第118話、カミリア・ファート
魔の塔ダンジョン未踏である45以降の攻略について、王都冒険者ギルドで、合同攻略パーティーの話し合いが行われる。
これまでは個々のパーティーでの攻略が行われてきたが、45階を制覇するパーティーは現れないまま、攻略は停滞していた。
むしろそこまでくぐり抜けてきた歴戦冒険者たちが失われ続けていることも、ある種の危機感を抱かせている。このままのやり方では、駄目なのではないか、と。
その打開のきっかけは、ギルド曰く、俺が45階で集まって一緒に戦おうという呼びかけだったという。
あの時は未熟なものをゾロゾロ引き連れても効率が悪いからと、志願してきた冒険者たちを散らす方便で俺は言ったのだが、高レベル冒険者を束にして攻略したほうがよいのでは、と冒険者ギルドに判断させたようだった。
俺としても40階以上を突破できる者たちなら、未開拓のダンジョンにも挑める技術や力を持っていると思うから、ギルドの話に乗った。……そもそも、言い出したのは俺だしな。
果たして、45階に達した熟練冒険者たちとは。内心ワクワクしながらギルドに行ってみれば――いるいる冒険者たちが!
「……何か聞いていたより多くね?」
ベルデがざっと見回して言った。ギルドフロアには、どう見ても初心者な冒険者たちもいて、ざわついている。
「何かあったのかな?」
俺たちがやってくると、壁際や掲示板の前にいた冒険者たちが、静かになったり、逆に仲間たちと声を落として話したりしている。何だか、野次馬が多そうだな。
これはあれかな、王都冒険者ギルドでも精鋭が集まるからと、見物しにきているのかもしれない。
「アレス様」
ギルマス代理のボングが、こちらと言わんばかりに手を振った。その傍には、一目見ただけで熟練間漂う冒険者たちがいた。周りのギャラリーたちとは、雰囲気から違う。
装備もそこらの販売品とは違うダンジョンからの掘り出し物や、専用にカスタマイズさらたものと思われ、適度な傷みなど、如何にも歴戦の勇士のように映った。
アルカン、鉄血の面々もすでにいた。青、緑、オレンジなどそれぞれ異なる色の魔術師ローブと帽子を身につけている者たちが、魔術師パーティー『グラム』だろう。そして、その反対側にいる軽戦士たちが『ウルティモ』か。
「俺たちが最後……ではなさそうだな」
「はい、バルバーリッシュがまだ――」
ボングが言って、しかし、すぐにギルド入り口を見た。
「おや、到着したようです」
噂をすれば、だな。先頭を行くのは、白銀の甲冑をまとった女騎士。……ほう、あれがファート伯爵令嬢か。凜々しくあるが、童顔の少女だ。屈強な女傑かと予想していたが、可憐な乙女だった。
彼女は、近くの冒険者に何事か尋ねる。その冒険者は俺を指した。ああ、噂の大公が誰か確認したんだろうな。俺と彼女は初対面だ。
合同攻略パーティーの話し合いがまとまり、リーダーを誰かにするとしたら、身分的に俺か彼女という流れにもなるだろうし。
ファート伯爵令嬢と目があった。というより、彼女は俺をじっと見つめている。そんなジロジロ見ると、何だか照れるな――
その時、すっと伯爵令嬢の視線が鋭くなった。シヤンもとっさに身構える。
「アレス!」
獣人娘が叫んだ時、ファート伯爵令嬢は剣を抜いて、俺にその切っ先を向けてきた。
「噂になっている大公とは貴様かっ!」
いきなり恫喝された。ボングは慌てた。
「カミリア様! 突然どうなされた!?」
「ボング・ギルドマスター! そのアレス・ヴァンデを名乗る偽者からすぐに離れなさい!」
「偽者……?」
俺とボングは、とっさに顔を見合わせた。え、どうしてそうなった?
「無礼です!」
ソルラが剣の柄に手をかけ、抜剣できる構えをとった。
「アレス・ヴァンデ大公閣下を、あろうことか偽者呼ばわり! それでも貴族の娘ですか!?」
「あなたたちこそ、目を覚ましなさい! アレス・ヴァンデ王子殿下は五十年前に亡くなられた! わたくしたちが生まれる前に!」
いや、別に死んではいないのだが……。世間では、一応死んだことになっているみたいだが、こうして帰ってきたら、皆俺を認めてくれた。帰還の噂も広がって、生きていたと周知されていると思っていたが、まだそれを知らない者もいたか。
「本物のアレス様ならば、ヴァルム王陛下よりご年配だ。しかし、そこにいるのは陛下よりも遥かに年下ではないか! 本物であるはずがない!」
ざわっ、とフロアが騒然となった。言われてみれば確かに、そうなのだが、この姿も呪いの影響だしな。現にあり得ないと言われても、そうとしか言えないのだが。
「しかもよく見れば、呪い持ち! 貴様はわたくしが尊敬するアレス様の姿をした悪魔だな! 五十年前の復讐か? 悪魔討伐をされたアレス様になりすまし、王国の地を荒らしにきたか! 天にかわって成敗してくれるっ!」
今にも突っ込んできそうなファート伯爵令嬢――カミリア。
だがその前に遮る者たちが現れる。リチャード・ジョーら鉄血メンバーが盾を構えて、俺を守る。
「閣下、お下がりください!」
「どきなさい! 悪魔を守るな! いや、さては悪魔に操られているのだな!? 卑劣な手を使う奴だ!」
「お前! 我らが大公閣下になんたる暴言!」
「娘! そこに直れ!」
ベテラン冒険者たちが、俺をかばって声を荒らげるが、カミリアは聞く耳を持たない。
「そこをどきなさい!」
「お前こそ下がれ!」
鉄血メンバーが吠えれば、カミリアの仲間であるバルバーリッシュのメンバーとも睨み合い、一触即発の空気になる。
事態を静観していたリルカルムがボソリと言う。
「どうするのよ、これ。アレス、あの聞き分けのない娘、ワタシが泣かせてあげようか?」
「まあ待て」
俺は、災厄の魔女さんに介入させないようにしつつ、鉄血メンバーたちの後ろまで前進する。
「カミリア嬢。私は本物のアレス・ヴァンデだ」
「黙れ、悪魔!」
「とりあえず、ここでバトルはギルドにも迷惑がかかる。裏の演習場で、お話をしようか」
「……」
カミリアは怒りのこもった目で俺を見つめてくる。本気の感情をぶつけられている。いつでも飛びかかれる彼女が襲ってこないのは、前に鉄血の面々が盾を構えて守っているからだろう。
それがなければ、提案どころではなかったかもしれない。
「……いいだろう」
カメリアは、剣を向けたまま言った。
「裏で殺してやる、悪魔。アレス様を騙った罪、万死に価する。……行け」
さあ、裏で続きと行こう。
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