り脈を見る。


「どう?」

「……生きてます」


 おおっ、と冒険者たちから驚きの声が出た。カミリアは「治癒魔法を!」と、ヒーラーに指示していた。

 周囲を警戒している者たち以外で、ここの出来事を見守っていた者たちが感嘆している中、ソルラは言った。


「アレス、ここの石像――」

「助けられるなら、助ける」


 俺は近くの石像――見るからに石にされましたという風のものから、石化解除を行っていく。


 人が石から元の姿になっていく姿に、冒険者たちはお祭り騒ぎになりかけるほど興奮していたが、ウルティモのリーダー、シガがそれを諫める。


「ここは敵地だ! 暇があるなら、警戒か手当てのどちらかを手伝え!」


 いつ、敵――石化の呪いを振りまくゴーゴンが襲ってくるかもしれないのだ。


 石化を解かれた者たちは、皆意識を失っており、一カ所に集められて、ヒーラーたちに回復魔法をかけられていた。

 敵のこともあるが、俺も慌てず、しかし急いで解除して回る。この場で元に戻した人数は十人。一通り終わり、後は意識が戻るのを待つだけだ。


 その間、俺たちは石の城を警戒している前衛たちのもとに行く。

 大盾を構えて睨みをきかせている鉄血のリチャード・ジョーが、俺に気づいて振り返った。


「終わりましたか?」

「とりあえず、ここで固まっていた者たちはな」


 まだ意識は戻っていないが。


「前進しますか?」

「できれば、石化されていた者から情報が欲しい」


 本当に敵はゴーゴンなのか。どういうふうに石化されたか、などなど。


「視線でやられたのか、あるいはその姿を見ただけで駄目なのか……その辺りも含めて」

「見ただけでやられるのだと、ちょっと手のうちようがありませんな」


 リチャードは唸る。攻撃しようとなると、どうしても敵の姿を見ないといけないから、目視できないとなると、攻撃を当てるどころではない。


「アレス様!」


 後ろで呼ばれた。どうやら誰か意識を取り戻したらしい。俺はリチャード・ジョーらに見張りを任せて、仲間たちのもとへ戻った。



  ・  ・  ・



「クリバンだ。パーティー『リンカム』のアーチャーだ」


 意識を取り戻した冒険者は名乗った。カミリアやシガに確認したが、知らないとばかりに首を横に振った。……結構前のパーティーのようだ。


「リンカムを知らない? 本当にお前ら冒険者なのか?」


 クリバンはビックリしていた。未開の45階にこれる実力者だ。おそらく当時は、王都冒険者ギルドのトップパーティーだったのかもしれない。


「クリバン、大事な話だ。この階を突破するために必要な情報だ――」


 情報、と聞いて、クリバンの眉がわすかに動いた。カミリアが睨みつける。


「こちらはアレス・ヴァンデ大公閣下だ。失礼のないように」


 トップ冒険者パーティーだから、自分たちの得た情報を共有するのを渋るのでないか、という考えから釘を刺したのだ。

 だがクリバンは別の驚きの声を上げる。


「アレス・ヴァンデ……大公? え、伝説の王子の名前? えっ?」


 そこからだよな。話せば長くなるので、手短に済ませた上で、再度、情報収集。


「――敵はゴーゴンだと思われるが、相手を見たか?」

「見た、というか……。あれがそうだったというなら、見ました。女のようでした。でも遠かったし、それくらいです。暗くてよく見えなかったし」


 石化冒険者からの証言は、敵が石の城にいること、かなり遠くからやられたことくらいだった。


 それから石化から復活した冒険者たちが、回復魔法で次々に意識を取り戻し始めた。やはり、俺のことを含めて、石化されて数年とかいう者もいて、混乱している者も多かった。わかる。俺も復帰したら五十年経っていたからな。

 何とか証言をとって、まとめると――


「どうやら敵は、こちらが見た、見ないに関わらず石化させることができるようだ」

「ただし、視界に入ったら無条件で石化するわけではなく、ゴーゴン側で意識しないと発動しないようですね」


 ジンが言った。ゴーゴンと正面と対峙して、睨み合ったという冒険者がいた。その者曰く、敵の目が光ったら、石化されたらしい。


「石化魔法みたいなものですね」

「呪いなんだけどな」


 あとどうやら、敵は複数体いるらしい。ジンは首を横に振る。


「そっちのほうが厄介ですね。連携されると面倒だ」

「だが、こっちだって人数はいるんだ」


 シガが挑むように言った。


「こっちには大公様がいて、石化の呪いだって解けるんだ。何人か石化しようが、そっちに注目しているゴーゴンの隙を、他の奴がついて倒せばいい」

「その通り」


 カミリアが自身の胸を叩いた。


「こちらにはアレス様がいらっしゃいます。数体程度のゴーゴンなど、もはや恐るるに足らず! 我々は今日、この45階を突破できます!」

「おおー!!」


 冒険者たちが気勢の声が重なった。うん、カミリアは盛り上げ上手だな。

 よろしい、ゴーゴン退治と行こう。

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